28.「三人になった昼休み」
翌日、昼休み。
昼食後、のどかな昼下がりのオーリッド魔法学園の中庭に、珍しい人影が現れた。
「はろ~」
サクラとスグルのいつもの中庭ベンチ会合に、ルナナがひょこっと顔を出したのだ。
「ミ……ルナナ!」
いつも授業をスルーしているルナナが、今日は朝から学校にいるらしいことはメリアから聞いていた。
長い青髪を揺らし、ブカブカのローブ姿のまま、ルナナは二人の背後からのぞき込んでくる。
「ちゃんと授業受けてるんだね、すごい」
サクラが素直に褒めると、ルナナは二人の間にすとんと座り、ふにゃ……とサクラにしなだれかかる。
大きなあくびをして、無遠慮に体重をかけてきた。
「眠くて眠くて、死にそうだよォ~」
「……毎日死ぬほど寝てたんだろ、お前」
スグルが低くつぶやく。相変わらず、ルナナへの警戒は隠そうともしない。
まだ彼女の事を良く思ってはいなさそうだ。
「今までは毎日どこにいたんだよ」
わざわざ魔法で探さなきゃならないほどに、姿をくらましていたルナナに問う。
「今まで? クリアリーフの森で寝てた~」
召喚の魔法陣を描いたり等の独学もしていたのだろうが、ルナナはそれだけ言うと目を閉じる。
「昼間の森の中って、誰も来ないしさ~」
「…………」
許可が必要な場所に気軽に立ち入るほど、魔法学園の生徒たちは軽率ではないという事だ。
サクラは苦笑しながら、もたれかかるルナナの頭を支えるように肩を貸した。
人の頭の重みと、ルナナの髪から漂う花の香りがとても心地良い。
こうやって親しく寄ってこられるのは、正直とても嬉しく感じる。
「ちゃんと授業に来ただけ、えらいよね」
「甘やかすな」
サクラが褒めると、スグルの声はわずかに尖った。
ルナナがサクラにぴったりくっついているのが、妙に目につく。
二人の間に割り込んで座ったのも、なんとなく解せない。
それでも、懐かれたサクラはどことなく嬉しそうにしているので黙るしかない。
サクラは肩にもたれたルナナの髪を指で軽く整えてやる。
ツツジにこうされた事があったなと、懐かしく思い出しながら。
「うん、でも、ほんとにすごいよ。進歩だよ。来てくれて嬉しい」
サクラが素直に伝えると、ルナナはニシシ、とローブの裾で口元を隠して笑った。
「だって二人に会いたいな~って思ったんだぁ」
「え、わ、私たちに?」
サクラが頬を赤らめて目を丸くする。
「パパとママみたいで~」
「えぇ……」
その例えはどうだろうか。
さすがに困惑して首をかしげるサクラ。
その隣で、スグルが飲みかけのボトルの水を豪快に吹いてむせていた。
「学校にいる間は、パパとママって呼んじゃおうかなぁ~」
「そ、それはちょっと……」
もちろん冗談なのだろうが、やはり掴みどころが難しい子だ。
サクラは苦笑いで流すが、スグルはルナナを睨みつける。
「……お前、からかってるだろ」
「ん~、どうだろ~ あっ、パパってば昨日ルームハーブをモナモナに変えたね!」
「……」
先日、ルナナに匂いを悟られた事を気にしたのだろうか。しかしまたも言い当てられたようで、スグルの表情が歪む。
「おもしろ人間、私だーいすき」
言い返す言葉が浮かばず黙り込んだスグルに、ルナナはウヒヒと笑うと、再びサクラの肩で目を閉じる。
春の風が三人の間を吹き抜け、髪がそっと揺れ、木漏れ日がその間を照らす。
サクラとスグルも顔を見合わせ、なんとなく気まずくなり、互いに正面を向く。
中庭の静けさの中で、ほんの少しだけ、三人だけの時間が流れた。
それは、喧騒の学園ではめずらしい、穏やかな昼の空間だった。




