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24.「クリアリーフの森④」


 

 ルナナ=ミスティは、生まれ落ちた瞬間に召喚陣に囚われた娘だった。


 

 人攫いが誘拐のために行った、人身召喚の犠牲者。


 産みの母はさぞ錯乱したに違いない。

 赤子は、黒魔法が使える犯罪者の手によって、世界のどこかからラバンフィードの地へと召喚された。


 人攫いが魔法警察に確保されたのち、身元の分からぬ赤子は、独り身の女性に引き取られることになる。


 養母セーラ=ミスティは、赤子にルナナと名付け、実の娘のように育てた。けれど生い立ちを隠すことはしなかった。


 結果として、「召喚された赤子」という事実はルナナの心に深く刻まれ、召喚術への執着と興味を強めていく。

 人身召喚に赤子の身で耐えられたほどの才能は、驚くほどスルスルと伸びていった。



 それでもオーリッド入学までは、ルナナはセーラにとって普通の子であり続けた。

 召喚術への好奇心も、既に使いこなせる力も、全てしれっと隠し通し、「魔法を学びたい」という理由で学園に入ったのである。



 他の魔法に興味はない。授業など、出る価値もない。


 自分はただ、召喚術さえ極めればいい。


 ここにいれば、媒介も、指南書も、好きなだけ手に入る。

 学園生活は適当にやり過ごし、召喚術を極めるつもりだった。



 自分を攫い、運命を変えた召喚術。


 人を召喚する行為は、調べれば調べるほど、危険であることに違いなかった。

 持って生まれた能力を駆使しても、今のルナナには「知っている人間」の「近距離召喚」が限度のようであった。


 いつか、誰にも負担をかけない、確実な人身召喚を成功させたい。

 そして、その力で産みの母を召喚したい。



 会ってみたい。自分が何処の何者なのかを知りたい。


 ルナナには、それだけだった。



 

 ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎

 

 

「こんなものも制御できないんだぁ……やっぱり、適性がないと」

 


 やや呆然とつぶやくルナナは、どこか遠い世界を見ているかのようだった。

 そのルナナを目がけたように、魔獣の腕が振り下ろされる。

 


「ミスティさんっ」

 

 サクラは飛び込み、横からルナナの腰に抱きついて草むらへと倒れ込む。

 

 直上を魔獣の攻撃がかすめ、衝撃波が髪を激しく揺らす。

 ルナナを押し倒したまま、サクラは恐怖で半泣きどころか、もうボロボロに涙をこぼしている。

 


「……そんな泣くくらいなら、ほっといてくれればいいのに〜」


 

 顔面に落ちてきたサクラの涙を拭って呆れたようにルナナは言うが、サクラは首を横に振って涙をさらに振り落とす。


 

「わ、わたし、ミスティさん、あなたを、やめさせないと、いけないの、せっ……」

 

 

 サクラは、一瞬のためらいの後、自分の喉を掴むようにして、その言葉を絞り出した。

 


 

「生徒会長、だから……!」

 


 

「リリーバレー! 右!」

 

 スグルの言葉に、サクラは慌てて右を見るが、魔獣の腕のスピードにはかなわない。

 飛び退く時間はないと判断し、サクラはルナナに覆い被さる。

 

「黒影よ、盾となれ! ダーク・シールド!」

 

 間一髪の所で、スグルの防御魔法が二人の前に展開された。攻撃はそこに吸収される。

 助かったと思う暇もなく、暴れる魔獣の地響きが足元を震わせた。


 B級魔獣は、本来、学生では太刀打ち出来ない相手だ。

 適性者がいたところで、まだ一年生の三人では、C級すら危うい。

 

 

「ウィストくん! どうしよう!?」

 

 ルナナを抱きしめながら、サクラは必死に叫ぶ。

 スグルは周囲を見回し、舌打ちをした。


「チッ」


 そして杖を構え、ルナナに怒鳴る。


「ミスティ! 大量の岩を召喚しろ! 周りを岩で塞げ!」

「……あ〜」

 

 

 ルナナは一瞬きょとんとしたが、理解したのか頷き、サクラを押しのけて立ち上がる。


 地響きで長い髪が揺れ動き、ブルーがカーテンのように広がった。

 

 片手で杖を振り、ルナナは陣を描きはじめる。


 足元ではなく、空に描かれる円環は、正確に、そして瞬く間に光をまとっていく。

 恐怖で固まっていたサクラも、その美しさに一瞬、恐怖を忘れた。


「契約の円環よ〜呼びに応えよ、記した符に従い〜姿を現せ!」


 召喚魔法の基礎をルナナは正確に辿り、最後に岩の文字を円に刻んだ。

 ここまでの時間はわずかに十秒。学生では驚異的ともいえる速度だった。



 地面が割れるような音を立て、どこかから呼んだ巨岩が次々と出現し、魔獣の周囲を取り囲んだ。


「ダーク・シールド!」


 スグルはその隙を逃さず、防御呪文をサクラとルナナの前に張る。


「ミスティ! 今のうちに返還陣を描け! そいつを押し返す!」


「えっ……無理〜かも」

 

「できるだろうが! お前しか出来ない!」

 


 制御が効かなかった事を引きずっているルナナを叱咤し、スグルは荒い息を整える。

 

 次から次に、一年生では——学生ではありえないような実戦が起きて、スグル自身も、泣くほどではないが若干パニックになっている。

 

 ここにいる全員、実戦は初めてなのだ。


 ましてやB級魔獣など、大人が命を落としても全くおかしくない相手だ。

 

 そのうち、一人は基本魔法もまともに使えないと来ている。



 実質、スグルとルナナの二人で何とかするしかないのだ。



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