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27話・王女、もうひとり出現する

その日は寒く、木枯らし一号が吹いた。

 今夜あたりはおでんにするか、と竜司とロゼッタはキッチンに立っていた。


「外で食べた時と、同じのが作れますの?」

「出汁が違うから、多少は味が違うだろうがな」


「私、もちもちした筒みたいなのが好きですわ!」

「ちくわぶか。お前、ほうとうとかすいとんとか、うどん粉のみっちりしたやつが好きだよな」

「お腹が温まるし、食感がいいのですわ」


 キッチンは湯気で暖かく、昆布出汁のいい匂いが漂っている。

「皿と箸は用意したか。じゃあ、好きな具を取れ」


「美味しそうですわ! それに食べた後の汁に穀物を入れると、美味な予感がします!」

「あー、それは美味いかもな」


 とりとめのない話をしていると、ふいにロゼッタの表情に、サッと緊張が走った。

「……大変ですわ……!」


 言って手にしていた皿と箸を置き、いつも首から下げている、胸元の護符を握った。

 その指の間からは、青白い光が漏れている。


「なんだ?」

「……来ますわ! でもここでは駄目、狭くて危ないです!」

 ロゼッタは手近な器に水を入れ、リビングへと走った。


 そして、なんだなんだとついてきた竜司をよそに、フローリングの床に水を、円を描くようにして零す。

「おい、濡らすな!」


 叱責しても、ロゼッタの顔は真剣そのものだ。

「ここに今から、私の世界から誰かが来ます」


「なんだと?」

「危険のないように、先に到着していたものが、空間を用意する決まりなのですわ!」

 言ってロゼッタはしゃがみ、水の円の中に指で複雑な模様を描いてから、パッと飛び退る。


「下がって、竜司!」

 有無を言わさずロゼッタが、竜司を円から離したそのとき。

 円の上にもやもやと、白い霧のようなものが現れた。


「……久しいわね、ロゼッタお姉さま」

 そこに現れたのは、金色の髪を高々と結い上げた、赤いドレスの女だった。


 ロゼッタより五センチほど背が高く、瞳は赤く、細面の顔は美しいがきつそうな性格が顔立ちに現れている。

「ゾフィア……」


 ロゼッタがつぶやくと同時に、ゾフィアはドレスの裾をつまみ、優雅な仕草でこちらに向かって腰を落とす。

「……奇界の方ですわね。初めてお目にかかります、私はゾフィア。ロゼッタの妹にして、第三王位継承権者、ゴルゴニア王国の第二王女ですわ!」


「……マヨ子の妹か」

 むしろ姉に見える、と竜司は思った。


 横に立つロゼッタは、妹と再会したというのに、なぜかちっとも嬉しそうには見えない。

「なぜ来ましたの?」


 わずかに眉を寄せ、ロゼッタはゾフィアに言う。

「なぜって、お姉さまのお戻りが遅いからですわ。こちらに来るのは、私は恐ろしくていやだったのですけれど、お姉さまが役に立たないのであれば、私が見事に役目を果たそうと思ったのです」


 ゾフィアは傲慢に言って、背の低いロゼッタを見下ろす。

「そうしたら、私の王位継承権をひとつ繰り上げる、と父上がおっしゃいましたの」


「父上が……!」

 ロゼッタは目を見開き、両手を頬に当てた。

 ゾフィアは竜司に向き直り、手にしていたビーズのハンドバッグを開く。


「貴方は、お姉さまを奇界でお世話してくれていたのかしら?」

「まあ、そんなもんだ」


「お名前は、なんておっしゃるの?」

「……千国竜司」

 答えると、ゾフィアは妖艶に微笑む。


「では、竜司さま。私もお願いしますわ。……おそらく自分の力で強引にことを運んだロゼッタとは違って、私は奇界の人間にも敬意を持って接する気持ちでいますのよ」


 そう言ってゾフィアは、スマホほどの大きさの板をバッグから取り出した。

 ロゼッタが、あっ、と口を開いたが、そのまま押し黙る。


「こちらの世界で、この金属には価値がありまして?」

 差し出されたそれを手にして、竜司はじっくりと検分した。


「……刻印はないが……金塊か。この重さだと、三百グラムはあるな」

「それで私に、こちらの世界でいろいろ経験させていただくことはできまして?」


 ゾフィアは、高慢な笑みを浮かべつつ、部屋の中を見回す。

「飾り一つない、殺風景な部屋ですわね。でも清潔そうなのと、照明が明るいことは気に入りましたわ」


 ロゼッタが初めて部屋に入ったときと同じような感想を、ゾフィアはつぶやいた。


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