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 夜空に浮かぶ、一つの馬車。その周りには、白き翼を持つ戦乙女の軍団が馬車を護るように飛んでいる。

 そんな馬車の中に入っているのは――。


「ロキ。貴方には、ここ一週間分の溜まった仕事を片付けてもらうからな」

「げー」

「げーじゃない! 私がどれだけ貴方を探したか!」

「わっ、悪かったって! そう怒んなよっ!」

 

 美を現したかのように眩しい男。そんな彼と軽口で話すロキ。そして、その向かい側で兄妹は身を寄せ合って自分達の置かれている状況の急上昇さに怯えていた。

 兄妹が困惑するのも無理はないだろう。突如として現れた自分達を助けてくれた人が、まさかの神だというのだから。

 ナルは気晴らしに窓の外を覗く。景色は遠くなっていく大地を映しており、それを見ながら彼女は本で読んだ事を思い出す。

 この世界は、八つの国を世界樹が支えている。

 か弱き人間族の国、鍛冶師の小人族の国、気まぐれな光と闇の妖精族の国、最も熱い炎の国、最も寒い死の国、力こそ正義の巨人族の国。そして――世界樹を守り信仰する最高神オーディンが率いる神族の国。最高神であるオーディンが実質的なこの世界の支配者であるため、その傘下にある神族は最優種族なのである。

 神族と聞いて緊張していた兄妹だが、二人のやり取りがだんだんと面白く感じ、兄妹揃ってくすりと笑ってしまう。

 ロキは視線を感じたのか、苦笑いを見せながら兄妹に話しかける。

 

「あー、悪いな。色々と唐突でさ。びっくりしたか?」

「そりゃあ、驚いたよ。なぁ」

「う、うん」


 三人の会話を、バルドルは「こほん」と遮る。


「連れてきてなんだが。貴方達は、一体なんなんだい?」


 兄妹はバルドルに、ロキにした話をする。

 自分達の記憶の始まりはこの世界が変わってしまった時であること。記憶はないが、自分達は兄妹であることは理解していること。人間の国で、誤解を受けて逃げてきたこと。逃げた先でレムレスに襲われて、ロキに助けられたこと。

 その話に、バルドルは顎に手をかけて考え込む。


「……貴方達を疑うつもりはないが、にわかには信じられないな」

「でもよ。世界がこんなことになっちまって、レムレスなんていう化け物も出てきてる。だからさ、そういうこともあるのかもしれねぇだろ」


 バルドルの疑う様子に、ロキがフォローをかける。彼の言葉にバルドルは、また少し考えながら「それも……そうかもしれないな」と一言溢す。


「わかった、わかったよ。今更だが……貴方達を、神の国に歓迎しよう」


 バルドルが視線を窓の外へと向ける。その視線に釣られて、兄妹も同じようにそこへと目を向ける。視界に入った景色に、兄妹は「わぁ!」と目を輝かせる。

 いつの間にか馬車は虹の道を走っており、眼前には白く高い壁に守られている空に浮かぶ大陸が姿を現していく。そんな大陸の半分を、緑の葉で覆う存在――世界樹が見守っているように存在していた。



 馬車は大きな門をくぐり、ひっそりとした街を通りぬけ、神の国の奥――世界樹の下にある城へと着地する。

 建物は全て純白で統一されており、その色は神族の煌めきを現しているかのようである。

 バルドル、ロキ、兄妹の順に馬車から降りていくと、「バルドル様だ!」「バルドル様がお戻りになられた」と、ゾロゾロと神族達が中からや窓から姿を現してくる。

 

「さて。お父様に会う前に、君達の身なりを整えないと」

 

 バルドルは兄妹の姿をチラリと見ながら、女騎士達に色々と命令を下していく。その間、遠巻きで見ている神族達がヒソヒソ話――のつもりの話を。


「邪神だ。どこかでレムレスにでも殺されてればよかったのに」

「なぜバルドル様はあんな奴のことを気にかけるのだろうか」

「それはバルドル様がお優しいからに決まっている。そうであっても、あの邪神の態度は気に食わないが」


 わざとらしく耳に入れてくる刺々しい言葉を放ってくる。そんな言葉を、ロキは口笛を吹きながら聞こえないふりをしていた。

 が。

 自身の手に二つのぬくもりを感じ取った。

 その感覚に驚くロキは、自分の両手を交互に目線を動かすと……ロキの隣に居た兄妹が、彼の手を強く握っていたのであった。

 

「……思ってたんだけどさ。ボクが怖いとか思わないの?」


 ロキの言葉に、兄妹はきょとんとした表情を見せて「なんで?」と返す。


「いや、なんでって……質問に質問で返すなよな。……まぁ、いっか。君達がそれでいいんなら」


 ロキはあたたかな笑みを浮かべながら、兄妹の手を握り返した。

 


 場所は変わり。

 兄妹が別室で女騎士達に身なりを整えられている間、バルドルとロキはソファでゆっくりとくつろいでいた。

 特に談笑もする事なく、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。


「……シギュンさんの事だが」


 バルドルが、その沈黙を破った。


「この一週間。姿が見えなかったのは、消えた彼女を探していたんだろ?」

「……」

「別に責めたりしないさ。黙っていたことは……親友として、怒りたいところだけれど。必死だったんだろ? 愛する人が突然何も言わずいなくなったんだからな」

「……」


 何も話そうとしない、目も合わせようとしないロキ。そんな彼に、バルドルは一つため息を吐き。話題を変える。


「で、あの兄妹のことだけれど。彼等が話した事にもあったように、人間の国で少し話題になっていた」


 ロキの瞳がバルドルの方へと向けられる。


「『銀色の髪と瞳の男女が彷徨いていた』。君が愛した彼女に似た兄妹。何かしら関係があるんじゃないかって探していたら……まさか、貴方も見つけることが出来るとは思わなかったな」


 彼の言葉にロキは「そっか」とだけ答える。

 

「けれど。私はまだ納得していない。あのロキが、あんな不思議な子供達を保護する理由はなんだ? やはり、何か関係があると思ったからか?」

「……さぁ。なんでだろうな」

「おい、はぐらかすのもいい加減に」

「まぁ、考えるのはあとだぜ。バルドル」


 ロキは無理矢理バルドルとの話を区切り、目線を動かす。その目線の先には、身だしなみを整えられた兄妹が現れる。

 ナリは長髪を下に一つできゅっと結び、ナルは横髪だけを鎖骨まで伸ばしたまま後ろ髪は肩あたりまでスッキリとさせている。服装は、ロキと同じような白い服をそれぞれ男女用の物を身につけていた。

 綺麗になった自分達の姿に、兄妹は鏡の前でソワソワとしている。

 

「さっ。最高神様に会いにいくか」

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