10. 素足でフラペチーノ
クラスのやつらがわいわいと海の家に入って来る。十五人くらい、クラスの半数近くが揃っていた。
彼女の姿はその中でもすぐに分かる。
目立っているとか、特徴があるとか、存在感があるとかではない。
背は低くもなし高くはないし、髪も肩までのストレート、服装もみんなと同じ白い半袖セーラー。
どちらかと言えば埋もれてしまいそうな、控えめで大人しい印象。
なのになぜか彼女だけに自然に目が行ってしまう。
初めての場所をそわそわと見回しながら、後ろの方からみんなについて行く。
五人掛けの丸テーブルに分かれてビーチチェアに体を投げ出すように座り、手で顔をパタパタ仰いでいる。
「ふ〜生き返るわ〜」
「どう、ここん海、けっこうええっしょ?」
「あのテトラがなかったら、もっとえらいんやけどなあ」
「えらいって?」
「あ〜この場合は、見晴らしがよくて壮観っていう意味っちゃね」
「やっぱ、うちらん言葉わからん?」
「ううん、だいたいは分かるよ」
「なら、よかったお」
「なんか女の子がしゃべると可愛く聞こえる」
「ほんまに? ぶかげに思わん?」
「ぶかげって?」
「あ〜ぶかげっていうのは、ん〜と、変な感じとか奇妙とかかな?」
「へ〜なるほど。ぜんぜんぶかげじゃないよ」
「それ言うんなら、ぜんぜんぶかげやないっちゃ、やね」
「ぜんぜんぶかげやないっちゃよ」
「せやせや」
そんな会話とおしゃべりが聞こえてくる。
「う〜っす、パッツ来とる?」
ビッキーがカウンターに来て声を掛ける。
「おう、なんかいる?」
そう言ってメニューを手渡すと、女の子たちのテーブルに持っていった。
「あそこんカフェ、パッツの姉ちゃんらがやっとる店やねん。なんか頼む?」
彼女がこっちを見ると同時に、思わず顔を引っ込めてしまう。
「おしゃれな飲み物売っとるんやけど、うちらにはちっと高いんやよね。ユッキーどっせ?」
「どっせ?」
「どうする、ってことっちゃ」
「みんなは、どうするの?」
「うちはスイカバニラソフト150円」
「うちもそれにするわあ」
「うちはやっぱ梨ソフトやなあ」
「じゃあわたしもソフトクリームにしようかな」
「オッケー、じゃ買いにいこか」
うちのメニューには、なんたらプラペチー丿やらなんたらティーやらコーヒーエイドなんたらやら、洒落た名前の飲み物が並んでいる。値段はどれも1000円前後という海辺価格だ。それでも最盛期には飛ぶように売れていた。
でも中学生にとっては気軽に手の出る値段じゃない。
結局、女の子たちはうちには来ないようだ。
「ん、靴ん中砂入っちょるわ。ちっくし待っとって」
レミンがそう言って外のテラスデッキに出ていった。
うちも、と二三人が続く。彼女もそれについて外に出た。
デッキの端っこで靴を脱いで中の砂を出している。
彼女も片足立ちでトントンと砂を払う。黒ストッキングのつま先が揺れていた。
他の子を見ても何にも思わないのに、彼女の靴を脱いだ足を見るのはなんだかすごくドキドキする。
なにか尊いもの、厳かなもの、目にしてはいけないもののような気がした。
店の奥からガラス越しにこっそり覗いてみたい気持ちをぐっと抑えて背を向ける。
彼女たちが中に戻ってくると、彼女はミパと一緒にトイレに向かった。
トイレから出てきた彼女は素足になっていた。
素足もまた眩しくて、目にやり場に困ってしまうのだった。
手に手にソフトクリームを持ち、みんなでテラスデッキに出て行く。
デッキの一番前に直接腰を降ろして並び、足をぶらぶらさせながら海に向かってソフトクリームを食べ始めた。
違う味をスプーンで交換しながら、キャイキャイとはしゃいでいる。
カウンターに肘をついて、目を細めながらそれを眺めた。
「ハナも行ってきたらどうなん?」
「うん、そうやね。フラペ作ってもええ?」
「ええよ〜」
カップに氷とピーチジュース、上にホイップクリームを載せてピーチフラッペの出来上がり。
もうひとつストロベリー味も作る。
「なあ、あの左から三番目の子、見たことないけど?」
「ああ、今日転校してきた子っちゃ」
「へ〜、なんやすごく可愛くない?」
「あ、やっぱ紗子ねえもそう思う?」
「そらそや。あんな子、東京にもなかなかおらんのとちゃう?」
何度も東京に出かけてる紗子ねえが言うなら、信用できる。しかも富山弁になってるし。
やっぱり俺の目に狂いはなかった。
「へ〜そうなん。うん、東京から来た言うてたわ」
「ええなあ、わたしもあんな顔に生まれたかったわあ」
「なん、紗子ねえやて可愛いって評判やで。クラスにも何人かファンおるで」
「ほんまに? ほれ、も一個持っていき!」
おだてに乗って抹茶プラペチーノを追加してくれた。
「これ、みんなで分けて食べれる?」
後ろから声を掛けると、
「わ〜い、さすがパッツ! 持つべきものはお店屋の友達やね!」
レミンが振り向いて歓声をあげる。
「ありがと!」
「いただきます!」
「ごちで〜す!」
口々にそう言いながら、ストローを回して行く。
「う〜ん、高級なお味ですこと!」
「ねえ、そっちもちょうだい!」
「いちご、いちご」
「抹茶をひとくち〜」
ソフトを平らげたあとでも、まだぜんぜん入るようだ。
ストローを加えたまま彼女が振り返って、ちょこっと頭を下げる。
満面の笑みが心を蕩かす。
もう何もいらないと思った。
後ろの男どもからはブーブーいう声が聞こえてきたが。




