表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

2話・王女、組員たちを屈服させる

「お、おい、なんなんだよいったい」

「気色悪いな。兄貴、どう始末つけるんすか、そいつ」


 若い衆たちが狼狽え始め、竜司もどうしたものか見当がつかずに、少女を見つめる。


「おい。勝手に入ってきて、なんだって偉そうなツラをしてる。どっからきた。目的はなんだ。説明くらいしろ」


 尋ねると、少女のふっくらした唇から、真珠のような歯がのぞいた。

「……よかった。少しは話ができそうな人がいましたわ。私は、ロゼッタ。あなたは?」


「……千国竜司だ」

「センゴク・リュージ。そう、なかなかいいお名前ですわね。額を上げた髪型が素敵。襟の開いた細身の黒いお洋服が、良く似合ってらっしゃいますわ」


「てめえ、舐めやがって! 兄貴を呼び捨てにするんじゃねえ!」

 最初に肩をつかもうとした男が、ロゼッタに再びつかみかかろうとしたのだが。


「……っ……!」

 男は白目を剥いて、くたくたと床に崩れ落ちてしまった。

 ここへきて、ざわっ、と一気に組員たちの顔色が変わる。


「コラてめえ、なにしやがった!」

「誰かチャカ使え! その女、普通じゃねえぞ!」

「ふざけんな、跳弾すんだろがコラ!」

「じゃあヤッパ出せや!」


「待て、落ちつけ! なにをするかわからねえ相手に、むやみに突っ込むんじゃねえ!」

 竜司が制すると、ロゼッタは溜息をついた。


「やっぱりまともに話ができるのは、竜司だけのようですわね。それにこの人たち、口が悪すぎますわ。少し控えた方がよろしくてよ」

 言ってロゼッタは、細く城指先で、空中になにやら模様を描いた。


 そして、ふっ、とそこに息を吹きかけて、男たちはなにが始まるのかと、固唾を飲む。ところが。

「……?」

 特に、なにも起こらない。


 拍子抜けをした顔をして、幹部のひとりがロゼッタを睨みながら口を開く。

「手品が終わったのでしたら、もう帰っていただけませんこと?」

 皮肉を込めた言い方だと感じ、周囲の男たちはニヤニヤ笑う。ところが。


「そうよそうよ、お帰りあそばせ」

「おとといいらっしゃって欲しいですわ」

 口々に言ううちに、顔を見合わせ、自分の口を押えた。


「ちょっ……な、なにか、おかしいですわ」

「ですわよね? 私、わざとこんな言葉遣いをしているわけじゃありませんのよ?」

「みなさん、なにをふざけていらっしゃ……。へ、変ですわ! きちんとお話しができませんわ!」

 最初は冗談だと思って笑っていた組員たちも、だんだんとことの深刻さに気が付いていく。


「私も、いつものようにしゃべれませんわ!」

「私もですわ。し、舌が……言うことをきいてくれませんの!」

「どうなっておりますの、これではお仕事にも支障が出てしまいますことよ」

「あなたがなにかされたのでしょう、お嬢様!」


 ロゼッタはくすくす笑いながら、慌てふためく男たちを眺めている。

 そして、コツコツと足音をさせながら、ゆっくりと竜司の前まで歩いてきた。


「竜司。あなたにお願いがあるのです」

「……お前は……いったい、何者なんだ……?」

 困惑している竜司に、淡々とロゼッタは言う。


「私はこの世界に、探し物をしに来ました。見つけるのを手伝ってくださる?」

「ああ? 俺にそんな暇は……」

 ない、と言いかけて、竜司はこの惨状に思い至る。

 この調子では、他の組との抗争どころではない。


「それでは契約という形にしませんこと? 見つけたら、このひとたちの話し方を元に戻してあげますわ。手伝ってくれないなら、一生このまま。どうされます?」

 ちんまりした鼻を、ツンと上に向けてロゼッタは言った。


「一生このまま……」

 それでも別に、死ぬわけではない。

 けれど極道の男たちは身もだえし、全員が涙目になっていた。


「お願いしますわ、兄上!」

「こんなの恥ずかしいですわ、私、どうにかなってしまいそう」

「このままでは組長のお見舞いにだって、いけませんことよ」

「そうよ、組長がお知りになったら、どんなに心をいためるかしら」


 そのとおりですわ、いやですわ、といかつい男たちは口々に言う。


「兄上、仕方ありませんわ。どうかロゼッタさまと探し物をしてください」

「殿方ですもの、お腹をくくるべきですわ!」


 いかつい男たちの、額に汗を浮かべた必死の懇願に、竜司は複雑な思いで首を縦に振った。

「わ……わかった。ロゼッタ。探し物ってのを、手伝わせてもらおう」


「よかった。取引成立ですわね」

 差し出したロゼッタの手を、触れても大丈夫だろうかと躊躇しつつ、竜司は握った。


 その手は柔らかいだけの、普通の手だった。

 ロゼッタはにっこり笑い、銀の髪がゆらゆら揺れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ