表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/35

34話・王女、探し物を見つける

そうして辿り着いた賽銭箱の前で、ロゼッタはぎくしゃくと教えられたばかりの一礼

二拍手をし、しっかりと手を合わせる。


 やれやれ終わったと列から離れたところで、小さな人だかりができていた。

 なんだろうとのぞいてみると、どうぞと紙コップを手渡される。


「なんですの、これ」

「振舞酒だ。アルコール度数は低いから飲んでみろ」

 言って手渡した湯気の上がる紙コップを、ロゼッタは大事そうに両手で持った。


 そして、注意深く湯気の上がる液体を口にした、次の瞬間。

「──竜司」

「どうだ、美味か?」


 なぜか固まっているロゼッタに聞くと、小さな頭がこくりと上下に動いた。

 そして、ゆっくりと顔を上げたロゼッタは、幽霊を見たような顔で言う。


「……見つけてしまいましたわ」

「ああ?」

「私が探していた『美味なるもの』は、これだったのですわ……!」


 ゴーン……と除夜の鐘が、空気を振動させる。


 ほう、と竜司は驚きと軽い失望を感じつつ、しげしげとコップの中身を見た。

「甘酒だったのか……。麹ってことかもしれねえな……」


「これを持って帰ることは、可能ですの?」

「固形でも液体でもいくらでも売ってる。もちろん、持ち帰りは可能だ」


「そ、そうですのね。よかった……ですわ」

 ロゼッタは、複雑な顔で微笑んだ。


「見つけられたのですもの。これで、お母さまに褒めてもらえる。やっと帰れるのですわね。ゾフィアより早く、王族としての役目を果たして……」

「……マヨ子」

 ロゼッタはなぜか、コップを持ったまま俯いてしまう。


「どうしたのでしょう。嬉しいはずですのに、私……。帰りたくないと思ってしまうのですわ……。こんなことを考えたら、いけないはずですのに。王女として、失格ですのに」

「頑張ったな、マヨ子」


 竜司もなんともいえない喪失感を覚えつつ、優しく言った。

「もうお前は帰っても、手柄を立てた偉い王女様として扱ってもらえるんだろ? だったらいいじゃねえか。胸を張って帰れ」


「でも……」

 竜司は顔を上げたロゼッタを見て驚く。


「おい。なんで泣く」

「だ……だって」

「どっか痛いのか」

「違いますわ……!」

 ロゼッタは言って、竜司に飛びついてきた。


 コロンと紙コップが足もとに転がり、周囲の通行人が気づかずに踏んでいく。

 人混みの中、ロゼッタはひしと竜司にしがみついていた。


「マヨ子。なんだ、どうした」

「……竜司と、一緒にいたい。傍にいたいです……!」


「……ロゼッタ」

「私は、ずっとひとりでした。お友達もいなくて。でもそれが当たり前だと思っていましたわ。私は、何も知らなかったのです。誰かと一緒にテーブルを囲んでお話することの楽しさを。誰かと並んでお話していると、胸が暖かくなることを。それを全部教えてくれたのは、竜司なのですわ!」


 ロゼッタが涙交じりの声で言った、そのとき。


「──っ!」

「きゃっ!」

 互いの体に電流でも走ったように、ぴりっと痺れるような感覚があった。


 どちらも驚いて身を離し、ロゼッタはどうしたのかまじまじと、自分の手の甲を見る。

「なんだ、今度はどうした」

「紋章が……!」

 ロゼッタは愕然とした様子で、自分の手の甲を凝視した。


 ゴーン、と除夜の鐘が、またも大きく鳴り響く。


「ここじゃ落ち着かねえ。移動するぞ」

 ともかく人混みから外れようと、竜司は呆然としているロゼッタの手を取って、境内の外れに歩いて行った。


 ロゼッタはずっと自分の手の甲に浮き上がった模様を、信じられないという顔で眺めるばかりだ。

「……おい、いい加減に説明しろ。なんだその、家紋みたいな痣は」


 ロゼッタは眉を寄せ、首をひねりながら答える。

「これは……我が王国の紋章ですわ。女神が探すよう命じたふたつのものが、そろったときに出るはずの仕様なのです」

「そろってねえだろ」


「そのはずなのですが……」

 言ってロゼッタは、眉をひそめて竜司を見つめる。


「ゾフィアが夢で告げられた言葉が、なんなのかわかれば……せんとーき、というのと関係あるのでしょうか」

 そう言われても、竜司にわかるはずがない。


「ここで考えても仕方ねえ。とりあえず戻ろう。寒いしな」

「ですわね」

 ふたりとも腑に落ちない顔をして、速足で帰宅する。


 時刻は、深夜十二時を回っていた。しかしもちろん、眠る気にはなれなかった。





『ハピー、ニューイヤっす、兄貴!』

 スマホ越しの声の背後から、ざわめきと笑い声が聞こえてくる。


「──俺だ。……飲んでるのか坂巻」

『はいっす。正月なんで。あの姉ちゃん、青森に置いてきましたけど、いいんすよね?』


「ああ、ほっとけ。それより新年早々悪いが、お前に聞きたいことがあるんだが」

『なんすか』


 ロゼッタは着ているワンピースはまだ脱ぎたくないと言って、コートだけを片付けている。

 竜司はソファに座って苦笑しつつ、スマホに耳を傾けた。


面白かった場合はたくさんの★で、つまらなければ少ない★で評価をお願いします!

次回で終わります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ