第7話『佐のチーズいっぱい出た』
「食べたいの――いや、とくにないが」
「じゃあピザねー。――もしもしー?」
電話しだした。その隙に祝くんが小声で吐露する・暴露する。
「ふつかにいっかいピザなんだよ」
それでさっき『ピザ』って挙げたんだ……。お母さんは帰ってこないの・作ってくれないの?
「かえってこない。つくってくれるのはがっこうのおべんとうだけ」
そ、そうなんだ。電話し終わった萌に正面切って言ってやった。
「……お姉ちゃんなんだろ? ピザばっか頼まないでなにか作ってやろうとか思わないのか」
「はぁ? アタシが無理して下手な料理作るより、宅配頼むほうがよっぽどウマいわ・賢いわ」
「……そうか」
祝くんは今から風呂に入るという。ねえちゃんもおにいちゃんも入ろって手を引いてきた。
「兄ちゃんは食べたらもう帰んの。姉ちゃんはピザ来んの待たないとだからひとりで入んな」
「わかったよう……」
不服そうだけど聞き分けがいい・あきらめがいい。小さい背中を寂しそうに風呂へ行った。
広々したリビングに・ふかふかしたソファーにふたりきりになる。
「おまえとは似ても似つかないいい子だな」
「そりゃまー父親違うしー」
お、おもいっきり地雷踏んだ……! ただの・いつもの憎まれ口だったんだ……。
「……すまん」
「べつに気ぃつかわなくていいんだけどー。ちなみに祝もアタシも父親覚えてなーい」
ひとり目もふたり目も結婚してすぐママごと捨てたんだってー。…………。
「お母さん帰ってこないって聞いたけど……なにしてる人なんだ?」
「キャバ嬢」
ナンバーワンとかで相当稼いでるとかで、だから毎日宅配が頼める・駅近タワマンに住める。母親らしいことは学校で食べる弁当を作るだけ。萌より祝くんに目を・金をかけてるんだとか。
「スケートもそうだけど塾と英会話も通わせてんの。アタシと種違いで大違いなんだけどー。そもそも娘より息子のほうが欲しかったってねー。祝オトコだったから〝祝〟なんだってさ」
一方〝萌々奈〟は母親ではなく父親の命名で、由来は不明というか忘れてしまったという。
「ママはひらがなで〝まよ〟がよかったんだって。萌々奈でよかったわー、ねーずじゃん?」
「は、はは……は」
下手な・半端な苦笑いをしてしまう。頭はたかれた。
「気ぃつかうなつったろコラ。マヨネーズってわかんだろ、もっとウケろ」
笑いを強要するな……。黒川まよ――か。ねーずってことはないんじゃないか。
複雑な生い立ちを聞いてまもなくピザが届いた。
「はい、ザーピー」
ソファーの前のテーブルに置く。寿司をシースーは聞いたことあるけどザーピーって……。
冷蔵庫から缶コーラを二本持ってきて、僕の隣に座ってきて、手づかみで早速食べだした。
「祝くん出てくるの待ってやれよ……」
「待ったからってどうなんの? 冷めるしとっとと先食べるし」
佐ぁも食べろってひと切れ渡してくる。コーラ以外がいいなら冷蔵庫から好きに取れ、とも。
「コーラでいいが……先に食べるの気が引けるんだが」
「いいから食え。じゃないと顔面投げるから・焦げるから」
「焦げるってどんだけだよ、焼きごてかよ……わかったよ」
んっ、普通に美味いな。ホワイトチーズがとろ~り粘っこい。いくらするんだ、これ……。
コーラもぷしゅっと開けて乾杯した。二日に一回ピザ・コーラってそのうち太るぞこれ……。
「てか祝、アンタになつきすぎでウケるわー」
今まで連れてきた男には寄りつきもしなかったとか。前田みたいなのばっかりだからだろ。あんな金髪のごつい・いかつい浅黒チャラ男、同級生の僕でも怖いわ。小学生には酷だ・悪だ。
「たぶん『姉ちゃん初めてまともな彼氏できた』って思ってるわー」
「小2で彼氏とかまだわからないだろ。というか彼氏じゃないしな」
「今はねー」
は? ……は? キレるの覚悟で実際に二度聞き返せばよかったかもしれない。『今は』?
「あ、そだ、写真撮ってカレンに送ろー」
片腕を取ってむにゅっとくっついてくる。お、おい、近いな・でっかいな……。
「ほら、ピザ持ってまぬけに・底抜けに口開けろ」
「馬鹿みたいな・カバみたいな演技指導するな……これでいいだろ」
仏頂面まではいかないけど、やらされてる感が伝わるような顔をする。口はそんな開けない。
スマホを掲げてふたり写るよう自撮りした。ピザを食べる瞬間が仲睦まじく切り取られる。
レンちゃん嫉妬しないかな・誤解しないかな……。
「んー、イマイチってかクっソつまんな。もっとエロいの撮ろ」
スマホを渡してきて僕の前にしゃがむ。チーズ垂らせって言うからピザを傾けるやる――と。糸を引く白~いドロドロを! 舌も色気も出して受け止めた! 撮れって膝叩いてくる……。
「アホか!」
『佐のチーズいっぱい出た』って一文添えるつもりだったらしい。……正直言って興奮した。
◎
「ばかばかばかばか~~~~!」




