18.「また呼び出し」
翌日、早朝。
サクラは、ラーナ先生に呼び出されていた。
「はぁ、私、何かしたかなぁ……」
生徒にとって先生からの呼び出しは、大抵良い事などない。
ラーナ先生とは、授業で会うくらいだし、まだ数回しかその機会もなかったから、個人的な呼び出しをくらう覚えはない。
昨日の、スグルの暴走未遂が耳に入ったのだろうか。
それとも一昨日の、ルナナという召喚魔法を使う生徒との事だろうか。
その場にいたというだけでルナナと共謀したのではないかと疑われていたら、という不安で足取りが重い。
連日色々な事が起こりすぎて、疲弊しているサクラの口からは、ため息しか出てこない。
オーリッド魔法学園の中央棟、二階の一角にある防御魔法職員室は、他の教科の部屋よりも重苦しい空気をまとっていた。
壁一面に掛けられた盾や鎧のレリーフはすべて防御魔法で強化され、光を受けて鈍い輝きを放っている。
窓際には、練習用の魔法障壁が魔法を纏ったまま残されており、先生方も日々鍛錬をしているのだと気づかされる。
部屋の中央には大きな丸机が置かれ、いくつもの羊皮紙と魔法陣の写しが山積みにされている。
訓練や実験の痕跡がそれぞれに見て取れた。
棚には、結界用の石や液体がずらりと並び、光を放っている。空気そのものが重たく、空間全体に、敵を拒むような冷たさがある。
その空気の中心に、椅子に腰掛けるラーナ=トゥーデン先生の姿があった。
「リリーバレー、今年の生徒会長が君だと聞いた」
開口一番にそう告げられ、サクラは飛び上がる。
「せ、生徒会長……」
先生の口から改めてその役職を聞かされると、現実に引き戻されたような感覚になる。
ラーナは腕を組み、厳しい眼差しを向けてきた。
「先日の騒ぎを見ていたと思うが……ルナナ=ミスティが召喚陣を描いた件だ」
「……は、はい」
「一年生が召喚魔法を扱うなど、本来は不可能なのだ。だが、ミスティは描けている。問題は……彼女自身に危険意識が欠けているという事だ」
サクラは固まったまま、黙って先生の話を聞く。
「放っておけば、他の生徒に危害が及ぶ可能性がある。生徒会長であるキミには、彼女の行動を注視し、必要なら制止することを頼みたい。本校の生徒会の役目は、華やかな行事だけではない。学園の秩序と、生徒を守ることも仕事のうちだからな」
サクラは緊張でガチガチになった唇をへの字に歪めた。
そんな大役、ますます自分にできる気がしない。制止?どうやって?
「他の役員は?決まっているのか?」
そう聞かれて、しまったという気持ちで答える。すっかりその事は忘れていた。
「全員は決まっていません……あっ、でも、副会長はウィストくんです」
それを聞いたラーナ先生が、ほう、と声を漏らす。
「そういえば先日は共にいたな。彼も危ういところはあるが……実に優秀だ」
まさに昨日、危うさを実感したところである。とは言えない。
「何せ、一年生の生徒会長は前例がない。副会長は何度かはあったはずだが」
「ですよね……」
選別は学園長の一存のようであったし、先生方もさぞかし困惑したであろう事が、その言葉に滲み出ている。
そして、先生方が困惑しようとも、学園長の判断がこの学園に置いては絶対なのだろう事も伺えた。
「必要であれば、二年生や三年生の優秀な生徒を紹介するが?」
「……また、考えてみます」
ありがたい申し出だったが、一年生の自分が上級生の上に立つというのも、何だか気持ちが重いのだった。




