39. タイムリミット
十月一日に『カフェ・リコ』がオープンした。
その商業ビルの一階には、携帯電話ショップと本と文具の店などが並んでいて、奥にはケーキ屋、レディースファッション、輸入インテリア、ファッション雑貨の店なども入っている。
女性向けのおしゃれな店が集まっている一画だ。
その角に全面ガラス張りのカフェが出来、連日若い女性たちが押し寄せた。
店長の莉子ねえ、厨房スタッフ一名、フロアスタッフ二名の四人が正式なメンバー。
他にアルバイトとして厨房に二人、フロアに二人を加えた合計八人でスタートを切った。
紗子ねえは調理学校に通っているため、今は週三くらいの臨時バイトの形での参加だ。
最初の三日は俺も学校を休んで臨時バイトとして徴収された。
店内はファストフード店とは一線を画するゆったりと落ち着ける内装に仕上がっていた。
白いレースのテーブルクロスを架けた小さめながらどっしりとした四人掛けの丸テーブルがハ台、長方形の六人掛けテーブルが二台、カウンターにトールチェアが六脚。
どちらかというとフランスレストランみたいな、ちょっと気取った感じがする。
それが女性客の心をくすぐるようだ。
値段もコーヒーが580円というお高めの設定になっている。
ドリンクやフードやデザートの種類はそう多くはないけど、通常よりも一手間かけた凝ったメニュー構成だ。
カップや皿やスプーン・フォークなども、外国製の洒落たデザインで統一されている。
当初は店内のモニターに『レディーゴー・スポーツ&フィットネス』のPVも定期的に流す予定だったのだけれど、どうも雰囲気にそぐわないという判断ですぐに中止になった。
映像はやめて、スタンダードジャズのリラクゼーション系チルミュージックを店内BGMにした。
フロアスタッフも、ゆったりと落ち着いた、それでいて素早い動きが求められる。
俺が手伝いに入った厨房はてんてこ舞いだったけれど。
最初の数日は、物珍しさでお客が絶えることはなかった。
初動は概ね成功で、目論んでいた利益も出ているらしい。
店が終わったあとは反省会。
毎日なにがしかのトラブルが起こり、その対応がまだ不十分のようだ。
でもだんだんとこの店のノウハウというのが出来上がってきて、スタッフ間の連携も取れてきたようだった。
そして十日ほど経ち、客足が平常に戻ってからのここからが本当の勝負だ。
莉子ねえの悩みと苦労は尽きそうもない。
そんな中、スポーツクラブの方もリニューアルオープンした。
地元のテレビ局で、今日の平日夕方のローカルニュース番組の後と、金曜と土曜の九時台と十一時台に、あのCMが放映された。
テレビで観るマオ先輩の姿は俺の知っている先輩じゃないようで、なにか少し遠い気がした。
CMの効果は思っていたよりもすごく、どのフロアも無料体験客で順番待ちの有り様だった。
その中の二十人に一人でも有料会員になってくれたら成功という話だった。
マオ先輩は、毎日各フロアを回っては、気軽に声を掛け、一緒にトレーニングし、トレーナーとしてアドバイスをしたりしていた。
その姿を一目見ようという女性客・男性客も多かった。
そのあおりで、しばらくは前のようにプールのレーンを貸し切って部活をすることが出来なかった。
俺はプールの見回り監視員兼雑用係にされたけど、他の部員たちはこれ幸いと自習室でテスト勉強に励んでいた。
学校外ではそんなこんなで慌ただしかったけれど、教室ではみんな受験勉強にスパートをかけている。
あと残り三ヶ月、とカウントダウンが始まっていた。
またしても俺だけ取り残されて行く。
もし自分の進路や目標がはっきりとしていれば、こんなに孤立した気持ちにはならないのかも知れない。
せめて部活が休止していなければ、こんなに学校から隔絶した気持ちにはならなかったのかも知れない。
あと三ヶ月というのは、俺にとってもタイムリミットのような気がした。




