29.「様子のおかしい嘘つき②」
ポカポカと、日差しが三人を暖かく包む。
ルナナは何度も欠伸をすると、うにゃうにゃとつぶやく。
「ん~……眠い~もう帰っちゃいたい……」
「だ、だめだよ!? 初日からそれはだめ!」
「どっちか、目を覚ます魔法早く覚えてよ~」
「お前な……」
自由奔放は改める気がなさそうなルナナに、スグルのため息が中庭の片隅に消えていく。
その時——
「なんという運命の再会!」
どこか芝居じみた声が中庭に響き渡った。
噴水のしぶきの向こうに立っていたのは、金の髪を光に揺らす男子生徒。
ローブの裾が風をはらんで翻り、碧い瞳が光を返す。
まるで舞台から抜け出してきた王子様のような、わざとらしいくらいに映える完璧な立ち姿だった。
「……レイトンくん?」
サクラが思わず声をあげる。
昨日、階段を踏み外したサクラを助けてくれた男子生徒だ。
ユーリ=レイトンは、ニコッと笑うと軽やかに歩み寄り、まるで物語の一幕のようにサクラの前で片膝をついた。
そして、キラキラした瞳でサクラを見上げる。
「覚えててくれたんだね、サクラちゃん。昨日、階段で僕を見下ろしてくれた、女神!」
「落ちかけただけだよね!?」
「君が落ちてきたとき、僕は思ったんだ。——ああ、運命の女神だって」
「う、運命……っ」
なんだか気取ったセリフに、耐性のないサクラの顔が一気に赤く染まる。
目の前で繰り広げられる白々しさ満載の寸劇に、スグルの眉間が目に見えて皺を刻んだ。
ルナナまでスグルと同じ顔をしている。
ユーリはにこりと笑い、サクラの右手をそっと取る。
流れるように優雅で、上流階級のような所作だ。
学生ローブではなく、上質なマントでも羽織って王冠でも頭に載せれば、誰しも皇子だと思うだろう。
「今日の姫はご機嫌いかがかな」
「ちょ……!?」
手の甲に唇が触れる寸前、サクラの腕がぐいと引き上げられる。
スグルがその手首を掴んでいた。
掴む力は強く、痛みすら感じるほどだ。よほど苛立っているのだろうか。
サクラが呻く前に掴んだ手を離すと、スグルは無言のまま立ち上がり、片膝をついたままのユーリを見下ろした。
「挨拶するのはこいつにだけか、色男」
あからさまに機嫌の悪いスグルと、何か警戒するような目つきのルナナに睨まれて、ユーリは両手を上げた。
その場の空気がピンと張り詰めたが、ユーリは逆に目を輝かせる。
「えー? じゃあ君たちにも挨拶しようか?」
ユーリは軽口を叩き、スグルの手を取ろうとする——が、乱暴に振り払われた。
ルナナはちゃっかりサクラの後ろに隠れてしまう。
「おやおや……生徒会長さんは忠犬が二匹もいるんだ、頼もしいね」
「な」
手首をさすりながら茫然としていたサクラも、その言葉で顔色を変えてわなないた。
「なんで、知っ……」
他の学生で知っているのはまだメリアだけのはずだ。
未だに予備のローブで歩いているサクラが生徒会長だなどと、バレることはないと思っていたのに。
「別に大したことではないよ。君が生徒会の紋章をつけて学園長室から出てくるのを見ただけさ」
任命された日か。
そういう所を見られていたとは思わなかった。
げんなりした顔のサクラを見て、スグルの視線がさらに険しくなる。
「それで、これ以上何か用でもあるのか」
「んー、そうだね」
ユーリは唇に指を当てて、いたずらっぽく笑った。
「僕も、生徒会の役員に入れてよ」
「……は?」
スグルの口から、心の底から嫌そうな声が漏れた。
「えっ、えっ!」
おろおろと、スグルとルナナに視線を向けたりユーリに戻したり、サクラもわかりやすく狼狽えた。
「いやぁ、実はね。サクラちゃんに会ってから、ずっと運命を感じてるんだ。可愛いし!」
「かわ……っ」
急な誉め言葉にサクラは赤くなって固まり、ルナナは半目であきれたように欠伸をした。
「嘘だけど」
「え?」
涼しい笑顔のまま、ユーリは手をひらひらと振った。
「じゃ、またね、生徒会長さん」
金髪が風にきらめき、彼は噴水の向こうへと去っていく。
残された三人は、まるで夢でも見たかのように呆然と立ち尽くした。
「ど、どこからどこまで嘘だったのかな!?」
生徒会入りの希望?運命の女神?可愛い?
またもやユーリに感情を引っ掻き回されて頭を抱えるサクラに、スグルは冷たく言い放つ。
「全部だろあんなの」
「あいつ、ヤな匂いするからきら~い」
「風呂入ってねーんじゃねーの」
「そうじゃなくて~。嘘の匂いがする~」
同じルーンクラスであるルナナは、既に彼の事をよく知っているとでも言いたげだ。
嘘の匂いというものがどういうものかと聞こうと思ったが、聞いても自分にはわからないだろうなと自己完結して、サクラは大きくため息をつく。
せっかくの昼休みがどっと疲れる時間になってしまった。




