第4話「ああいうメガネがヤケクソでムチャクソ犯罪やるタイプー」
右斜めふたつ前の席の萌が起きた。この6時間目ずっと突っ伏しててチャイムが鳴るや、だ。左斜めひとつ後ろ(僕の右斜めひとつ前)の巡条さんを振り向いて「クっソ疲れたねー?」
「ね~」
担任が来てひと言ふた言のあっさりホームルーム。で、僕はレンちゃんの机の正面へ行く。
「お疲れ」
「お疲れさま~」
「アタシにも言えっての」
「おまえ寝てただけだろ。言えっていうならおはよ――うっ!」
座ったまますかさずキックしてきた! いってーな! いい蹴り・いい脚してんなぁ……!
「も~ぅ、蹴らないで~・怒らないで~!」
「じゃあキレさすな。アタシ寝起き、機嫌、クっソ悪いから」
そう言った直後、こいつの机がガタっと揺れた。
「ご、ごめんなさいっ」
みんな我先に教室を出る混雑のせいかぶつかったらしい。友達ともども一目散に逃げ去った。
「ったく、んーなビビんなくていいじゃん。アタシがなんに見えるわけ?」
「クソだろ。機嫌、クっソ悪いんだろ」
またキックしてきたけど今度は回避。パンツ見えそうだった。……もっと怒らせようかな?
「あれ誰だっけー。女子最底辺のメガネとデブってニンシキしかないわー」
「そ、そんな言いかたないでしょ~・あんまりでしょ~! 小林さんと佐藤さんじゃな~い! ぶつかった子がメガネをかけた小林さんで~、そのお友だちがぽっちゃりした佐藤さんよ~」
ハードルのとき巡条さんの〝じ(し)〟まで残りくけこさとか言ったのを覚えてるだろうか。〝く〟はご存じ黒川で、〝け〟はいなくて小林・佐藤と続く。今のはその黒巡のあいだの小佐。
「ああいうメガネがヤケクソでムチャクソ犯罪やるタイプー。なに考えてるかわっかんなー」
「おまえな……」「萌~々~奈」
放課後も教室で勉強で、16時半になると切りあげた。巡条さんは17時からのバイトに行く。僕は萌の家に行く。初めてだ。こんなのでも女子の家には違いなく、普通に緊張・高揚する。
「…………」「…………」
こいつとふたりで電車に揺られるというのも、なんか悔しいけど認めよう、ドキドキする。面の皮も化粧も厚すぎるけど華やかな・にぎやかなギャル――要するにいい女を連れてる感。まあ僕みたいなのとカップルには見えないか。見えないとしても人目が気になる・癖になる。
「あと何駅だ・何分だ?」
「2・8」
味気ない・そっけない。乗って15分経つけど話してない。こいつはずっとスマホいじってる。
結局まったく会話はなく、言ったとおり2駅8分で降りた。
駅を出て並んで歩く。こいつほんとスマホ依存で、悪しき・由々しき歩きスマホ。…………。
「っ!? ちょ、返せコラ!」
乳は・態度はでかいけど身長はそうでもない。取りあげてみたら背を・腕を伸ばしてくる。
「うつむいてて危ないからやめろ。暴力もやめろよ、地面に落としてひびでも入るかもな?」
「チッ、佐ぁゴルァ……!」
野獣のように威嚇しておそろしいけど僕の勝ち。落とされたら困るから力に訴えてこない。
エロに訴えてきた……!
「お、おいコラ!」
腕をまわして抱きつく・絡みつく。真正面から当てられて――や、やらしい・やわらかい。股間に股間も当ててくる、しかもこすってくる! 路上でこんなん捕まるわ・たまらんわ!
「か、返す、返すから! やめろ・離れろ!」
「えー、せっかくバキバキになったのにー?」
アハハハ離れた・からかわれた。余裕そうに・得意そうに上気してる。……興奮してる?
「アンタのせいで早速カレン裏切ったんだけどー」
「は? 裏切った?」
「しゃぶってはないしまーいっか、ヒミツねー」
嬉しそうに・楽しそうに足取り軽く前を歩きだす。返したのにもうスマホいじらなかった。
それから徒歩数分で黒川の家に。タワーマンションの22階だった。……家賃すごい高そう。巡条さんのボロ――趣アパートと比べたら、ここは都心にも学校にも近い。なにより駅に近い。
……親の稼ぎすごい良さそう。
「はいここ、アタシの部屋ー。くろついでてー」
「くつろぐ、な」
レンちゃんみたいな言い間違いするな。どこ行くんだよ、ひとりにするな。
「…………」
散らかってるけどめちゃくちゃ女子の部屋だ。ギャルだからかな、匂いも色合いもどぎつい。ごちゃごちゃした小物はビビッドピンクで、タンスとかベッドとか大物は漆黒、統一感はある。勉強机は瓶で埋まり、椅子にはアマヅンの箱が座ってる。……長いこと机に向かってないな。意外とアイドルとかのポスターは貼ってなくて、これといって趣味が・嗜好が読み取れない。ただ化粧道具の類はいっぱいあって、タンスに服が満載なんだろうなって見ないでもわかる。巡条さんの狭――密六畳と比べたら、二、三倍広くて床でごろごろできる。けど散らかってる。
……戻ってこないな。
「おーい!」
「あーん?」
返事も奴もかえってきた――下着姿で……!




