表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

18話・王女、フルーツゼリーを気に入る

ロゼッタが札と小銭の種類などを把握し終えると、休憩だ、と竜司は冷蔵庫から何かを取り出して戻ってくる。


「よく覚えたな。褒美だ、食え」

「褒美……?」


 スプーンと一緒に渡されたそれを、ロゼッタはまじまじと見る。

「これは、食べ物ですの?」


「ゼリーだ。上のシートを剥がせ」

「……?」


 どんなものなのだろう、と思いながらシートを剥がしたロゼッタは、ほう、と溜息をついた。

「美しいですわ……!」


「またそれか」

 竜司は食べないようで、二杯目のコーヒーを飲んでいる。


 ロゼッタは目を輝かせ、夢中で言った。

「だって、こんなに透き通って、淡いシャンパンカラーで、ほら! 日の光にかざすとキラキラしてますわ! そうだわ、これをお部屋に飾りましょう。きっと素敵ですわ!」


「やめろ。虫がたかる」

「もう少し小さければ、紐を通してペンダントにしますのに……」


「崩れて絶対に無理だ」

「竜司は意地悪ばかり言いますわね」

「食えと言ってる」

 もう、とロゼッタはむくれつつ、そろそろとスプーンを差し込んだ。


「あら本当。結構、柔らかくてびっくりしましたわ! 水晶のように固く見えたのですもの。味は……」

 言いながら、ゼリーをパクリと食べたロゼッタは、頬っぺたを押さえる。


「フルーツを甘くした感じですわ! なるほと、いわばこれはフルーツの煮凝りなのですわね! とっても美味ですけれども……」

「予知夢で見たのとは違う、か」


「ええ。違います」

 しかしなんと不思議な食べ物が多いのだろう、とロゼッタは感心する。

 それに何を食べても美味しいのだ。


(こんなに美味しいものばかりということは、奇界の食物すべてが美味しいのかもしれませんわ。だとしたら、すべて食べ尽くさないと、見つからないのかも……)

それでもロゼッタは、悲観的にはならなかった。


 実を言うと、そんなに急いで帰りたい理由はなかったのだ。

(王家で代々飼育している竜たちに、新しい栄養が必要なのは本当ですわ。でも……あのまま弱くいてくれたら、あの子たちだって静かに暮らしていける……)


けれどそれでは、ロゼッタの家、ゲートルート一族の手柄にはならない。

 ロゼッタは複雑だった。


(本音を言えば、竜司とこうしていつまでも、不思議な異界で面白い体験をしていたのですけれど。……二つ目の探し物についても夢のお告げがあれば、それを探す間もこちらにいられるでしょうけれど、残念ながらあれから夢は見ていませんわ。……ああ。こんな気持ちを知られたら、お母さまにうんときつくお仕置きされるわ)


「──マヨ子。少しお前に聞きたいんだが」

無言になって、黙々とゼリーを食べ終えたロゼッタに、竜司が質問をしてくる。


「なんですの?」

「お前の魔法ってのは、他にどんなことができるんだ。攻撃には使えないのか」

「使えませんわ」

 あっさりとロゼッタは答えた。


「それができたら、危険視されてしまいます。王族たちが使う魔法は、とても厳しく制限され、ルールが設けられているのです。ですから、私が使えるのは……」

 ロゼッタは、滅多に普段は使わない魔法も含めて列挙する。


「言葉を操る。歌声を美しくする。楽器の音をよくする。美容全般。得意なのはその四つですわ。言葉の魔法も、契約を結ぶために無理に言質をとる、などということは禁じられています」

「それじゃ使えねえな……」


 ボソッと言った竜司に、ロゼッタは同意する。

「そうなのです。自分に対して使えないのに、他人を美しくする魔法が使えるって、とても虚しいんですの。この気持ち、おわかりいただける?」


「わからん」

 竜司はやれやれと首を振った。

「でも、防御はできるんだったよな?」


「できますわ。王家の護符は、強力な結界魔法を発動させますもの」

「それは弾……はお前の世界にはねえか。刃や矢も防げるのか?」


「可能ですわ。防ぐと言うか、相手にそのまま返ります」

「俺もそれを使えるか?」

「無理です」

 ロゼッタは、身も蓋もなく言う。


「王族以外が護符に触れたら危険だと言ったはずですわ」

「ああそうか。……カチコミに使うのは無理だな」

 竜司はあきらめたらしく、肩の力を抜いた。


「まあいい。ところでこの調子だと、お前はしばらくこっちの世界にいることになりそうだが、どうするつもりだ」

 はい? とロゼッタは首をかしげる。


「どうする、とは」

「いつまでも昨日みたいな宿はとってられねえぞ。うちは貧乏所帯なんだ」

「でも、竜司がお部屋を用意してくれるのでしょう?」

 ロゼッタは少しうきうきしながら言った。


「お宿のトイレが凄かったですわ! ピカピカで、真っ白で……そうですわ、聞かなくてはと思っていたのですけれど、すごく不思議だったことがあるのです」

 ロゼッタは真剣な口調になる。


「私が扉を開くと灯りがついて、それだけでなく蓋がぱかっと開くのですわ! あれはどういう仕組みになっているのですか?」

 竜司は面倒くさそうにしつつも、答えてくれた。


「そりゃあれだ。見えない人間が開けたり締めたり灯りをつけたり消したりする」

 えっ、とロゼッタは絶句する。


「人がいたのですか!? それはつまり、奇界には透明な種族がいるということ……!?」

「そういうことだ」

「人が待機していただなんて、そ、それは……恥ずかしいですわ……」

「気にするな。あいつらは仕事で慣れてる」


 竜司はそう言うが、ロゼッタは落ち着かなかった。

「この家のトイレも、そういう仕組みですの?」

「うちでは雇ってない」


 それを聞いて、ロゼッタはホッとした。

「よかったですわ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ