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30.「合同授業にて①」


 

 午後は、入学して初めての合同授業だ。



 アルカナ・ルーン・セレスの一年生、三クラス合同——合計六十名。


 箒の練習にも耐えられるほど天井の高い実技塔が、反響する生徒の声でにぎやかになる。


「いいかー! 浮遊魔法は力じゃない、バランスだ!」


 浮遊実技担当のエルド=ディーブル先生の元気な声が塔に響く。


 合同授業は、各クラスの親睦を深めるという名目のもとに行われる。


 だが実際のところ、教師たちが一度に生徒たちの能力を見極めるための場でもあった。


 才能の差はもとより、得手不得手から個々の交友関係まで、この広い空間ではまとめて注視することが出来る。

 ようやく学園生活に慣れてきた一年生は、今後は週に一、二回の頻度で合同授業となる。


 教師にとっては効率の良い観察の機会であり、生徒にとってもまた、他クラスの生徒と関わり合い、切磋琢磨できる貴重な時間だ。



「今日は全員、あの窓の高さまで飛べるようになろう!」


 エルド先生が指し示したのは、大人二人分くらいの高さの窓。

 サクラを含む、箒乗りが苦手な者たちの顔に一様に不安の色が滲んだ。


「大丈夫だ、今日はこんなに生徒がいる! 得意な者は苦手な者に教えるように! 人はな、教える事によって自身も成長が出来るのだ!」


 そういって、ガハハ、とエルド先生は豪快に笑った。



「うう……」


 それぞれがふわふわと浮いたり、自由に飛び回ったりしている中、箒の柄を握りしめて、サクラは億劫な溜息を漏らす。


 魔法は全て苦手だが、とりわけ、箒は特に苦手だった。

 バランス感覚が悪いためか、どうしてもふらついてまともに浮上できない。

 高いところがちょっと苦手だということも、この箒乗りの授業で初めて知ったくらいなのだ。


「サークラ~」


 上から、のんきな呼びかけがあった。


 箒に横座りをしたルナナが、サクラの頭上をふわりと横切ったり、くるくると回ったりしている。


「ルナナ! すごい、自由自在!」

「今はじめて乗ったんだけど~面白いねぇ」

「……う、ん……」


 授業に真面目に出ていなかったルナナは、箒の授業がはじめてだったのだろう、それでいて、この乗りこなし様である。


(天才は、やっぱりそういうとこも天才なんだねえ……!?) 


 内心挫けそうになるサクラだったが、奮い立って箒に跨り、魔力を腕に込めるように呪文を唱える。



「えっと……風と光、導きの道、フロート・ライン……!」


 ふわりと浮いたと思った瞬間、箒がくるりと回転した。


「ぎゃわ!」


 捲れるスカートを片手で気にした瞬間、そのままドスンと床に落ちる。

 実習棟の床はモチモチとしており普通に落ちたくらいでは痛くはないのだが、思わず臀部をさする。

 


(……うーん……やっぱり難しい)


 箒に跨るという行為そのものが、人間として間違っている気がしてくる。


 そもそも、普通にベタ座りをすると、柄が股にダイレクトに当たって臀部まわりが痛い。

 腕で支え腰を浮かせて足でバランスをとる事でそういう痛みからは解放されるらしいが、生憎そんな運動神経はない。

 もっと上手いとルナナのように横座りが出来るのだろうが、サクラは両手でまっすぐに柄を掴む事でいっぱいいっぱいだ。


(座る場所にクッションつけたらダメかな……)

 

 まだ、自分の箒が持てない一年生には出来ないカスタマイズだが、上級生の中には自分の箒に飾りをつけている者もいる。

 クッションは見たことがないが。


 ふっと周りを見ると、指定された窓よりずっと高く飛んでいるメリアの姿が見えた。

 視界の端に同じく高く飛ぶユーリの姿があり、昼間の事を思い出してサクラはモヤッとする。

 

 自分以外の全員が上手く飛べているように見えてしまう。

 実際には、サクラと同じく地上でしょぼくれている生徒も何人かいるが、それに安心してはならなかった。

 

 

 ここに来る時、決めたのだ。

 ツツジの代わりとして、最後までやり抜くと。

 彼女の代わりに卒業するのだと。


 自分の気持ちは二の次でいい。

 ツツジに恥じないように——そうでなければ、ここにいる意味がなくなってしまう。


 自分は本来、ここに居るべきではない人間なのだ。

 




 サクラは、箒をまたぎながら、何度も深呼吸をした。


 浮くだけならなんとか出来る。上昇して、進む——。




「風と光、導きの道——フロート・ライン!」


 箒が軽く浮き上がる。今度こそ、と気合を込めて重心を前に置く。




 しかし次の瞬間、箒はぐらりと傾き、進む方向を見失った。




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