71. ハワイの21日
結局めぼしいビル物件は見つからないまま三月になり、俺は三十歳の誕生日を迎え、すぐにハワイに発つ日になった。
三十という節目だけど、なにかバタバタしているうちに感慨もなく過ぎてしまった。
猫たちは、最初はペットホテルに預けるつもりだったのが、なんと山代さんの家で面倒を見てくれることになった。
マンションはペット可だそうで、娘さんもすごく楽しみにしてると言ってくれた。
これはお土産を奮発しなきゃならないな。
三月七日から二十九日までの21泊22日の旅程だ。
羽田を午後九時半に飛び立って、ホノルルに翌朝の十時に到着。
まずは空港のレンタカーショップで予約してあったクルマを借りる。大きなボストンバッグを二個も抱えているので、最初はクルマ移動だ。
H1という高速を東に向かい、Koco Head Aveという通りに出て道なりに北上して、予約してある宿まで向かった。
ダイヤモンドヘッドの裏側のマウナラニというところにある貸切りアパートメントだ。
途中でちょっと道を間違えたけど、地図を頼りに20分くらいで無事に着いた。
慣れない左ハンドル右側通行だけど、道は広くてすごく走りやすい。
アパートメントといってもベッドルームがひとつの小さな一軒家だ。
周りは普通の民家が建ち並んでいる。低い山に囲まれていて、なんとなく日本の小さな町のような感じだった。
午後三時のチェックインまでかなり時間があるので、海の方へドライブしてみる。
ワイキキまで10分ちょっとらしい。適当にそっち方向に走って行けば、次第に都会っぽくなってくる。
一方通行の道が多いので注意しなければならない。
アラ・ワイ運河沿いをぐるっとUターンして有名なカラカウア・アベニューに入れば、左右に高層ビルが建ち並んでいて、いろんなショップが軒を連ねている。そして右にビーチが見えてきた。これぞワイキキという感じ。エッチも横でキャーキャー言っている。
駐車場を見つけてクルマを置き、歩いてビーチに出てみる。空と同じ色の水色の海に白い波が寄せて、絵はがきそのままの風景だ。ビーチにはまばらに人が寛いでいた。
カラカウア・アベニューに戻って、ショップを眺めながら舗道をのんびりと歩く。途中でTシャツやアロハやショートパンツなどを買った。日本ではとても選ばないような派手な柄に、思わず手が伸びてしまうのはなぜだろう。
そしてハワイアン音楽を奏でているハンバーガーショップで遅い昼食を摂った。チーズバーガーが$14.80、2000円ちょっとするのはびっくりだ。ドリンクとチップ20%で、合わせて3500円。なんというか、さすがのハワイ価格。味の方はまあまあ、量はたっぷりだった。
また少し散策してクルマに戻り、宿に向かった。
ちょうど三時を過ぎた頃で、玄関先で管理人のおばさんが待っていてくれた。
家の中は落ち着いた感じで、どことなく生活感が漂っている。
リビング、ベッドルーム、キッチン、洗面所、ランドリー、どこもコンパクトな作りで、芝生の庭と駐車場もあり、二人なら充分ゆっくりできそうだ。ただ、窮屈なシャワーだけでバスルームがないのが残念だ。
荷物を解いて、さっき買ったTシャツとショートパンツに着替え、今度は食料品の買い出しに出かける。
エッチがノートPCで近くのスーパーマーケットを調べ、ナビゲートする。
「ここを真っ直ぐ南に行って、ワイアラエ・アベニューってとこに突き当たったら左に曲がって、ずーっと行って高速の下を通って、信号で左に曲がってフナカイ・ストリートに入ってすぐのところ」
「え? どこの信号だって?」
「わかんないけど、たぶんもう少し先かな?」
英語の標識に目をキョロキョロさせている。
なんとかカハラマーケットというところに着いた。30分もかからなかった。
ここはハワイ産の食材にこだわったスーパーらしい。中は広々としているけど、日本の大きなスーパーとそれほど違いはない。
肉、野菜、卵、チーズ、フルーツ、ミルク、オレンジジュース、ポテトチップス、クッキー、アイスクリーム、パン、ハム、ベーコン、缶詰、トマトスープ、パスタ、ワインとビール、念のためにトイレットペーパーも買った。
調味料は、小さなプラスチックボトルに入れていくつか持ってきたけど、心もとないのでさらに買い足した。
五日分のつもりでも、かなりの量になってしまった。
これじゃあバイクではとても運べない。やっぱりクルマが必要なのか。さっそく問題に突き当たってしまった。
夜は、買ってきた肉を焼いて食べた。日本で食べるステーキとは、なにか違う味がした。
明日はどこへ行こうかなどと話すのもそこそこに、セックスもなしで早めに眠った。
大きなベッドの寝心地はとても良かった。
パールハーバーからイースト・ホノルルまで、マウイ島の南東を、交代で運転しながら気の向くままに走って、停まって、歩いて、うろうろした。
名前も知らないビーチがあちこちにいっぱいあって、海に入ったり砂浜で昼寝をしたり。
朝市があると聞けば早起きして行ってみたり、教会の薄暗い中を覗いたり、道端の雑貨屋に寄って店のおばちゃんと話をしたり、パブリックコースで初めてのゴルフもした。
夜は二人で簡単な料理を作り、なにが良かった、どれが楽しかった、あれをしたい、あそこに行きたいと話をして、ぐっすりと眠る。なぜか二人ともセックスをする気にはならなかった。
そこで五日を過ごし、次はプナルウというマウイの北東の町へ移動した。
H1ハイウエイを西に行き、カリヒ・ストリートに右折して北へ向かい、山の合間を縫うようにリケリケ・ハイウエイを北に進む。そのままカヘキリ・ハイウエイの乗り、カハルウの町で東海岸に出る。そのまま海沿いを北上し、ハイウエイと名が付いているけどごく普通ののどかな田舎道をどんどん北へ走る。景色はいいけど、ずっと代わり映えしないでのいい加減飽きても来る。
そしてプナルウという小さな集落のような町に到着した。
今度の宿は、海に面した九階建てのホテルのようなコンドミニアムで、設備が整っている。
バスルーム、ベッドルーム、広々としたリビングダイニング、キッチン、洗濯機と乾燥機、ヘアドライヤーまで揃っている。
館内には、フロント、レストラン、フィットネスルーム、屋外プール、駐車場、バーベキューコーナーもある。
オーシャンサイドには芝生の庭が広がっていて、そこの階段を下りればもうビーチだ。
そして海の色が濃い。ワイキキよりも深い青のようだ。
まさにリゾートホテルという感じだけど、その分値段は高い。そして周りにはほとんど何もない。海しかないと言っていい。だから部屋の設備を充実させるしかないのかも知れない。
食料を買い足しに、もう少し北のライエやカフクの町に行ってみる。ついでにバイクをレンタルできる店はないかと探したけれど、見つからなかった。
海沿いを走ってみても、どのビーチでも遊んでいる人やサーフィンしている人はほとんど見かけない。北端のカフク・ポイントにも行って見たけど、どこもそう変わりはなかった。
結局、ホテルの近隣の町に買い物がてら出かけるくらいしかやることがなく、ここの四日間はがっくりするほど退屈だった。
まあ、その分エッチとベッドでたっぷり楽しんだのだけれど。
次は島の北西部、ノースショアのハレイワという町だ。北のカウェラ・ベイをぐるっと回っても30分もかからなかった。
ここの宿は四部屋あるアパート形式で、内装はウッディな落ち着ける感じだ。
ヨガ教室やスパなんかもあった。
キッチンがほとんど役に立たず、レンジでチンするくらいしか出来ない。余っていた食材を持ってきたのだけど、いろいろとムダになってしまった。パンにジャムを塗ったり缶詰を乗っけたりするくらいで済ませるしかなかった。他の人は近くのレストランで食事をしているようだ。
歩いて五分くらいでサンセットビーチに出られる。名前の通り、夕焼けは壮大で絶景だった。毎日夕陽を見に行った。
それよりなにより、近くにはカフク・モトクロスパークがあった。
250ccのモトクロスバイクを借りて、木々の間の赤茶けた土の上を思いっきり走り回れる。
特にコースらしいコースは設定されておらず、自分の好きなように走れる。
高低差がほとんどないため危険な場所はなく、木やブッシュや他のバイクと衝突しないように気をつければいいだけだ。
俺もモトクロスは初めてだったけど、めちゃくちゃ楽しくて、土ぼこりまみれになって走ってはターンし、ジャンプし、滑り、転んで遊んだ。エッチも顔を真っ黒にして笑いながら走り回っていた。
帰っても、モトクロスバイクを買って続けたいねと言うほど、二人とも嵌まってしまった。
五日間を、そうして過ごした。




