第8話「ごら~!」
ダンス部はしおりんさんを特別コーチに迎えたいとのことだった。普通に入部しませんかとも。
『アルバイトがあるから部活動はできないんです~……。特別――コーチ? もその~……』
勉強でいっぱいっぱいで時間は割けない。申し出を嬉しく思いつつも丁重に・慎重に断った。
『それならテスト終わったらどうですか?』
『終わったら――そうですね~、いいかもですね~』
その言葉を・約束をしっかり覚えてて、部長と副部長はやってきた。巡条さんは快く了承。快くないのは僕らがふたりきりになること。磔にするくらい釘を刺して、早速連れてかれた。これから冬休みまでの二週間、昼休みはダンス部へ。ただし明日(=今日)だけはパスした。
黒川にギャルにされるから。
「…………」
登校してみればふたりともいない。いつも僕より早いしかばんあるし来てないことはない。たぶんトイレにでも行って、メイクしてる・されてるんだろう。ギャル巡条さんどんなだろう。
想像してたらモモからルインがきた。
『もう学校来てる?』
『来てる』
『今からそっち行くけどアタシ見んな!』
……は? 意味がわからない。ギャル巡条さんの出来がよすぎて比較するなってことか?
まもなく謎のフルメイク・ミニスカート美女が現れた。
「おはよ~……」
「お、おはよう」
誰ですか・マジですか!? ノーマル巡条さんが影も形もない! カリスマギャルみたい! つけまつ毛がぶわーっと逆立って、ゆる~い垂れ目がアイシャドウで鋭い吊り目になってる。周囲は銀色のラメでキラキラして、頬はべったり桃色の――チークとか言ったけ、だと思う。髪はシュシュでまとめてなくて毛先を巻いてる。黒川みたいに茶金髪にしたらまさにギャル。
「ど、どう~……? キツくな~い……?」
スカートを引っぱって伸ばすように両手で押さえ、寒そうに・恥ずかしそうに聞いてくる。靴下は普段モモが履いてるような足首までしかないヤツで、長い脚が・白い肌がほぼ丸出し。カーディガンの裾がスカートの裾とかぶってて、パンツ見えない限界ギリギリまで攻めてる。そのカーディガンも上からふたつボタン外してて、花魁みたいな肩出し・着崩しでシャレてる。
「キツくないよ。元がいいからそこまで化粧したらすごいいいよ」
ただまあ10代には見えないかな……。着られるっていうけど赤抜けすぎてて完全に着てる。
男の1軍・2軍+がほっとかない。女は――とくに赤崎は――冷たくにらむように眺めてた。
神対応のギャルしおりんの背にでっかい虫がくっついてる。
「……おまえはずっとなにをしてるんだ?」
両肩をつかんで顔を押しつけて中腰で、レンちゃんが入ってきたときにとっくに気づいた。気になるのは髪型・靴下。シュシュで毛先でまとめてる。普通に紺の膝下までのヤツ履いてる。
脚見られたりスマホで撮られたり。応対が終わると背中デカ虫にお母さんみたいに言った。
「萌~々~奈。いつまでそうしているの~?」
返事はない、というより聞こえない。さっきも僕になんて言い返したのかわからなかった。
「私はクマくんにもみんなにもがんばって見せたわよ~。次は萌々奈の番~」
体を揺すって促す・振り落とす。なかなか離れない。僕のほうを見て苦笑い、事情を話す。
「せっかくだから私も萌々奈にお化粧してあげたの~。一日花恋やってもらうの~」
シュシュは貸して靴下は交換したという。スカートも交換しようとしたけどそれだけは嫌。ダサすぎて死んでもご免と拒絶されたとか。それ以外は受け入れてナチュラルメイクらしい。
そういうことか、『アタシ見んな!』って。
「いつもと違って素朴でかわいいの~。笑ったりしないでね~?」
「しないよ。――笑ったりしないから見せろって」
やっと・そっと背中を離れだす。いつになく伏し目がちに・遠慮がちにゆっくり振り返った。
「……おはよ」
「お、おはよう」
誰だよ! レンちゃんは白ギャルになってるけど、モモのこの仕上がりなんて言うんだよ! 元の目をごまかしてる常のつけまつ毛が取っ払われて、切れ長の透き通った黒い眼が泳いでる。洗顔して落としたんだろう、常のべたべたの桃色のチークも取っ払われて褐色の頬がツヤツヤ。まとめた髪は左肩に流し、毛先を・シュシュをいじってる。パっと見、茶色いレンちゃんだ。
「ほぼすっぴんでホント恥ずかしいんだけどー……メイク百パーから十パーなんだけどー……」
「私は逆に10%から100%よ~。毎朝こんなにお化粧して大変じゃな~い」
しなくてもいいのに・かわいいのに~ってほっぺたつんつん。ムカついて容赦なく頭はたく。
「あう~……。じゃなくって~――え~い!」
バシっ! ぜんぜん弱いけどはたき返した!
「あたしは頭叩いたりしないっての~! ちゃんと花恋やれっての~!」
「ご、ごめんなさーい……。クマくんクマくん、モモナこわーい」
座ってる僕に抱きついてくる。は、離れろよ。巡条さんの匂いするな、香水もしてんのか。
「なにやってんだごら~!」
腰に腕まわして引っぱがそうとする。……なにやってんですか? はじまってんですか?
「佐~! デレデレしてないであんたもはがせごら~!」
「デ、デレデレなんかしてないよ」
「ごら~!」
ごら~って! なんのロールプレイなんだろう……一日萌々奈・一日花恋がはじまった。




