第5話「レンちゃんはそんなことしない・知らない!」
「お、おまえな!」
「べつに見ていいけどー? いやー、干したニーソ片っぽなくて探してさー、結局なくてさー」
タンスに向かって膝立ちで尻をこっちに衣類を漁りだす。わ……わざとか・AVか……? 見ていいって言うから顔を両手で覆って目のとこだけ指開く。下着は上下とも黒っぽいエロ紫。
『ク~マ~くん!』
スケベを見られた・怒られた気がした……すいませんでした。
盗み見はやめても気は・音は普通に伝わってくる。かえって股間も想像力もふくらみかけた。ほっぺたぷっぷくかわいくむくれる年上彼女を思い、黒川の下着を・肢体を考えないように。
「フっ、ウケるー、見てないじゃーん。着替え終わったけどー?」
カタツムリくらいゆっくり顔を向ければ、白と藍の横じまのなんかもこもこのやつ着てた。上は長袖・下は短パン。だけど黒ニーソ履いてあったかそう。膝のすぐ上ら辺に絶対領域が。
「ねー、どうー?」
ムっチムチ! 下半身はもちろん、ゆったりした服だけど胸が浮き出てる。直視できない。
「パジャマおばさんよりよくなーい・かわいくなーい?」
「おばさん言うな」
パジャマもいいわ・かわいいわ!
ベッドの端に転がってるビビッドピンクッションを引っつかみ、尻に敷いて体育座りした。とっ散らかったローテーブルを挟んで対面で、小首を傾げて黙って見つめてくる。…………。
漂いはじめた妙な雰囲気を濁そうと聞いてみた。
「べ、勉強机の上の大量の瓶はなんだよ」
「化粧水の空ー。捨てるのもったいなくて取ってんの。べつになんに使うってないけどさー」
「い、椅子のアマヅンは?」
「なんだったっけー、忘れたー。買ったはいいけど開けもしてなーい」
話が広がらず沈黙。相変わらず体育座りで小首を傾げてかわいげ出してくる。舌も出した。
「……なんなんだよ!」
「なんだと思うー? アハハハハ!」
笑いながら立ってローテーブルを持ちあげた。『なんだと思う?』 からかってると思う!
なにをするのか見ていれば、化粧道具類をベッドの上にぶちまけた。……片づけた、らしい。テーブルを元にクッション取って僕の隣に座る。巡条さんとはまた違う女女した匂いがする。
「じゃ、勉強やろっかー」
◎
まずは漢字の読み書きー。現国はこれで点稼げって言うけどさー、ムズすぎなんだけどー。
「『あの実業家はチョウラクした』――チョウラク? こうー?」
「超楽したってギャルじゃ・おまえじゃないんだよ……こうだ」
凋落、とか訳わかんない字ぃ書いた。なにこれ、どういう意味?
「落ちぶれるってことだよ。もっと噛み砕いて今風に言えば――炎上して消えるってとこか」
「あーね、やらかしたインフルエンサーの未路ってわけね」
「……末路な。ミロじゃない」
次は読みー。『恩師の薫陶を受けた』って例文で〝薫陶〟に傍線。だからムズすぎだからー。
「くんとう、な。徳をもって人を感化して、優れた人間にすることだ」
頭叩く。することだ、じゃないっての。
「アタシにわかるように言え」
「…………。巡条さんの優しさでおまえが改心したってとこだな」
元は性悪女だっただろ。でもあのゆるふわな人柄にかなわなくて、トゲが・毒が抜けただろ。
「黒川萌々奈は巡条花恋の薫陶を受けた、そう覚えと――けっ!?」
腹殴る。だっただろ・抜けただろ、じゃないし。カレンだけじゃないし。……アンタもだし。
ボウリング場のトイレでアタシが返り討ちにあったとき、止めようとして出てきたじゃん。ビビりながらでクっソダっサかったけど――かっこよかった。佐って女々しい・弱々しいけど、本気出したら男らしいっていうか。最初にアタシらに突っかかってきたのもマジ度胸あるし。
今思えばあの口ゲンカした時点で惚れてたかも。
「腹はやめろよ、いってーな……!」
目に涙浮かべて痛そー・苦しそー。さすがに悪かったなって腕取っておっぱい当ててやる。
「こ、今度はなんだ」
「ムチからのアメー。アハハ、ボッキするー? びゅるっと・じゅるっと出してあげよっかー?」
「放せ……じゅるってなんだよ」
「フxラじゃん。オトコってみんな、じゅるじゅる音立てて吸われたいんじゃーん?」
あとオンナがラーメンすするのって、ザー×ンすするのと同じだってクソヤロー言ってたー。
「前田の放言・妄言だろ……そんなの知るか」
ホーゲン・モーゲン? どこの何語よ・何人よ。テスト出んの?
「ラーメンはともかくカレンにじゅるじゅる吸われたくないわけー?」
「レンちゃんはそんなことしない・知らない! いいかげん放せ!」
とか言って自分で振り払った。これくらいのスキンシップはまー許してよ、『レンちゃん』さ。
◎
漢字にはじまり、徹底的に現国をやった。ギャルに国語教えるのひと苦労……超楽したい。




