31話・妹、三沢基地にF15を捕獲しに行く
「青森に行きたがってる? なんでそんなことになった」
坂巻からの電話を受けて、竜司は眉間の皺を深くする。
きっとゾフィアが面倒なことを言い出したのね、とロゼッタはすぐに察した。
その日は、そろそろこの世界での年が暮れるということで、朝から竜司と部屋の大掃除をしていた。
ロゼッタはせっせと家具の拭き掃除をしながら、耳を傾ける。
「戦闘機の映画……? ああ、あれか。パート2のほうか? 俺も観たが……それが探し物だったってのか」
ロゼッタの耳が探し物と言う言葉に、猫のようにぴくっと反応する。
「……まあ、しばらくすりゃこの世界からいなくなる相手には、いらねえ知識だ。いちいち教えないのはわかるが……あれを捕まえに行くってのは、どういうことだ」
しばらく竜司は魔法の板を通して坂巻と、謎の問答のような会話をしていたが、やがて言った。
「わかった。じゃあ、ソース女の気のすむように連れて行って、そこで放ってこい。無理だとわかったら、勝手にもとの世界に帰るだろ」
電話を切った竜司は、小さく溜息をついた。
「ゾフィアが、どうかしたのですか?」
「よくわからねえが。テレビを観ていて探し物を見つけたから、捕まえたいんだと」
「見つけたと言っていたのですか!?」
ロゼッタは思わず声を大きくする。
「私は、夢の予知で知った味を探しています。そしてゾフィアも夢のお告げで聞いたものを探している。前にそう言いましたわよね。……おそらく、テレビで観たものが、告げられた言葉と一致していたのだと思いますわ」
ゾフィアが見つけたのだとしたら、またしてもロゼッタは見下されることになるだろう。
しかし竜司は、複雑な顔で言う。
「……国が戦うために必要って言ってたよな」
「そうですわ」
「なるほど。それで映画を観て、あれなら戦いに有益だと思ったんだろうが……」
「が? 弱いのですか?」
「いや、そうじゃないが。ありゃ生き物じゃねえし、素人が扱える代物でもない」
「それは……いったいなんのことを言っていますの?」
「トムキャット。古い型の戦闘機だ」
「せんとーき……トムキャット……? 生きていないということは、死から復活させた猫の魔物ということでしょうか……!」
ロゼッタは驚きつつ、素人には扱えないと言う竜司の言葉に、少しホッとしながら言った。
「でもよかったですわ……。先にゾフィアが見つけて持ち帰ったら、私の立場が……というより、私の一族の立場が悪くなりますもの」
「心配すんな」
竜司は明るく言った。
「あれがどこにいるのか聞かれた坂巻は、そいつはこの国にいないが次の世代、といってもこれも古いが、イーグルなら三沢基地……青森にいると答えたらしい。そうしたら、絶対に行くと言ってきかないんだと」
「青森というからには、さぞ青々した深い森なのでしょうねえ。遠いのですの?」
「まあな。しかし、向かったところで基地に入れねえし、近くで見れば手に負えるもんじゃないと気が付くだろ」
「そんなにすごいものなのですの?」
「上空を飛ぶ爆音だけで腰抜かすだろうな」
「飛ぶ魔物なのですか! 確かに強そうですわね。もしかして、それも電の力ですの?」
「電の力もいるし、ジェット燃料とかまあ俺も詳しくねえがいろいろだ」
ふう、とロゼッタは窓の外に目を向ける。
「こちらの世界には、まだまだ知らないことが、いっぱいあるのですわね……」
「ああ。まだまだ面白いことがいっぱいあるぞ」
言われてロゼッタは、竜司に視線を移した。
「楽しみですわ。この前の、木への感謝を捧げるクリスマスというイベントも面白かったです! ドレスアップされた木が、どこへ行っても飾られていて美しかったですもの!」
「もうすぐ、餅への感謝を捧げる正月もくるぞ」
「餅は好きですわ! 私もたくさん感謝します!」
竜司は笑った。
「お前といると、本当に面白いな」
「私もですわ」
ロゼッタも笑い返す。
そうしてロゼッタが探し求めていた味が見つかったのは、それから間もなくのことだった。