35. また夏が始まった
悩んでいても時間は容赦なく過ぎる。
また夏が始まった。
夏前には、ベーシックサーフライフセーバーの資格を取った。
ウオーターセイフティとBLSの資格は去年に取得済みだった。
ウオーターセイフティというのは水辺の事故を防ぐための知識と技能を習得するもので、BLSというのは心肺蘇生やAEDなどの一次救命のための知識と技能を習得するものだ。
そして今年は、海やプールの監視員の正式な資格であるベーシックサーフライフセーバーのライセンスを取得。
50m40秒以内、400m9分以内、潜行20m以上、立泳ぎ5分以上の泳力が求められ、それはまったく問題なかったけど、4日間の講習会に32,000円もかかったのはなかなかに痛かった。
小遣いはすっからかんだ。
一、二年の部員もウオーターセイフティとBLSの講習を受けていた。
部活の強制ではないけど、夏休みに大瀬浜海水浴場で活動するのが恒例となっているので、こういう資格があるに越したことはない。
俺は、とにかく何かの資格でも取っておけば、いざとなった時に助けになるんじゃないかという下心が満載だったけど。
俺が高体連の北信越大会に出場したすぐあと、高校野球の富山県決勝戦が行われ、ビッシーがキャプテンを務める富山西商が何年ぶりかの甲子園出場を決めた。
俺も市民球場に応援に行った。
レミンを始め、中学の時の懐かしい顔が何人かいた。
「もしかして、パッツなん? え〜っ! 見違えちゃったわ! すっごい鍛えてるやん!」と、みんなに体をバシバシ叩かれた。
水泳で地区大会まで行ったことを知らせると、みんな大げさ過ぎるほどびっくりしていた。
それから、みんなで声を嗄らしてビッシーを応援した。
ビッシーの三塁打で二点先取し、その後も猛攻が続き危なげなく優勝した。
キャプテンでキャッチャーでスラッガー。ビッシーはすごい選手になっていた。
その後、甲子園でも一勝したが二回戦で惜敗してしまった。
俺は海辺の監視や海の家の手伝いの合間に、スマホの速報で経過を追っていた。
甲子園まで応援に行ったレミンが『さんごの会』のLINEグループにも逐一情報を流してくれて、昔のクラスメートたちも地元で盛り上がっていた。
ユッキーからのメッセージはなかったけれど。
莉子ねえたちのカフェは十月オープンに決まった。
その名も「カフェ・リコ」だ。
富山駅前の商業ビルの一階の角に、全面ガラス張りの洒落た店ができる予定だ。
外観イメージや設計図を見せてもらったけど、オシャレ過ぎて俺なんか入るのに躊躇しそうだ。
マオ先輩から話を持ちかけられてから二年ちょっと。
予定より長くかかり、いろいろと紆余曲折があったみたいだけど、ようやく開店にこぎつけて、莉子ねえも紗子ねえもさらに張りきっている。
莉子ねえは、自分の貯金と家から借りた金で、合わせて300万ほど出資しているらしい。
ただの雇われ店長ではなく、共同経営者という立場だ。
責任が重い分だけ、意気込みが燃え盛っている。
問題はまだ山積みのようで、時々鬼のような顔になっているけど、今までになく生き生きと飛び回っている。
海の家のカフェは、新しい店のスタッフとなる人たちが入れ替わり入ってくれてた。
ちょっとした予行演習とチームワーク作りのためだそうだ。
俺はあまり入る余地がなかった。




