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25話・王女、組事務所を壊滅させる

「今回は、告白できない内気な青年貴族たちを手伝うための、言葉の最後に強制的に告白させる魔法を使ってみましたわ。もちろん通常でしたら本人の希望で一回だけの仕様ですけれど、一生継続させますわ。……でも貴方には、これだけではすみませんわよ!」


 ロゼッタが指さしたのは、竜司を刺した組員だった。

 ロゼッタの指が空中に模様を描き、組員に向けて、ふっと拭く。


「……っ? えっ、うわっ、わあっ!」

 すると男の、パンチパーマだった髪が一瞬にして爆発的に伸び、ふさふさの金髪縦ロールに変化した。


「ちょっ、えっ、俺の髪……! なんだこれ冗談じゃねえぞ、この胸のときめきは無限大!」

「いくら切っても無駄ですわよ! 貴方の栄養を吸い、その縦ロールは永遠に美しい形に維持されますわ。きっとリボンをつけたらお似合いになりましてよ!」


「信じられるか、そんなこと! お友達からお願いします!」

 悲鳴のような声で言って、組員はデスクの引き出しからハサミを取り出し、じゃきっと切った。


 けれどロゼッタが言ったとおり、すぐににょきにょきと縦ロールは、元通りに復活する。

「いやあああ! 世界で一番、あなたが好き!」


「ほほほほほ!」

 ロゼッタは右手の甲を口元に添え、優雅に笑う。


「みなさんに、素敵な恋人ができるように祈ってますわ」

 宇陀川組の組員たちは、ロゼッタの得体のしれない力に、すっかり戦意喪失してしまっていた。


「どうすりゃいいんだよ、俺の恋人になってください!」

「これじゃ仕事の電話も使えねえぞ、せいぜい結婚詐欺しかできねえ! あなただけを見つめてきました!」


「結婚詐欺なんてできるかよ! いちいち告白する男なんて重くて相手にされねえぞ! 俺と同じ墓に入ってください!」

「それどころか、医者にもかかれねえ! どうすんだ、銃創の怪我人がいるってのに、きみのためなら死ねる!」


(……なんだろう。俺も頭にきてるはずなんだが、毒気を抜かれた)

竜司は呆然として、阿鼻叫喚のるつぼとなっている宇陀川組の面々を眺める。


 と、上着の端をロゼッタが、くいと引っ張った。

「これでもう、竜司といつでもどこにでもお出かけできるかしら?」


「……まあ、そうだろうな」

 おそらくこの調子では、千国組と同様に、宇陀川組も機能不全に陥るだろう。


 ロゼッタは満足そうに、よかった、と微笑んだ。

「それじゃあ、帰りましょう。お腹が空いてしまいましたわ」


 確かにこれ以上見ていても、どうにもならないだろう。

「ああ。行くか」


「あっ、待てコラ、あなたを想うと胸が張り裂けそう!」

「お願いだ、元に戻してくれ! 愛しています、誰よりも!」

 背を向けた竜司とロゼッタに、怨嗟と嘆きの声が追いかけてくる。


 取り合わずに扉を閉め、建物の外に出た途端。

「……っ。はははは!」

 竜司は声を上げて、笑ってしまった。


 くすくすとロゼッタも、嬉しそうに笑っている。

 こんなに気分爽快な気分になったのは、久しぶりのことだった。






 竜司はこの日、宇陀川組を壊滅状態にした褒美にと、ロゼッタを高級天ぷら店に連れて行った。

 ロゼッタは、サクサクした食感と甘くてしょっぱいタレの染みた穀物が美味ですわ! と大喜びで完食した。


 次に甘味処へ行き、食後のデザートとしてあんみつを食べさせたのだが、こちらも気に入ったらしい。

 黒い魚の内臓が入っていると言って、喜んでいた。


 美味しいを連発するロゼッタに、竜司は「うまい」という言い方もあると教えた。

「うま味、ってのもあるんだぞ」

「それはうまいの塊みたいなものですの?」


「まあそんなもんだ」

 帰宅後の夕食には、すき焼きを用意した。


 なにしろ長年いがみ合ってきた宇陀川組に、ロゼッタがひとりでカチコミをかけて、見事に勝利したようなものだ。これくらいは、してやる価値がある。


 ダイニングテーブルの上のガスコンロを、ロゼッタは不思議な顔をして眺めていた。

「……これは、ガスの力だと言ってましたわね」


「ああ。調理しながら食ったほうがうまいものは、それを使う」

「火でチーズをあぶりながら食べるのと、同じ感覚かもしれませんわね……」


 溶いた卵を入れた呑水を渡し、竜司はテーブルについて説明をする。

「煮えたら卵につけて食え。熱いのが冷めてちょうどいい」


「……この、透明な毛糸玉みたいなものはなんですの?」

「糸こんにゃくだ」

「こんにゃく……気の抜ける名前ですわね。……野菜でも、キノコでもありませんわよね?」

「元は芋だ」

 教えるとロゼッタは、眉を寄せる。


「透明な芋! 不思議な根菜があるのですね、こちらの世界には!」

「豆腐はわかるか?」

「……いいえ」

「腐った豆と書く」


 えっ、とフォークを伸ばそうとしていたロゼッタは手を止めた。

「またですの?」


「原料は、お前が今日食った天ぷらのつゆと同じだ。大豆だからな」

「……」

「それは腐った味はしないから、食ってみろ」


 ロゼッタは恐るおそる、しかし言われたとおりに豆腐を呑水に入れ、口に運ぶ。

 そしてもむもむと口を動かしてから、うん、とうなずいた。


「これはじんわりと口に広がる、優しい風味で美味ですわ!」

「そりゃよかった」


 ふたりして鍋をつつていてると、和やかでまったりした、なんとも不思議な空気が流れる。

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