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96. トミー変身


 翌日は、トミーの衣装のあれこれを買いに出かけた。

 スチームパンク系のオンラインショップはいつくかあるようだけど、実店舗を構えている店となるとほとんどない。

「こういうのに近いっていうと、パンクファッションとかバイク用の店かなあ」

「ゴスロリとかのコスプレ系は?」

「そうだね。ま、とりあえず原宿あたりに行ってみればなんかあるかも」

 当てもないままに四人プラスレイナちゃんで原宿へ向かった。

 そこで見つけられたのは、チョーカーとか帽子とか革手袋くらいだった。

「なかなか思ってたようなのってないねえ」

「特に靴がなあ」

「あんな厚底の重そうなブーツじゃ叩けませんよ。あとアクセサリーもちゃらちゃらしてると」

「だよね〜。靴はさ、アイナが履いてたようなのでいいんじゃない?」

「ウエスタンブーツか? あの服には合わなそうだけどなあ」

「もっとエレガントなやつがいいけどな。細いヒールの」

「なるほど〜。じゃデパートに行ってみようか。靴がないと外に出られないもんね」

「外って、あの格好で出歩くの? ステージ衣装なんじゃないんですか?」

「ううん、普段着」

「ええっ!?」

「いいじゃんいいじゃん、その地味なのよりずっとカッコいいって」

「他人事だと思って〜。それにこんな暑いのにブーツなんて履けませんよ。ほら、暑くてレイナちゃんもぐったりしる?」

 レイナちゃんはずっとトミーに抱っこされて、大きな胸に身を預けてぼーっとしていた。

「どっかでいったん休憩しよっか」

「じゃ私たちで探してくるから、二人は休んでて。なにかあったら呼ぶから」

 ということで俺とエッチでデパート巡り。

 ようやく見つけたのは編上げブーツじゃなく、スエードのニーハイブーツだったけど、なかなかおしゃれだった。

 ついでにエッチとアイナ用にもグレーと赤の色違いを買った。

「とりあえずこれでいいかな。あとは通販で買うことにしよう」

「う〜ん、メガネもなんとかしたいとこだけどな」

「トミー、ちょっとメガネ取ってみて。ないと見えない?」

「ちょっとぼんやりするくらい」

「お、メガネないほうが可愛いんじゃね?」

「うんうん、ないほうがいいよ。顔がすっきりして見える」

「ないとなんだか落ち着かないっていうか心もとないよ」

「あ、じゃあさっき露天で売ってた丸いサングラスは?」

「うん、いいかも」

 黒やグレーや素通しの丸メガネも買い揃えて、いったんクルマに戻る。

「次は髪の毛だね。飛び込みでやってくれるとこ、あるかなあ」

 エッチが近くのヘアサロンに何軒か電話を掛けてみるけど、予約なしではムリそうだった。

「しょうがないからウィッグにしようか」

「それならさっきのコスプレショップにあったな」

「よし、もう一度行ってみよう」

「私、レイナちゃんとここで待ってるよ」

「だめだめ、トミーに似合うの探さないとなんだから」

「今度は俺が待ってるから行っといで」

「うん、お願い」

 戻ってきた三人の頭は色とりどりだった。

 アイナが銀髪のロング、エッチが青のボブ、トミーはピンクのミディアムだ。

 思わず笑ってしまった。

「どう、似合ってない?」

「その服装じゃなあ」

 エッチとアイナは白や黒のTシャツにジーンズ、トミーは白いブラウスに黒のスラックスとパンプスで、頭だけがカラフルだった。

 レイナちゃんがキャッキャッと引っ張って遊んでいる。

「他にもいろいろ買ってきたから、気分に合わせて楽しめるよ」

 昼飯代わりにハンバーガーを食べ、立川に帰った。

 その途中でアイナが訊いてきた。

「あんたらさ、バカスカ値段もみないで買ってたけど、なんでそんなに金あるんだ? なんか働いてるようにも見えないしさ」

「え、これが私たちの仕事だけど?」

「遊んでるとしか見えないんだけど?」

「う〜ん、なんて言ったらいいんだろ」

「まあ俺たちは遊びを仕事にしたようなもんだからな」

「そうそう。楽しいこと、やりたいことをやってるの」

「それにしたってさ、金、使ってばっかりじゃ……」

「会社の経費になるのもあるしね」

「今は準備期間だから、そのための金は取ってあるし二人は心配しなくていいよ」

「そんならいいけどさ……いくらぐらいあるんだ?」

「二、三千万は大丈夫」

「ええ〜っ! 大金持ちじゃん! あんなビルまで建てて!」

「でも、内装とか機材とかもすごく掛かるんでしょ? お給料だってもらえるって話だし」

「一応そっちの予算も取ってあるけど、いくらぐらい掛かるかな」

「今使ってる貸スタジオの機材一式で、だいたい150から160万くらいかな。ライブハウスの機材はまだ調べ中。あトミー、常設するドラムセットはなにがいい?」

「どうなんだろ。今のスタジオのセットも悪くはないし、高いほうがやっぱり音がいいんだろうし、上を見るとキリがないよね」

「あのセットなら12万ちょいだね。ヤマハのレコーディングカスタムだと35万くらいか〜」

 エッチが例のノートを繰りながら言う。

「何台くらい要るんだ?」

「ライブハウスと録音スタジオで最低二台だね。アイナはベースアンプはなに使ってたの?」

「あたしはあんま選り好みしないから、そこにあるもの使ってたけど。アンペグでいいんじゃね?」

「あそこにあるヘッドアンプとスピーカーキャビネットで32万だね」

「ひえ〜、そんなにするもんだったのか」

「とすると、高めに見積もって200万くらいか。二セットで400万。思ってたより安いな」

「いやいや、他にもホール用スピーカーだけでも360万するし、照明コンソールとかライティング一式とか撮影機材とか、まだいろいろあるよ」

「うっ、そ、そうか」

「なんだか金銭感覚が変になってくるわ」

「あのビル建てるのだって5億って聞いたよ?」

「も、もういい。あたしは金のことはもう関知しないから。なににいくら使おうがもう知らん」

「あははは」

「笑い事じゃないんだけど? ねえレイナちゃん」とトミーがひっそりとつぶやいた。まったく俺も同感だ。

「あ、忘れてた!」

「な、なんだよ今度は」

「トミーのブラ!」

 ガクッ。

「え〜、いいよそんなの今じゃなくても」

「ダメダメ! ブラは大事! ちゃんと合ったの付ければ自然と猫背も直るから」

「いや、それはブラのせいでもなくて……」

「私、前にね、グラビアアイドル始めたばっかりの時にあるカメラマンから言われたの。しっかり背筋伸ばして自信満々なふりしてないと、すぐ使い捨てにされるぞって。その言葉がなかったら、たぶんすぐにあの仕事干されてたと思う」


 お前くらいの可愛さなんてそのへんにうようよいるし、次々に若いコが出てくるからな。

 特にお前みたいな男好きのする田舎臭い娘は、すぐに食いものにされて捨てられるのがオチだ。

 だからな、いつでも堂々と胸を張ってろ。意地でも弱みを見せるな。まっすぐ正面を見てろ。自信満々なふりして笑ってろ。

 堂々と見つめられたら、そこらのナンパ野郎は怖じ気づいて逃げてくから。

 この仕事を続けたいんだったら、愛嬌より度胸だ。媚びるより挑め。

 ビデオでも写真でも、カメラにはそういうのがきっちり写るからな。

 

 そんなことを言われたそうだ。

 みんな思わず聞き入ってしまった。

 なるほど、エッチも元からこうだったわけじゃないのか。


「なんか、それわかるわ。あたしも意地だけでやってきたようなもんだしなあ」

「そっか〜、エッチってそうやって出来てきたんだね」

「その頃は何をやっても上手く行かなくてさ、ほんとごはん食べるのも苦労してたし、やっとお金になる仕事をもらってそれに縋るしかなかったんだよね。それでバカ正直にその人の言葉を真に受けちゃって」

「いや、言われても、それをどう受け止めてどう実践するかは、結局本人次第だからな」

「そうですよね。それを魅力にしちゃったエッチは、やっぱりすごいと思います」

「えへへ、ありがと。だからさ、トミーも堂々と胸を張って、その巨乳を武器にしなよ」

「こんなの、武器になるのかな」

「「「なるなる」」」

「ひえ〜っ」

「レイナちゃんだって、このおっぱい大好きだよね」

「トミー、ちゅきちゅき」

 その言葉以上の説得力はない。

 トミーが顔を蕩かせてぎゅっと胸に埋めると、レイナちゃんがうっとりと目をつぶった。

 隣でアイナが「ま、負けた」とうなだれていた。

「ということで、ブラを買いに立川のルミネへゴー!」

 ルミネには、ピーチジョン、アンテシュクレ、ウンナナクールという三店のランジェリーショップが入っているそうだ。

 その三店をはしごして、ブラやショーツ、ストッキング、ガーターベルト、ペチコート、タップパンツとかいうものも買い込んで来た。もちろんエッチやアイナの分もしっかりと。

 ブラも、おしゃれなレースのから、チューブトップ型、タンクトップ型などいろいろで、これなら透けて見えても大丈夫そうということで、他の店でジョーゼットの透け透けなブラウスも何色か買っていた。

 俺は貸出し用のベビーカーにレイナちゃんを乗せて他の階をうろつき、つい子供服を買ってしまった。


 家に帰ると、玄関の前にはいくつか段ボール箱が積まれていた。

 夕べネットで注文した品がもう届いたようだ。

 革ベルト、アームレット、チョーカー、アイマスクなどの小物類だった。

 買ってきたものと一緒に並べて、どんな組み合わせがいいか引っ換え取っ換えトミーに着せてみる。

 最初のイメージとはちょっと変わってしまうけど、なかなかカッコよくなった。

 頭はダークレッドのウィッグに羽飾りのついたソフトハット、黒いジョーゼットのブラウスの下にはタンクトップ型の黒いインナーが透けて見える。そして以前に買ったスチームパンクドレスのコルセットが胸を押し上げ、ウエストをぎゅっと締めている。スカートからは黒ストッキングの太ももが中ほどまで見え、片足にはフリルのガーターが止まっている。スカートの中にタップパンツというサテンの短いインナーを履いているけど、ほとんど見えない。これは下着のチラ見え防止用だ。靴は黒いスエードのニーハイブーツ。手首に黒レースのアームレット。首に黒リボンのチョーカー。目も黒レースのアイマスクで縁取られている。

 これなら知り合いにすれ違ってもトミーだとはわからないだろう。

「こんなヒールの靴履いたことないから立ってるだけで怖いよ」と言いながらも、姿見に映る自分を見てまんざらでもなさそうだった。

「全身真っ黒だな」

「ブラウスは白の方がいいかな?」

「ブラが黒だからなあ」

「白いチューブブラにしたら?」

「と、とりあえず黒でいいから」

「そこまできたら恥ずかしがってる場合じゃないぞ」

「そうそう。ほらもっと背筋伸ばして胸張って」

「コルセットきつくて、屈もうにも屈めないよ」

「もっとウエストキュッと締めた方がカッコいいのに」

「これ以上ムリだってば」

 ということで、トミーの衣装はひとまずこれでよし。

「でも、これ一着だとね。もっとバリエーションがないと」

「だな。また海外のサイトで買ってみるか。アイナのも要るしな。サイズは?」

「え、サイズ? それ言わなきゃダメか?」

「じゃないと買えないだろ」

「うう……168の81、60、86くらい、かな」

「ちなみにブラサイズは? 75のA、かAA……」

「いや、そこまでは必要ないけど」

「くっ、エッチ〜」

「あははは、でもそれってスーパーモデルサイズなんじゃない?」

「そういうエッチはいくつなんだよ」

「私は、164、84、58、85で、Dの65だよ」

「ぐぬぬぬ……ならトミーは?」

「死んでも言わない」

「ずりーぞ、お前」

「ダイエットに成功したら教えてあげる」

「カップだけでも教えて?」

「Fくらい」

「でも、これGって書いてあるぞ」

「今までひとつ小さいのでムリヤリ押さえつけてたんだね」

「だって、歩くたびに揺れるし」

「でも、ちゃんと合ってると楽でしょ?」

「うん、これすっごい楽〜。ワイヤーも入ってないし、形も下着っぽくないし」

「固くないからレイナちゃんももっと居心地いいと思うよ」

「え、ならこれからずっとこれにする!」

「こっちのチューブブラなら肩出してもうちょいセクシーな感じだよ。シャツやジャケット羽織るだけでもカッコいいよ」

「じゃ、ちょっとそれも着てみようかな? あ、ダメだ。もうちょっと肩や二の腕のむちむちが取れてからにする」

「あはは、じゃあ泳ぎに行こうね」

「それなんだけど、エッチたち、朝泳いでるんでしょ? 早くからこっちに来るのも面倒だから、このあたりに引っ越そうかなって、ちょっと思ってるんだけど」

「おお!」

「え、なにそれ、ずるい。あたしもこっちに住みたいよ」

「なら一緒に住まない? レイナちゃんと」

「あたしじゃなくレイナかよ。でも、それいいな」

「そう言えばさ、今借りてる事務所のマンション、一部屋空く予定だって管理人が言ってたけど」

「え、ほんと? あそこ、いくらくらいなのかな?」

「二人で暮らすとなると2LDKくらいだろ? ここが13万5000円だから、もうちょい高いんじゃないかな?」

「15万くらい? う〜ん、さすがに高いなあ。このへんすごく便利だからしょうがないのか」

「一緒に住むんだったら、あたしも半分出さなきゃだろ。7万5000円ずつ」

「あ、なら大丈夫そう」

「ま、ちゃんとエッチから給料もらえるんだったらだけどな」

「そうだね、いくらぐらいがいい?」

「そんなのそっちで決めてくれよ。まだ仕事も決まってないってのに」

「そうだな〜、私とハナとで10万ずつ、とりあえず20万くらいでどう? そのうちもっと上げるから」

「とりあえずもなんも20万ももらえたら御の字だけどさ。だけど、ハナと10万ずつってどういうことだ?」

「だからさ、私の会社とハナの会社で半々」

「なに、ハナの会社にも雇われるの?」

「どうかな?」

「まあ、こっちも人手があると助かるな。今は特にやってもらうことはないけど」

「トミーは、そういう条件でどう?」

「私はいいよ。なんでも言って」

「トミーって今お給料いくらもらってるの?」

「25万。手取りだと23万くらいかな。それとボーナスが5ヶ月分」

「そっか〜。それじゃあだいぶん少なくなっちゃうね」

「平気平気。毎月半分も使わないし、残りは貯金してたから」

「でも実家を離れるとそうもいかないぞ。光熱費だなんだって」

「そっか〜。でもなんとかなるでしょ」

「おい、なんかエッチに似てきてるんじゃないか?」

「あはは、なら嬉しいな。よし、善は急げだ、引っ越しの用意しなくちゃ」

「待て待て、こっちはそう簡単には行かないんだよ」

「なにが?」

「うちの親がなあ、説得できるかどうか」

「あ、レイナちゃんと離れ離れになるから?」

「そこだな。まあ、ムリヤリでも出るけどな。そっちのほうは親はウンと言うのか?」

「どうかな〜、心配はするだろうけど……。どっちみち、いい加減家を出たかったしね、もういい年だし」

「あ、だけど普通のマンションだとドラム叩けないよ?」

「あそこならスタジオ近いし、練習はみんなでやるし、もう家で一人で練習する必要もないから。家じゃキーボード弾くくらいでいいかな」

「なら大丈夫だね」

「もう一回聞くけど、あたしと一緒に住むのイヤじゃないのか?」

「ううん、ぜんぜん。一人で暮らすよりも心強いよ。それにレイナちゃんもいるしね」

「すぐに耐えられなくなるぞ、きっと」

「ま、その時はその時で」

「やっぱ、かなりエッチに感化されてるわ、こいつ」

「アイナもちょっと感化された方がいいよ。特に言葉遣い。レイナちゃんが真似し始めたらどうするの?」

「うっ、今後なるべく気をつけます」

「あははは、返り討ちだ〜」

「なんか、その衣装着てると迫力増してないか?」

 二人漫才が、だんだんトリオになりだしたようだ。


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