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12.「便り猫①」


 

 夜の寮の部屋。


 サクラは下着姿のままでベッドに突っ伏したまま、今日の出来事をなぞった。


 放課後にあった事を思い出すと、自分の役立たなさに頭痛がしてくる。


 確かに、高い能力を魅力のひとつとして彼を副会長にしたいと思ったが、実際にあのような天才が近くにいるようになると、自分の不出来をどんどん自覚してしまう。



 あのミスティという同級生も、ルール違反とはいえ、とても綺麗な陣を描いていた。

 メリアだって、魔法は一通りの基本が出来る。



 無論、落ちこぼれはサクラだけではない。成績が振るわない者は他にもいる。

 いるが、それに安心してはいけないと思うくらいには、覚悟を決めてここにきたのだ。


 まして、生徒会長などという役職を当てられてしまったからには、せめて、人前でそう名乗れる自信が欲しい。



(また、ウィストくんに魔法教えてもらおうかな……箒の乗り方とか、風の起こし方とか)

(いやいや、だめだめ、頼り過ぎは良くない)


 

 このままでは、一時が万事、彼の能力や優しさに寄り掛かる人間になってしまう。


 対外的も、自分的にも、良くない。


 自分の分別に安心しながら、サクラは枕に顔を埋める。


 せっかく副会長も決まったのに、肝心の自分がこれではどうにもならない。

 

 


 

「サクラ、今いいかな?」

 


 部屋を仕切るカーテンの向こうから、同室のメリアが珍しく声をかけてきた。

 メリアが夜に声をかけてくることは滅多にない。勤勉な彼女は、いつも静かに机に向かっている。


 一方、サクラは特に用がなくても与太話をしたくて、よくメリアに声をかけてしまう。

 それでも、メリアは嫌な顔ひとつせずに応じてくれる。サクラはいつも感謝していた。


「もちろんだよ!」


 だからこそ、メリアから話しかけられるときは、どんな時でも絶対に聞こうとサクラは決めていた。





「便り猫が三日ほど、戻ってこないんだって」

「……便り猫が」



 もっとも身近で、誰もが一度は試す召喚。

 それが「便り猫」と呼ばれる術だ。



 手のひらに簡素な陣を描き、ちょっとした魔力とキャットフードを媒介にすると、どこからともなく猫が現れる。

 呼び出された猫は、手紙のみならず、頼んだ言葉や声をそのまま相手に伝えてくれる。

 配達が終わると依頼主の元に戻ってから消えるので、戻って来ないという事は、託したものが届いていないという可能性が高いのだった。


  

 サクラも、入学直後に一度だけ試したことがある。

 少ない魔力でも、多少下手でも、ちゃんとやってくる便り猫に感激したものだ。

 用件は、「校舎で道に迷っちゃったから助けて欲しい」という、メリアに宛てた情けない内容の言伝だったが。



 送り主の女の子にとって今回の"便り"は切実であるらしく、同じ一年で監督生のメリアに相談がきたというわけだった。


「どうしても届けてほしい手紙を持たせていたらしいの。先生に見られると困るらしいから、伝令の翼は使えなかったって」


「困るって、悪いこと?」


 サクラが怯えたように聞くと、メリアは「あー」と濁す。


「内容も宛先も聞いてないの。男子に宛てたものらしいから」

「あ……」


 サクラが理解して赤くなると、メリアは肩をすくめて苦笑い。



「まあ、そういう感じで。生徒会長の最初の仕事にしてはいいんじゃない?」

 

「えええ!?し、仕事!?」

「生徒会って、生徒の困り事を助けるのではないの?」

「そんな、便利屋じゃあるまいし……」


「優秀な副会長もいるんでしょう?」



 その一言で、メリアが頼りたいのは、サクラではなく、間接的にスグルなのだと気付く。

 




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