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24話・王女、カチコミをかける

 どうなっても知りませんことよ、と涙目で言う坂巻を置いて、ロゼッタがやってきたのは三階建て雑居ビルの一番上だった。


 坂巻によると、一階、二階は系列の金融会社ということで、そこにはいかつい男たちもおらず、すんなりと辿り着くことができた。

 廊下には誰もいないが、扉の上にガラスをはめた筒のようなものが、にゅっと突き出ている。


(この中に、竜司に刃物を刺した極悪人がいるのですわね。顔はまだ覚えています。絶対に仕返しをして差し上げますわ! それに、ここにいる人たちのせいで、私と竜司のお出かけが制限されているなんて、許せません!)

 すう、と息を吸い込んで、ロゼッタは力強く扉を叩いた。


♦♦♦


 なにかロゼッタが喜びそうなものを買って帰ろう、と病院近くの総菜店にいた竜司は、坂巻からの電話で顔色を変えた。

「なんだと、もう一回言ってみろ!」


『で、ですから、どうしてもと頼まれて、宇陀川組の事務所に、ロゼッタ様をお連れしたのですわ』

 はあ? と竜司は眉間にしわを刻む。


「ふざけるんじゃねえ! なに余計なことしてやがんだ!」

『申し訳ございません、兄上!』

 泣きそうな声で、坂巻は謝罪する。


『でもでも、私は脅されたのですわ。一生この言葉遣いのままにすると。そんな人生、耐えられると思われますの?』

「……あのマヨ子め……」


 なんだってひとりで宇陀川組に乗り込むなどという、発想に至ってしまったのか。

「そこに待機してろ、坂巻! すぐに行く!」


 竜司は言ってスマホを仕舞い、愛車のドゥカティに跨った。


(なんて無茶なことをしやがる。……そりゃ、あいつはわけのわからねえ力を使えるから、簡単に殺されるってことはないだろうが……。言っちゃなんだが、うちの連中は極道としちゃ甘い。厄介なのが紛れ込んで来たら、やつらなら女子供だろうが躊躇なくタマとるぞ)


無事でいろ、と願いながら、竜司は思っていた以上に、ロゼッタを心配している自分に気が付いていた。






「開けろ! おい、開けろって言ってんだ!」

 竜司が鍵を壊すべく懐に忍ばせた、かつて父親から譲り受けたトカレフに手をかけたところで、ガチャッと内側から扉が開いた。


 飛び出してきた組員と思しき男は、なぜか真っ青な顔をしている。

 竜司の顔を見ると、あっ、と口を開きかけたが、なぜか無言のままだ。

 その襟首をつかみ、室内に投げ入れるようにして、竜司は室内に踏み込んだのだが。


「どうなってんだよ、お前が大好きです!」

「知らねえよ、勝手に口がおかしなことになって、昔からお慕いしておりました!」

「黙って聞いてりゃさっきからふざけたこと言いやがって、正直に言います、好きです!」

「気色悪いんだよ、好きだのなんだの、でもお願い、ずっと胸に秘めていたこの気持ちをわかって!」


 そこに広がっていたのは、唖然とした顔で互いに告白をしている宇陀川組の組員たち、という光景だった。

 中には怪我をしたのか、呻いて蹲っているものも数人いる。

 部屋の中央でロゼッタは、ほほほほと高笑いをしていた。


 ロゼッタは唖然としている竜司に気が付くと、にっこり笑って振り向く。

「あら、竜司。いらっしゃったのね!」


「バカ野郎、なに勝手なことしてやがる!」

 心配していたあまり怒鳴りつけると、ロゼッタはビクッとした。


 それからしゅんと拗ねた顔をして、こちらを見上げる。

「いけませんでした……?」


「お友達の家じゃねえんだ! のこのこ入り込んで、コンクリ詰めにされてもおかしくねえんだぞ!」

「地獄の竜司!」

 涙交じりの声が、竜司を呼んだ。


「ずっと恋してました、付き合ってください!」

「竜司てめえ、この女は千国組の差し金か? お願いします、結婚してください!」


 どうやら千国組の言葉遣いがおかしくなったように、なにか言うと愛の告白をしなくてはいられない仕様になったらしい。

 怒りのあまり、鬼の形相で顔を真っ赤にしているが、それでも直接なにかしてこようとしないのは、ロゼッタを恐れているからのようだった。


 が、ふっと強烈な殺気を感じて、竜司は身構える。

「この死にぞこない、俺があなたを幸せにしてみせます!」


 ひとりの組員が、こちらにマカロフの銃口を向けていたのだが。

「おいやめろ! さっきあの女の力で妙なことになったのを見ただろうが、お前のことを誰よりも愛してるんだ!」


「確かに最初のひとりは跳弾かと思ったが、ありゃ違う。狙ったみてえに撃った相手に弾が返ってきやがったからな、俺は生涯、お前ただひとりと決めている!」

 他の組員たちの言葉に、悔しそうに銃を下げる。


「そもそも竜司は、俺がこの前やっちまったはずなんだ! 今もこの手に感触が残ってる! 燃えるこの想いをどうかわかって!」

 別の組員が震えながら言う。


「竜司てめえ、体はなんともねえのか? 一生あなたのおそばに置いてください!」

「断る」

 竜司は不敵に答える。


「腹を見るか。傷ひとつねえ」

 すると宇陀川組の組員たちは、怪物を見るかのような目を竜司に向ける。


「あ、あんなに深く刺したのに、どうして……俺のハートはあなただけのもの……!」


「今度竜司を傷つけたら、私が倍にして返しますわ!」

 懐いた子犬のように竜司に寄り添うロゼッタが、威勢よく言った。

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