表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/35

19話・王女、カレーを食す

「それはともかくとしてだ」

 竜司は姿勢を正し、話を戻す。


「ここの一部屋を貸してやってもいいが、マヨ子はそれでいいか?」

「ここの……竜司のおうちですわよね? ええ、もちろんですわ!」

 ロゼッタは竜司の提案を、すんなりと受け入れる。


 すでに竜司に対しては、好感を持っていたからだ。

「清潔だし、隙間風もないし。……もしかして竜司は、男女が一つ屋根の下で暮らすということで、私を意識しているのかもしれないですけれど」


「してねえ」

「問題ありませんわ。私には護符がありますもの」

 ロゼッタの答えに、それもそうかと竜司は納得したようだ。


「お前が心配なら、坂巻に内鍵を買ってこさせて取り付けようかと考えてたが、いらねえな。……仕方ない、当分ここに住め」

「わかりましたわ!」

 ロゼッタはにっこり笑ってうなずいて、スプーンをペロッと舐めた。


 日が暮れてくると、竜司に言われてロゼッタは、夕飯の支度を一緒に始めた。

「この、薪も炭もないのに火が付く仕組みも、やはり電の力ですの?」

 竜司は、鍋の中の野菜をかき回しながら言う。


「違う。これはガスの力だ」

「ガス……! 強そうな名前ですわ! ……それは、なにを入れようとしているの?」


 大きな四角い、泥の塊のようなものを、竜司が鍋の上で割っている。

「これは、ルーだ」

「ルー……? あまり、ルーって感じには見えませんわ。ゴーとか、ドーとか、そんな感じがします」

「どんな感じか知らねえが、ルーなんだよ」


 それが鍋に投入されると、嗅いだことのない香りが、キッチンに充満した。

「……悪い匂いではないですけれど……独特で、強い香りですわね……」

「ちょっとこれをかき混ぜておけ」


 竜司は言って、ロゼッタに大きなスプーンを渡した。

 そして自分は冷蔵庫から、蓋のついた金属の筒を取り出す。


 かしゅっ、と音がして蓋の一部に穴をあけた竜司は、そこに口をつけた。

 ごく、と喉が動くのが見える。


「……飲み物ですの?」

 尋ねると、竜司はうなずいてから、複雑そうな顔をした。


「お前は……十七歳だったよな」

「ええ」

「……まあいい、やめておくか。ぶっ倒れたりされても面倒だしな」

 どういうことだろうかと考え、ロゼッタは思い至る。


「もしかして、お酒ですの? 私のいた世界にだって、もちろんお酒はありましたわ」

「そうか。飲むか?」


「いえ。あまり美味しいものとは思いません。クリームソーダのほうが、千倍も美味しいですわ!」

「やっぱりお子様だな」

 竜司は肩をすくめ、ロゼッタはムッとする。


 そんなことを何回も繰り返すうちに、鍋の中はぐつぐつと煮え、竜司は小さな箱を電子レンジに入れる。

「それはなんですの?」


「穀物だ。温めたらもう食える。……腹は減ってるか?」

「食べたいですわ!」


 鍋から香り立つ匂いは、とても不思議だった。ツンときてスパイシーで、とても食欲をそそられる。

 やがてダイニングキッチンのテーブルの上に皿が用意されるころには、ロゼッタの腹部からは、ぐぅ、と音が鳴っていた。


「そういや言ってなかったな。この世界で暮らすからには、お前もしきたりを覚えろ」

「しきたり……?」

 テーブルを挟んで座ったロゼッタに、竜司は奇妙なことを言い出した。


「飯を食う前にはこうやって、手のひらを合わせる」

「……こうですの?」


「そうだ。で、いただきます、と言え」

「いただきます……?」

 言われたとおりにすると竜司はうなずき、食え、と言った。


 ロゼッタもうなずき返し、スプーンを手にする。

 そして竜司の真似をして、ソースのかかった穀物を、少しだけ口に運んだ。


「……これは……んー……んん……」

 美味ですわ、と言いかけて、ロゼッタは顔をしかめる。

 美味しい。確かにとても美味しい料理だ。しかし。


「口が、熱い……かっ、かりゃいです……!」

「あー、そうか。お子様の口だったな」

 竜司は立って行って、水を汲んで戻って来た。


「食えないなら無理するな」

「いえっ、美味しいんでふ。ただ、かりゃい……」

 はふ、はふっ、と息をつき、顔を赤くしながら、ロゼッタはカレーライスを頬張った。


「かりゃい、でも、止まらない……っ。こ、これも電の力ですの?」

「いや。インドのスパイスの力だ」

「すごいですわ、インドのスパイス……!」


 なんだかんだと言いながら、ロゼッタはカレーライスを完食した。

 そして、再び食後のデザートにゼリーを出されて、歓喜の声を上げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ