第10話「お……お……おっぱい~~~~~~!」
翌土曜。ジーニアス黒川に教えてもらったデートプラン、キャンプに代わって全力で楽しむ。スキーぐらい着込んで・受験ぐらい意気込んで駅前で待ち合わせ。11月19日10時10分前。
「クマく~~ん!」
僕が来てまもなく巡条さんもやってきた。ベージュのニット帽・赤いマフラー・白いコート。下も厚手のパステルピンクの長ズボンで防寒マックス。初めて見るレンちゃんの私服……!
「おはよ~。待たせちゃった~……?」
「ううん、今来たとこだよ。おはよう」
「温かそうでいいわね~。いつもよりたくましく見えるわ~」
言われてみれば僕も初めて見せる私服だった。普段は学校から直で家行ったりしてるから。
「私は太って見えるかしら~?」
「見えないよ。か、かわいいよ」
「っ……も~ぅ……うふふ……」
かわいいよ!
電車に乗り込む。髪型は今日は文化祭のときのしおりんよろしく、ポニーテールにしてた。ニット帽の下から尻尾が出てる。隣り合って座ると柑橘系の――香水かな、いい匂いしてくる。
「私、やったことないの~。だいじょうぶかしら~」
「まあ……大丈夫だよ。僕もやったことないけど慣れるってあいつ言ってたよ」
「あいつ~? 萌々奈~?」
「あ、いや……うん」
今回のデートが萌の助言っていうのは言ってない。別にやましくも悔しくもないけど。
「ふふっ、やっぱりそうだったのね~。クマくんの発想っぽくないな~って思ったわ~」
「はは……そうだよね」
逆立ちしても瞑想しても思いつきはしない。これだから僕は陰なんだ・奴は陽なんだ……。
「けれどキャンプでもよかったのよ~? とにかく今日で最後ね~」
今日で・今週でデートは終わりだ。12月頭の期末テストまで残り十数日、本腰入れないと。
「めいっぱい遊びましょ~」
「うん。昨日やった法則、覚えてる?」
「フラミンゴの法則~?」
「……フレミングの法則」
めいっぱい遊んでめいっぱい勉強しよう!
人も揺れもまあまあ多い電車に乗ること4、50分――降りてちょっと歩いて到着した。冷気漂う建物のなかへ。靴を履き替える。うわっ、歩きにくい。普通に足首ひねりそう……。
「ク、クマくん、助けて~……ひとりで歩けないわ~……」
早速手をつなげた! ふたりしておそるおそる氷上へ。そう――ここはアイススケート場。人はそれほど多くない。親子連れが結構いて、5歳くらいの小さい子も手を引かれて滑ってる。友達同士で来てるだろう人らもだいぶいる。あとは男女、すなわちカップルもちらほらと……。
「お、危ない」
「……えへへ」
彼女がこけかけて抱き寄せられて照れてる・惚れてる! あ、あんなことが茶飯事……!?
よそ見しつつスケートリンクの前まで来た。一歩足を踏み出せばそこは白き・冷たき地面。
「僕から行くね、気をつけてね」
率先して氷の上に降り立った。左手は手すりに右手はぎゅっと離さない。
「ど、どう~? 平気~?」
「うん。足を斜めに傾けなかったらこけることはないよ」
でもまだ不安そうで垂れ目・垂れ眉が下がったまま。困った・弱ったその表情、好みです。
少しして意を決して足を出して――無事立てた。
「はぁ~……ドキドキしたわ~……。こけないかはもちろん、氷が割れないか心配で~……」
「割れないよ……。じゃあまずはこのまま――」
って、こけた! それはもう見事な・豪快なお尻もち!
「だ、大丈夫!?」
すぐに手を引っぱる。握ってるのに防げなかった……意味ない・申し訳ない。
「あ~ん、いきなり濡れちゃった~……。パンツまでしみてるわ~……」
「…………。ごめん……」
助けられなくて……。変な想像して……。
「いいえ~、いいの~、ごめんなさ~い。滑る前からこけるようなドジっ子おばさんで~……」
「おばさんじゃないよ、お姉さん!」
ドジっ子お姉さん!
気を取り直してまずはこのまま手すり伝いに、ぐるっと・すいすいーっと一周することに。巡条さんの手を引く・前を行く。腕も脚も小刻みにぷるぷる震えて危なっかわいらしい。
「そんなに怖がらなくても」
「だ、だって~……とっても痛かったの~……」
さっきのが恐怖になってるみたい。青アザとかになってないといいけど……。
心を痛めたのもつかの間――
「ぁ……!?」
またこけかけてこっちに寄りかかってきた。やんわり抱きとめる。
「ご、ごめんなさ~い」
ぽっと照れて・ぱっと離れて手すりに体を預ける。お……お……おっぱい~~~~~~!
ア……ア……アイススケーベ~~~~~~!




