33話・王女、新年を迎える
「楽しそうだな、マヨ子」
「楽しいんですもの! なんだか、いいことが起きそうな気がしますわ!」
あちこちのショーウィンドウに映る自分を見ては、にこにこしているロゼッタを見て、買ってやってよかったと竜司は思う。
その後、喫茶店に入るとロゼッタは、お気に入りのクリームソーダを頼んだ。
同じものを頼んだら、探している味が見つからないと思うのだが、竜司はもう何も言わなかった。
こちらにしてみたら、急ぐ理由はなにもなかったからだ。
ロゼッタにしても同様らしく、最近は表情から焦りが消えて明るい。
「もしも探し物を、先にゾフィアが見つけたら……私は、帰らなくてもいいかもしれない。そんなふうにも、思いますの」
クリームをストローで崩しながら、ロゼッタはそんなことを言い出した。
「どうせ帰っても、お母さまは怒るでしょうし、私は一生、役立たずの烙印を押されて、ひっそり生きていくだけですわ」
だからいいのです、とロゼッタは吹っ切れたように言ったのだが、竜司の反応をうかがうように、上目遣いでこちらを見た。
「もちろん、竜司が……邪魔だから帰れと言ったら……嫌われてまでこことにいたくはないですけれど……」
「いればいい」
コーヒーを口にしながら、竜司は請け合う。
「こっちに居続ける気なら、今までよりは真面目に、この世界のことを教えてやる」
「……いいんですの? 本当に?」
ロゼッタの目が、こころもち潤んだように竜司には見える。
「そ、そうしたら私、一生懸命、勉強しますわ。食べてばかりでなく、作ることも覚えますし、電の力も使いこなせるように、努力します!」
両拳をテーブルの上で、ふるふると震わせて力説するロゼッタに、そうか、と竜司はうなずいた。
「じゃあ、そうしろ」
するとロゼッタは、首が千切れるのではないかと思うくらい、激しくブンブンとうなずいたのだった。
「こ、こっちもやっぱり、人がすごいですわ」
日付が変わる時刻になると、参拝客はどんどん増えてきた。
ロゼッタははぐれないよう、しっかりと竜司のコートの端をつかんでいる。
「なあ、マヨ子」
竜司は人に押されて口をへの字にしているロゼッタに言う。
「なんですの?」
「俺はこれからここで、餅への感謝を捧げると言ったな」
「言いましたわね」
「あれは、嘘だ」
えっ、とロゼッタは目を見開いた。
「じゃあ、どうしてみんな、こんなにまでして並んでいますの?」
「一年の初めに、神様に願いことをするためだ。……聞こえてきただろ」
ゴーン……という除夜の鐘の音に、ロゼッタは耳を澄ます。
「あれは神様が、願いを聞き入れた、って言ってる声だ」
「そ、そうなんですのね! 迫力のある声ですわ! ……竜司は、何をお願いしますの?」
尋ねられて、竜司は人の波にもまれながら考える。
「そうだな。こっからは綺麗な人生を送れるように、かな」
「……? 抽象的ですわね?」
「お前も何を願うか決めろ、マヨ子」
「ですわね」
ロゼッタはつぶやいて、しばらく銀色の頭を傾げていた。
「私は……」
言いかけて、ロゼッタは口をつぐむ。
「どうした。探し物が見つかるように、じゃねえのか」
「……ですわね」
ロゼッタがつぶやいたそのとき、十、九、とカウントダウンが始まった。
周囲はざわめき、一斉にスマホを構え、辺りは騒然となる。
「新年の五秒前だ。この世界の暦で年が明ける」
ロゼッタを安心させるように、竜司は言う。
「そうでしたの。新しい年が始まるんですわね……!」
ロゼッタは希望に満ちた目を、竜司に向けた。
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