私は神子
普通よりやぼったい容姿だと自覚している。黒い髪は大切に腰まで伸ばしているから少し自慢だけれどただそれだけ。はれぼったく眠た気に閉じた瞳、凡庸な顔立ちは平安の巻物に描かれる日本人顔を想像してもらえば早いかもしれない。
身長も平均を下回る、この世界は地球より平均が高いようで、隣に立つ王兄はさらに大きくて、私が並ぶと大人と子供のようだった。
美しく伸びた白金の髪に光が当たって眩しい。
見つめると必ずこちらを見てくれる、向こうが見つめていて私が気づくことも増えた。深い蒼の瞳と目が合って無表情の中に気遣う色を見つける、硬質な見た目に反して優しい人なのだと今は知っている。
知ることが出来て本当によかった、自分の意思と関係なくこれからの人生を共にすると聞かされたときは、戸惑い困惑するばかりだった。
今はその不安はあまりない、平凡な一般市民の私が王族の一員になることは未だにいいのかわからない。
それでも、お互い歩み寄る意思があるとわかっただけでずいぶんと不安が薄まったのだ。
ほんのりと微笑んで前を向くと彼の視線も外れて前を向いた。
私たちは今日結婚する。
大聖堂の床に膝を付き、王の言葉を賜る、皆に見守られながら冠を被せ合い瞳を合わせた。
私たちは今、夫婦になった。
召喚されたとき、そこは戦場だった。騒然とする中、半裸で立ち尽くす。
「?、??、ど、なに、!」
「神子様!!」
私はお風呂からあがったところでバスタオルをまとった姿で争う人の中放り出されたのだった。
「え?、あ、?」
状況が理解できなくて、混乱しながら肩からかけたバスタオルの前を合わせてぎゅっと握り呆然とする。
急にお腹に腕が回り後ろへ体が引っ張られた。
「ぐっ」
すぐ後ろでガキンッ!と金属音がして頭を体に押し付けられる、何かが倒れる音、視線をむける暇も無く、
「こちらへ」
おそらく私を助けてくれた男の片腕に抱えられたまま、その場を抜け出した。
他国の者が召喚の邪魔をした、殺そうとする者も居れば浚いに侵入した者も居た。混乱する現場で呪文を唱え終えた魔術師は昏倒、彼女を守るはずの騎士達は防戦一方で祭壇の魔方陣中央に現れた彼女へ、剣先と助ける腕が延びて先に届いたのが王兄の腕だった。
追ってを巻き無事を確認するとようやく彼女を地に降ろした。ずっと抱えられていたためか顔色が悪い、そこでようやく布の下が裸だと気づいた。他に見られぬよう自分の上着を掛ける、下もあげたいが不敬にならないか思案する、上着だけですっぽりと膝下まで隠れるくらいに彼女は小さかったので一先ずこれでよしとした。
ここは王城の中、あれだけ警戒したにも関わらず賊に侵入されたのは痛恨の極みだった。あと少し遅ければ彼女を失っていたかもしれない、この後悔と恐怖心は後々までずっと残った。
ところで重要な質問がある、
「失礼を承知で申し上げる。貴女様はその、常にそのような格好で過ごされるのですか?」
「っ、違います!」
よかった、目のやり場に困るところだったから心底安堵した。
彼女の頬にも赤みが差してきたようでほっとした。しゃわー、風呂に入っていたのだと話す彼女と目が合う。もう少し召喚が早ければ全裸を目にするところだったと気づいて赤面して視線を逸らした。
そして、地に目を向けて驚いた。
各国が神の祝福を得ようと召喚を試みているが、神に嫌われた大地と呼ばれるこの大陸では、成功率は年々下がっていた。特にこの国では最後に召喚されてから数百年が過ぎていた。
乾いた地が増え作物の育ちが悪いと動物も人も心も痩せていく。
他国では召喚に成功して存在していても奪われ殺されないよう厳重に秘される。明らか国力向上するため他も次こそはと躍起になった。
その恩恵を疑う者もいたけれど、彼女がこの地に降りたったその場所から明らかに空気が変わった。
彼女の触れた地を中心に不毛な土地が湿って潤い種が芽吹き草が生え虫が生き物が戻ってきた。
空気も澄んでいき、今まで淀んでいたことに気づかされる。
凡庸といわれる彼女の周りはキラキラと光を纏ったようで、近くにいると暖かく心まで潤おうのが王兄にはよくわかった。
この城は国のほぼ中心にあるためここに居てもいつかは末端まで恩恵は届くと言われている。他の国はそれを見込んで召喚してから一度も城から出すことは無い。
しかし、彼女は大地を歩くことを選んだ。効果の範囲をこれくらいと定めて自分の足で一歩一歩歩いて行った。裸足で歩こうとされたのはさすがに止めた。
「私の我儘のために申し訳ありません」
俺はその偉大で小さな背中をずっと見続けてきた。彼女の護衛を真っ先に名乗り出てよかった、これほどの時を一番近くで過ごせた私は幸せ者だ。
彼女の命や存在を狙う輩は多い、常に命の危険にさらされているのに、気遣うのは周りの者のこと。
「いいえ、貴女様こそお気になさらないでください」
私は役目を果たしているだけ、例え命を落としたとしても気にやむ必要は全くない。そこまで言えばさらに恐縮してしまうだろう、実際彼女の目に触れぬ戦いは日常茶飯事で、私以外の護衛と武道を心得た女性の付き人もいる、見えぬように配置した者も一人二人では無い。その中に歩いて回ると決めた彼女を敬う者はいても疎む者はいない、万が一居たら、いや居るはずが無いから言う必要は無いな。
唯一の存在、貴女を守る。騎士の誓いを立てた。
彼女が微笑むと心が震える、表情が死んでると言われる俺も今は緩んでいるのでは?と思って弟に聞いてみたがそんなことは無かった。
彼女は常に光輝いていると告げると首を捻って曖昧に頷いたあと、にやりと笑って、
「惚れたな」
と言われて、こいつ頭は大丈夫かと問いたくなった。もちろん敬愛している、それだけでは言葉が足りないほど想っているが、それはけっして邪なものじゃない。
弟は賢き王だ、こんな世の中で国の民の臣下のためよくやっている、俺との仲も悪くない。妾腹の俺にも居場所をくれた、俺の剣は今まで弟のためにあった。それを返上させてくれと伝えたときの、あいつの反応、まあそれはいい。理解して頷いてくれた。
彼女に拒否される恐れがあったため彼女には断りなく王命として剣を捧げる場を設けた。その経緯から、仕方無く使えていると長らく思われていて歯がゆかった。俺の心からの願いなのだと伝えたときの驚いた表情とそのあとの言い表せない眼差し、あれは今も私だけのものだ。
夫婦になりときは過ぎ、子も四人授かった。今ははっきりと認めている彼女への愛情も恋心も増えるばかり。
彼女の愛に包まれたことで微笑む以上の表情も出せるようになった、その都度頬を染める彼女を愛して可愛がり今もしあわせを噛み締めている。




