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24. 晴天の霹靂

 

 六月末の体育祭では、クラスの準備とか雑用を一手に引き受けた。

 そのせいか、俺のポジションがなんとなく認められたみたいだった。

 オタフォー+2のそれとないフォローもあって、俺たち六人はなにかと頼られるようになっていた。

 みんな自分の勉強が第一で、他のグループがそんなに結束が強いわけではないせいだろう。


 体育祭でしなやかに走る彼女の姿にみとれたのは、言うまでもない。


 そのあとすぐの期末考査では、クラス41人中39位、学年202人中194位だった。

 歴史だけはややましな点だったおかげで、最下位はなんとか免れた。

 むしろ俺よりまだ低いヤツがいる方が驚きだった。

 もしかすると俺以外にも勉強を放棄したアウトローがいるのかも知れない。


 七月一日は海開きだ。

 同時に海の家もオープンする。

 オープン前から「カフェ・リコサコ」の仕入れや開店準備などの手伝いで、放課後も忙しかった。

 すっかり夏の景色となった海辺で、神主が安全祈願のお祓いをする。

 市のお偉いさんたちの後ろで、俺たち海の家関係者もちゃっかり商売繁盛を祈っていた。

 まだ冷たい海に震えながら、行楽客に混じって初泳ぎをした。



 学校は、また楽しい場所になった。

 授業中はひとまず先生の話を聞き、ノートを取っている。

 まあ、こっそり図書館で借りた歴史の本やラノベを読んでいることも多いけど。


 歴史は、教科書に載ってる出来事よりも、その前後のなんやかんやが面白い。

 というか、そういう前後関係が分からないと、誰が何のために争ったのか、なぜその事件が起きたのかがさっぱり分からない。

 そして、それを知るほどに面白くなってくる。

 それを知るには、歴史小説がいちばんだ。

 もちろん人物像なんかは架空だったり想像上のものだけど、血湧き肉踊るような骨肉の人間ドラマが繰り広げられる。

 ラノベとはまた違った知的好奇心をくすぐられる面白さがある。

 黒岩重吾『聖徳太子』、永井路子『美貌の女帝』、井上靖『天平の甍』、夢枕獏『陰陽師』など、試験範囲にあたる歴史小説を読み耽って徹夜したり、試験が終わっても通学電車の中や授業中に読んでいる。

 もう勉強と言うよりも楽しみだ。



 夏休みも近づいて来た。

 学校では夏季講習が開かれて、ほとんどの生徒が参加するらしい。

 もちろん俺はパス。

 紗子ねえは、通っている美容学校で県のなんとかコンクールで入賞して全国大会に出場するため、今年は海の家のカフェに行けないと言うことで、莉子ねえと俺で切り盛りしなきゃいけないらしい。

 夏休みは、ずっと海の家のバイトの予定だ。


 昼休みにそんな夏の予定をみんなで話しているうちに、チアがこんなことを言い出した。


「ねえ、ハルって大瀬中だったっけ? 三組の佐々村さんて知ってる?」

 突然、彼女の名前が出てきた。

 心臓がドクンと跳ねる。

「あ、ああ、知っとる。ってか同じクラスだったし」

「あ、うちも知ってる。あのきれいなコだよね」

「そうそう。私の美少女ランキングでは、この学校のトップスリーだよ! なんかすごい雰囲気あるんだよね」

「うんうん、わかる〜」

「あんなコにコスプレさせてみたいよね。妖精とかエルフとか、すんごい似合いそう」

「ほんで、佐々村さんがどうかしたん?」

「あ、これはあくまで噂なんだけど……言ってもいいのかな……」

「なになに? 噂って?」

「実はね」とチアが声をひそめる。

「三年の男子に告白されたんだって」

「ふ〜ん。まあ、あの子なら当然やない?」

「まあ、それはそうなんだけど」


 いやいや、俺にとってはぜんぜん当然じゃない。

 晴天の霹靂ってやつだ。

 彼女に男だと!?

 そんなの許されるわけないだろう!

 いや、まて、ありうるのか?

 充分ありえるか?


 彼女を好きになるヤツなんて星の数ほどいるに違いないし。

 いや、好きにならない男がいるわけないし。

 で、もしそれが爽やかイケメンだったりしたら……。

 彼女だってもう十六なんだし、恋のひとつやふたつやみっつやよっつ……。


 いやダメだ!

 彼女が男と寄り添って歩いてるなんて、想像もしたくない。

 彼女がけがれてしまう。

 彼女は不可侵な存在なんだ。

 彼女は誰のものでもない。

 何人なんぴとたりとも彼女に触れてはいけない。


 うん、分かってる。

 全部、俺の身勝手な思い込みで、俺の不埒な妄想で、俺の一方的なエゴで。

 ちゃんと分かってる。

 分かってはいるのだけれど、頭が、体が、心の中がどうにかなりそうだ。


 みんなの声が遠くなっていく。


「断られたんだって、その先輩」

「あ〜やっぱり」

「なんかそういう感じやないもんね、あのコ」


 胸の痛みがストンと取れて、ふーっと意気を吐く。


「それがね、好きとか嫌いとかじゃなくって、もうじき転校するからって」

「え、なに? 転校しちゃうの?」

「まあ、そういう噂、っても振られた本人が言いふらしてたそうだよ」

「振られたってわけじゃないって?」

「あはは、なんかダサっ」

「ハルは知ってた? 佐々村さんが転校するの」

「い、いや」

 

 今度は別の動悸が高まった。


 転校?

 この学校からいなくなる?

 あの町からいなくなる?

 どこへ?

 いつ?

 どうして?

 なにがどうしてそうなる?


 またもや頭がぐしゃぐしゃだ。

 まともに考えられない。

 なぜ、なぜ、なぜ?

 そればかりが頭の中をこだまする。


 ふらふらと席を立った。


「おい、ハル、どうしたんや? なんか顔が蒼ざめとるぞ?」


 何かが込み上げてきてトイレに走る。

 個室に飛び込んで、昼飯を吐いた。

 全部吐いてもまだ胃がせり上がってきて、何度も嘔吐えずく。

 便器にもたれたまま、気が遠くなった。


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