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22. オタシックス?


 駅のホームでの五分くらいの会話が、俺を目覚めさせてくれた。

 彼女がいれば、それでいいんだ。

 遠くから眺める機会が減ったとしても、確かにそこに彼女がいると思えば、何を悩むことがあるだろう。

 彼女の存在、それ自体が俺の喜びであり、望みであり、願いなんだ。

 また改めて、そう思った。


 授業についていけないとか、宿題が重荷だとか、成績が落ちるだとか、そんなことは二の次、三の次だ。

 もともと頭がいいわけじゃないんだから、落ちこぼれるのなんて当然。

 劣等感なんてずっと昔からの友達じゃないか。

 周りばっかり見て自分を見失っていた。

 勝手に不貞腐れてひねくれて意固地になっていた。

 なんてカッコ悪い。

 こんなのラノベの中だって最低のキャラだ。

 こんなのは、なりたい自分じゃない。

 こうなったら、腹を決めて居直ってやる。

 どうなったって、これ以上悪くはならんだろう。


 翌朝、一ヶ月ぶりくらいにケイゴとコーシローに声を掛けた。


「なあ、悪いんやけど昼休みにちょっと話を聞いてくれんや?」

 怪訝な顔でとまどいながらケイゴが尋ねる。

「お、おう、どうしたんや、改まって」

「ん、俺なんやおかしかったやろ。そんで、ちょっと反省したっちゅうか、決意したちゅうか……。お前らにも謝らんといかんなと思って」

「……そうか、ああ、ええで」

「そやな、なんか昨日よりさっぱりした顔しちょるな。そんならチアらも一緒でええかな?」

 コーシローがそう言う。

「うん、任せるわ。じゃあ、昼休みよろしくな」


 さっぱり分からない授業の最中に、何をどう言おうか、あれこれ考えた。

 しかし、俺はどうしたいのか、それがないと何を言ってもただの弁解になる。

 そしてそれが俺にも分からない。

 そして昼休みになった。


 弁当を持って、みんなが俺の席に来てくれた。

 机を二つ三つくっつけて座る。

 ケイゴ、コーシロー、チア、アーヤ。オタフォー+1だ。


「なんか話があるんだって?」

 つとめて明るい声でチアが口火を切る。

 それだけで、なんか涙が出そうになった。

「う、ん」

「まあまあ、飯食いながらでも、気楽に話そうや」

 ケイゴがぎゅうぎゅうに詰まった弁当箱を開ける。

 こいつ、こんな空気読めるヤツやったか?

 またちょっと鼻が詰まる。

 みんなが箸を運び始めたところで、俺は言った。

「みんな、なんや俺のせいで変な感じになってしまって、ほんま、ごめん」

 少し震えた声で謝って、ずっと机に額を付けっぱなしにした。

 まぶたが熱くてピクピクした。

「分かった。分かったから、もうええて」とコーシロー。

「ほら、髪の毛におべんとついてるよ、頭上げなよ」とチア。

「で、これからはどうするん? またこのメンバー復活するん?」と言うのはアーヤ。

「そやな、どうする、ハツ?」とケイゴが問いかける。

「お、俺は、そうしたいけど、そうしてくれると嬉しいけど……」

 ゆっくり頭を上げてみんなを見た。

「きっと俺はみんなの足を引っ張ってしまうやろから、俺抜きで仲良くやって欲しい」

「なんや、それ?」

「なにが足を引っ張るって?」

「俺、今度のテストでたぶんクラスの最下位や。完全に落ちこぼれや。まあなんも勉強せんかったから当たり前なんややけどな」

「それがなんか関係あるんか?」

「みんな頭ええし、勉強頑張っとるやろ。俺なんかおったら邪魔になるやろ」

「はあ? 何言ってんの?」

「お前、そうやって卑屈なまんまでボッチになりたいんか?」

「アホやと思ってたけど、そこまでアホとは思わんかったわ」

「……」

「私だって、お昼休みくらいは気を抜いて思いっきりオタク会話したいよ」

「チアはアニ研でさんざんオタってるやないか」

「それはそれ、これはこれやん」

「成績は悪いかも知れんけど、ハルくんは別に頭悪いとは思わんけどなあ」

「そやそや。話しててつまらんことない。ちゅーか、前みたいにみんなでしゃべたいよな」

「ああ、俺もや」

「休み時間にちょっとしゃべるくらいで足なんか引っ張られるわけないし」

「うんうん。まあテスト前なんかは勉強優先しちゃうかもやけどね」

「ということや。ハルがやさぐれてないなら、またこうやってしゃべろうや」

 みんなうんうんと頷く。

「……ありがとう、ほんと、ありがとう」

「よっしゃ、オタフォー復活やな!」

「自分でオタフォー言うんじゃないっての」

「私はオタやないからね。あ、そんならミューちゃんも入れちゃうか。おーい、ミューちゃ〜ん」

 アーヤが最近仲良くしてる女の子を連れてきた。

 雰囲気はなんとなくアーヤに似てる。

 アーヤが犬系小動物スピッツだとすると、ミューちゃんは猫系スコティッシュフォールドか。

「知ってると思うけど、新内美由宇ちゃんね。改めてこっちからコーシローくん、ケイゴくん、ハツくん。そしてチアと私とミューちゃん。これからはこの六人でご飯食べよ?」

「う、うん、ええけど……。私もオタフォーに入るの?」

「ちゃうちゃう。オタフォーはこっちの四人。私らは……なんやろ、マスコット? オブザーバー? アイドル?」

「いいように言うなあ。そのうちオタシックスにしたるわ」

 とチアが混ぜっ返して笑い声が響いた。

「で、なんやの?」

「ハツくんがな、なんや落ちこぼれになって拗ねてたのが心を入れ替えたらしいで」

「え、そうなん? うちてっきり中二病の人やと思ってたわ〜」

「なんで?」

「だってオタフォーだし、俺に近づいたらケガするぜみたいな雰囲気やったから〜」

「あはは、言えてる、言えてる!」

「なんや、ただの落ちこぼれなんか〜」

 アーヤもミューちゃんも、見た目はほんわかしてるくせに、ザクザク心を抉ってくる。

 俺はもちろん、ケイゴもコーシローもすっかりたじたじだ。

 でもそのおかげで、すっかり気兼ねのない雰囲気になった。


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