第10話「頭シュークリーム……」
レンちゃんが四人の注文を承り、率先して・代表して頼みに行く。今は昼休み・ここは学食。
ディベートーナメントは優勝した。不倫はありかなしか、ありで勝利した。MVP小林。日本の少子化を持ち出して来て、不倫でもなんでもいいから子ども(納税者)を増やそう、と。一夫多妻の国をも動物をも説き、博識でもって倫理をねじ伏せた。伏し目がちにぼそぼそと。消極的ながら佐藤も声を震わせて友達を助け、ふたりして知力・学力からくる説得力があった。それに比べて奴らは〝常識的になし〟の箇条書き。周囲も判定も小林の論に沸いた・傾いた。
「頼んできたわ~、待ちましょ~」
「カレンは自分のなんにしたのー?」
「月見うど~ん」
左肩に流したまとめ髪を両手ですいて嬉しそう。右に座る僕には露わな首がなまめかしい。黒川は反対側、左に座ってて爪いじり。そして僕らの向かいに小林・佐藤が静かに座ってる。内心嫌そう・気まずそう。本当に優勝してみんなで食べに来たけど、僕も萌も――別に……。
「小林さんってとっても物知りさんなのね~。尊敬しちゃうわ~」
「い、いえ……そんな……」
「いつもご本を読んでいるわよね~。佐藤さんも物知りさ~ん?」
謙遜して首を横に振る。会話が弾まない・ぎこちない。ふたりとも居心地も顔色も悪そう。初めて学食に来た僕も同感だ。ここは全学年の1軍の巣窟らしい。イケイケで目障り・耳障り。
敗れたものの自腹で食べるのか、前後左右赤青+黄緑もやってきた。四方四色大集合……。
「おー、しおりん」「しおりぃん!」
前赤を筆頭に八人で寄ってくる。ちなみに学食に入った瞬間、しおりんファンも寄ってきた。
「失せろゴミカスクソカップル。なんだっけ、祝勝会? なんだから負けたテメーら来んな」
ちょっと声かけただけで奴らは別のテーブルへ。その後ほどなく五人分のうどんができた。僕が肉うどん・萌がカレーうどん、小林・佐藤は普通のうどん。うどん以外もあるけど季節柄。ああ……おいしい……あったまる……。寒空の下で食べた文化祭のうどんもよかったな……。
「小林さん・佐藤さん、どう~? おいしい~?」
「は、はい……」
かたや佐藤はただうなずいた。どちらかというと人の良さそうなぽっちゃりのほうが無口だ。
とくに話も何事もなく、淡々と・粛々と食べ終えた。いや、事はすでに起こったあとだった。
「ねーアンタら、それ」
席を立って振り向いた小林・佐藤の背中に――赤い字で『調子乗んな』と張り紙があった。
◎
調子乗んな? 我が物顔で教室に君臨し、王族のように振る舞うあなたたちこそ調子乗んな。国際社会に対する露中朝ではないが挑戦と受け止めた。浅ましい動物は植物にまで牙を剥く。授業で少し出しゃばっただけで憤懣やるかたないのか。女の人に乞われて詮方なかったのに。
問題はこれをご丁寧に貼り付けてきたのが、あの群れの誰なのか・何頭なのかということだ。四頭ないし八頭からなる牡・牝の総意ではないと思う。牡はこんな小さいことをしないと思う。ゆえに牝の総意か牝のどれか――赤崎・青山か。黄島・緑原は討論の場にいなかったのだから。『しおりぃん!』と女の人を見つけ、わたしたちの横に寄ってきたあのときに貼ったのだろう。
『私のせいよね~、ごめんなさ~い……。もしなにかされたら教えてね~? 力になるわ~』
食堂から教室に戻る道すがら、彼女にそう言われた。力は要りません、情報が要るんです。
シュウとしゅうくりぃむぅ☆
赤崎・前田がシュークリームを両手で持ち、変な顔をして食べようとする画像にこの一文。目はふたりして加工して、不自然に大きくきらきらキマってる。こんなのが11リツイート。
「頭シュークリーム……」
両者を破局させる。今度は男女の恋情――男の友情よりも裂きやすい。
石田与尋から芋づる式に検挙できたため、前田や赤崎ら四頭のツイックーも把握している。青山は鍵をしていて覗けない。後藤は大してつぶやいていない。王と妃の側近なのに使えない。
今日で茉那と三か月ぅ! これからもよろしくぅ!
前田のアカウントを見てみれば、たった今最新の画像とつぶやきが(今は21時・わたしは家)。ゲームセンターで撮ったと思しい加工過多の写真で、赤崎と指を合わせてハートを作っている。
「恥ずかしい……痛々しい……」
こんなものをどうして撮れるのか・載せられるのか。赤崎のほうも同じ画像とつぶやきが。
少し経って野球(左近)とバレー(黄島)がリプライした。『おめでとー!』『お似合いー!』
「…………」
絶句した。なれあいが・へつらいが過ぎる。気持ち悪すぎる。いったいなにがめでたいのか。似合いと言うが前田は黒川と交際していたと――興味はなくとも耳にして傍目にもわかった。しかし赤崎に目も心も移ったということか。ゆえに黒川はグループを抜けたということか?
さかのぼってみれば夏休み、黒川と写っている画像が毎日ある。くくっ……これは使える。
◎
テスト初日の12月1日まで残り一週間。毎日みっちり・きっちり取り組んだ。もうばっちり。




