第6話「え~い!」
「うふふ、若いっていいわね~」
「……あれは幼いって言うんだよ」
幼児から小学生まで子どもたちがはしゃぎまわってる。この寒いなか、元気に・無邪気に。保護者のお母さんも何人かいて、白い息を吐いて話し込んでる。円安で大変とか聞こえてきた。
「子どもの頃、どの遊具が好きだった?」
「ん~、ブランコ~」
90度を超えちゃうくらいびゅんびゅん立ちこぎしたものよ~。……意外とわんぱくだね。
「座りこぎで飛んだり靴を飛ばしたり~、飛距離を競って遊んだわ~」
あとでちょっとやりましょ~って提案してきた。いいけど……もうブランコ窮屈と思うな。
ちびっこたちのなかを通りすぎて遊歩道へ。まっすぐ伸びる道の両脇に芝生が広がってる。冬で・平日で人っ子ひとりいなくて物寂しいけど、ここでバトミントンがやりたいんだって。
「この辺にしましょ~」
全体の中ほどで道をそれて草に踏み入る。あどけない声もだいぶ遠ざかった。
「は~い、ラケット~」
「ありがとう」
適度に距離をとって楽に構える。グリップも風も冷たい……。だけど顔は・心はあったかい。
巡条さんはラケットで顔を隠し、網の向こうで頬を染めてる・ゆるめてる。
「な、なんだか照れちゃうわ~……」
かわいい……もう嬉しそう・楽しそう。表情も心情も隠せてない。
「い、いくわよ~」
「うん」
緊張の・紅潮の面持ちで球というか羽根を「えいっ」
ヒュン! そそくさと拾う。
「い、いくわよ~」
「うん」
ヒュン! そそくさと拾う。ま、まあ寒いしね……それでだよね。
「い、いくわよ~」
「う、うん」
ヒュン! そそくさと拾う。…………。
「いくわよ~」
ヒュン! なにくそと拾う。らしくないよ、イライラしないでよ! 僕の返事待ってよ!
「羽根を上にぽいっと投げるんじゃなくて、下にぱっと放してみよう。たぶん簡単に打てるよ」
「ほ、本当~? 下に――ぱっ」
えいっ。やっと当たった・飛んできた! なるべく山なりに優しく打ち返す。
「ほっ」
「えいっ」
「よっ」
「えいっ」
サーブが下手なだけでラリーはちゃんとできる。以後、ヒュンと空を切ることもなくなった。
……『えいっ』がいちいちかわいい。癒やされる。
「え~い!」
スマッシュなおかわいい!
僕たちは時間を忘れた・童心に帰った。気づいたときには辺りが暗い・あどけない声がない。
「え~~!? もう17時過ぎてるわ~~!」
「1時間もやってたんだね……体感10分だね」
楽しいときはあっという間。スポーツ嫌いだけどバトミントンよ、おまえだけは認めよう。カップルでやるのに最適だ・最高だ! いやあの、ガチの・プロの人、怒らないでくださいね。
あ、それからボウリングも。また行きたいな・やりたいな。
「はぁ~、とっても楽しかったわ~。ありがと~、拓真~」
「っ……う、うん……」
ここぞってときに呼び捨て! どぎまぎして泳いだ目を巡条さんの顔に戻してみたら――
「うふふ……」
苦笑いのような照れ笑い。お互いドキドキ・むずむず……。なんとも言えないいい気持ち。
そんないい感じで遊歩道を引き返し、閑散とした遊具のうちブランコにそれぞれ腰かけた。
「あれ~、こんなに小さかったかしら~? 締めつけられて痛いわ~……」
やっぱり今となっては窮屈だった。両の鎖に締めつけられるほど、大きいお尻みたいです。
こぎだしたけどどうも昔みたいにいかないみたい。少しして止まって隣の僕を見て言った。
「飛距離競争、やめましょ~。できないわ~……」
「はは……成長したってことだよ」
男の僕さえキツいしね、丸みを帯びる女の人はそりゃあね。なんて言ったら普通にセクハラ。
ベンチに移動してバトミントンを振り返った。僕が一回、まぬけにこけて尻もちついたこと。レンちゃんが一回、スマッシュし損ねて頭に羽根が当たったこと。幸せな笑い話ができました。
「ふふっ、そろそろ帰りましょ~。明日はゲームね~・お料理ね~」
駅まではまた散歩して別れた。しいて心残りを挙げるなら――つなぎたかったな、手……。
◎
「これ、知らない・見たことない? 任大堂の」




