11話・王女、クリームソーダを気に入る
「いい香りですわ! それはなんですの?」
「……コーヒーだ。これも味を知っとけ」
ティースプーンにすくって差し出されたそれを、ロゼッタは口に入れてみる。
「んんっ、まずっ!」
顔をしかめたロゼッタを、竜司は鼻で笑った。
「やっぱりガキだな」
「意味がわかりませんわ。年齢に関わらず、美味な物は美味、不味いものは不味いのではなくて?」
「お前もそのうち、年食えばわかる」
やがて竜司の前にはトーストが、ロゼッタの前にはホットドックが置かれた。
「……妙な名前でしたけれど、写真のまんま、美味しそうですわね」
ロゼッタはうきうきしながら、ぱくっと熱々のパンにかぶりついた。
少し焦げたウインナーと、レタス。それに、なんと不思議な味付けの卵らしきものが挟まっていて、とても美味しい。
「この、とろっとした卵がすごく……クリーミーで……繊細な味付けで気に入りましたわ!」
「あー。それは、マヨで混ぜてあるからな。どうだ、その味か?」
「違うけれど、美味しいですわ!」
またそれか、と竜司はつまらなそうに言って、トーストに齧りつく。
それからなにかに気が付いたかのように、睨むような視線で店内を見回してから、気のせいか、とつぶやいた。
「……竜司は、私といるのが不快ですの?」
そうだとしたら少し傷つく、と思って尋ねると、無慈悲に竜司は答える。
「当たり前だ」
竜司はパンパンと手に着いたパンくずをはらう。
「このままじゃ、仕事にならねえ。メールで済むもんはいいが、集金さえ滞る。親父になんて説明すりゃいいのか、こっちは頭が痛いんだよ」
「頭痛ですか。体調が悪いんですの?」
「比喩だ」
ちっ、と竜司は舌打ちをする。
イライラした様子に、ロゼッタはしょんぼりしそうになったが、そのとき店員がクリームソーダを運んできた。
「……わあ……!」
透き通ったグラスに、綺麗な緑色の液体。それに乗った丸いクリームと、赤い木の実。
その見た目の可愛らしさにロゼッタは目を奪われた。
「素敵! なんて美しいの……!」
窓から入る陽の光に、グラスがキラキラ光って見える。
竜司はそんなロゼッタを、不思議そうに見た。
「クリームソーダを美しい、って言うやつを見たのは初めてだ」
「そうなんですの? どうして? 美的感覚が、奇界の人たちとは違うのかしら。だって、緑の宝石みたい……泡がしゅわしゅわしてますわ……これは本当に、飲めるものですの?」
「食い物屋で器以外、口にできないものは出てこねえ。さっさと飲め」
なるほど、とロゼッタは真剣な顔でうなずき、ストローを口にした。
そして、口の中に飛び込んできた冷たい炭酸にギョッとする。
「んんんー!」
甘くて冷たい。そして、ぴりりと炭酸が舌と喉を刺激する。
「そ、それにこのクリーム! 冷たいですわ、びっくりですわ。……わ、わかりました、あれですわよね。昨日飲んだしぇいくの溶けていない、固まっていないバージョン! そうでしょう?」
「まあ、そうだ」
「見た目も素敵だし、味も素晴らしいですわ! そして赤い実をワンポイントで飾る、この絶妙な感性! これを……この美味なる芸術品を、奇界では庶民が口にできますの!?」
「ああ」
竜司は無造作に相槌を打つが、ロゼッタは興奮する。
「すごいっ! すごいですわっ!」
ロゼッタは飲んでなくなってしまうのが惜しいと思いつつ、夢中になってクリームソーダを味わった。
だが、残念ながらそれもまた、予知夢で見た美味しい食べ物とは違ったのだった。
「さて、昼までどうするかだな。マヨ子の運動靴でも買うか」
「……竜司。ちょっと待って」
店を出たふたりだったが、ロゼッタはそこで立ち止まる。
入る時、なにげなく目にしたショーケースには、いくつかの料理が並んでいた。
どんな料理なのかわかりやすくするために、置いているのだと思ったのだが。
「この右端のものは……クリームソーダの上に載っていたのと同じ、クリームですわよね……?」
「ああ、単なるアイスクリームだな」
「私が入る前にもここにあって、もうだいぶ時間が経っているのに、どうして溶けませんの?」
「作り物だからだ。蝋の」
「蝋で!? そんな……私がこの世界のことを知らないからって、嘘を言ってますわね!?」
とても信じられずに言うと、竜司は嫌な顔をした。




