第3話「私の余命……あと……2、3か月なのね……」
転校してきてひと目見て付き合いたいって惚れたけど……まさかそんな、こんな僕なんかと。いざ付き合ったらどうしたらいいかわからなくて、やっぱり〝花恋〟なんて呼べなくて……。だけどそれは巡条さんも同じだった。なので呼びかたは今までどおりレンちゃん・クマくん。ここぞってときに呼び捨てにすることに決めた。……ここぞっていったいいつぞ・どこぞ?
昨日・おとといって土日、ふたりで過ごしたものの――恋人同士でまるで過ごせなかった。
『お、親指だけどうして太いのかしら~?』
どんな話題ですか・ひきだしですか!? 考えたことありません!
『か、かいわれ大根と雇われ店長って似てな~い?』
どんな話題ですか・ひきだしですか!? 『われ』だけですよ!
『コ、コロナ禍でやることか~! どんなこと~?』
え? ……え? 大喜利ですか!? コロナ禍でやることか、どんなこと――か。…………。
『輪になって踊る』
密も密。
『ふふっ、やることか~』
ややウケ。よし、次はぶっ飛んだの考えてみよう。ありえないこと・考えられないこと……。
『飛沫テスト』
後藤じゃないけどシュール系かつ上手いこと言った系。お題を超えて期末テストとかけて。
『ふふっ、ふふふっ、みんなでくしゃみでもするのかしら~。ふふふふっ、うふふふふふ!』
バカウケ! ただまあ巡条さんは笑いのツボが浅いから、客観的におもしろいか不明です。
せっかくだから回答してもらう。
『コロナ禍でやることか! どんなこと?』
『あんなことこんなこと~』
『……ふっ』
なんというか……らしいね。割と即答で瞬発力はあったね(発想力はなかったね)。
『あ~、鼻で笑った~! 次はおなかで笑わせちゃうわ~』
かわいく・か細くん~ん~うなっておっとり考える。やがて指を立てて意気揚々と答えた。
『おうちのリフォーム~!』
うん。……うん? ピンとこない……お題関係あるかな?
『工事で~、ご近所さんに騒音被害~! ステイホームなのにやることか~! でしょ~?』
説明したら負けだよ・終わりだよ……。それはむしろ笑えない現実問題じゃないかな……。
◎
「はぁ……はぁ……ふたりとも……速いわ・若いわ……」
「アハハ、死にそうじゃーん。おばさんにしても体力なさすぎ思うわー」
「おばさん言うな・死にそう言うな。――大丈夫?」
「ええ……なんとか……。久しぶりに……こんなに……走ったわ……」
もうすぐチャイムが鳴る・5時間目になる。鬼ごっこはおしまい。なんだかんだ楽しかった。ドレス姫走りの巡条さんを易々鬼にして、萌にも僕にも追いつけなくてかわいそうになって。だから黒川がわざとバトンタッチ。鬼になって僕を鬼にして、でも僕は奴を鬼にできなくて。仕方なく巡条さんを鬼にして、萌にも僕にも追いつけなくて以下ループ。……じゃんけんかな。
「2、30分走っただけでそんな息あがってたらマラソン死ぬわ」
「マラソンって……いつ……?」
「1月・2月ー? まー3学期」
真冬に8キロとか走らされる苦行・修行……。一番嫌いな強制イベント、カミングスーン。
「私の余命……あと……2、3か月なのね……」
死なないでください……。
疲れたけど体は温まった。校舎に戻る。下駄箱で履き替えて階段を上がろうとしたら――
「しおりん!」
たぶん3年の男子に呼び止められた。階段の右手(ここ1階)は3年生のエリアだから。
「マジか!」「うわー!」「美しー!」
第一発見者が近場の仲間らを呼んであっという間に集まった。学年が上で普通に怖い……。
「握手してください!」「握手してください!」「握手してください!」「握手してください!」
横に並んで一斉に声を出す・手を伸ばす。90度頭を下げて求婚でもするかのよう。…………。
「ふふっ、は~い」
ひとりずつ両手でやわらか~く包み込む。……嫉妬する。まだ僕と手もつないでないのに。
巡条さんは天森栞として学園のアイドルになった。朝から毎休み時間、誰かしら会いに来る。ほとんど男子で「グラビア見た」と言いにくる。……言外に「ヌいた」と聞こえてやるせない。まあでも人気があって結構で、当のしおりんが嬉しそうで。しばらくにわかファン絶えなそう。
「ちゃんと写真集・DVD買うから! そしたら持ってくからサインしてください!」
「本当~? うふふ、ありがと~。いくらでもするわ~」
手を振ってニコニコお別れ、階段のぼる。ちなみに僕はネットでグラビアもなにも見てない。見たいは見たいしもう嫌がらないと思うけど、僕が好きなのは天森栞じゃなくて巡条花恋だ。見るというなら今の彼女こそを見ないといけない。しっかり見て恋人として仲よくなるんだ。
◎
「クマくんクマくん、〝宿題〟やってきた~?」




