第10話「…、…、…」(前話と地続きです)
お~! いざ開演。
愛過知の暗く切ないエモイントロが流れだし、7人がしなやかに・しめやかに飛び出し――
うおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~!
最前列の3年男子が歓喜の雄たけびを・拳をあげ、パイプ椅子から立って早速押し寄せる。しおりんしおりん叫んでるとこから察するに、ネットで調べて親しんだんだ・楽しんだんだ。ここ数日で2、3年も昼休みなんかに来るまでになった。ひと目見ようと・ひと声かけようと。ファンは男に限らない・留まらない。モデルもやってただけあって、女子も一部立ちあがった。
イントロ終わってしおりん(しばらく便利に・便宜的にこう呼ぶ)が口を・片腕を開く。
「月明りの夜 湖のほとり…… あなたは どこからともなく 現れた」
ハンドマイク片手に華麗に舞う・綺麗に歌う。背後の6人はAメロ班が引き継いでる。
イントロ踊ってきた黒川が隣来て言った。
「マジで『しおりん』しか見てないわー」
「そうか、不満か」
「べっつにー」
不満そう。でもおまえ割と見られてると思うぞ。乳でかいし脚黒いし……要するにエロいし。
「どうして 打ち明けて くれなかったの…… 秘密を知っても 私の恋は 冷めないわ」
歌は・班はBメロに。黄島・緑原の巨女コンビがミドルツー。もう次僕と萌があそこに立つ。歌って踊るしおりんを袖から楽しむ余裕はない。バックフォーの赤青前後も緊張して見える。
マジでしおりんしか見てないと心のなかで唱えること三回――とうとうサビが・番がきた。
「愛すことが 過ちだなんて 知らなかった…… それでも今は 抱擁を」
横の黒川と手と手を取り合い見つめ合い、抱きしめる(フリ)。正直こいつでもドキドキ……。
「たとえ破滅が定めでも――あなたと私は 出逢ってしまった 愛し合ってしまった」
一旦離れて各自はかなげに舞う。さっきの優しい言葉を思い出し、しおりんの後ろに隠れた。
「愛すことが 過ちだなんて 気づかなかった…… けれど今は 今だけは 口づけを……」
再び手と手を取り合い見つめ合い、チュー(のフリ)。続く間奏班でもある萌以外すぐはけた。
「はぁ……はぁ……!」
心臓バっクバク・ドっクドク! 舞台下は、観衆はエサに群がる池のコイみたいだった……。ピアノとバイオリンの悲しい・厳めしい調べだけど、とにかくしおりんしおりん大盛りあがり。見れば2年も1年も殺到してきてる。級友のガードマンズ、揉みくちゃでめちゃくちゃ……。男のほうが数も血の気も多いものの、女もかなり熱狂してる。スマホのきらめきが星々のよう。
「佐ぁ!」
萌ぉが怒ってこっち戻ってくる。間奏を経て現在2番のAメロ。
「アタシのほう寄りすぎ! アンタ、カレンとかぶってんだけど!?」
「……バレたか」
バレたかじゃねーわコラって肩パン。わかったよ・悪かったよ、定位置でがんばるよ……。
2番ではしおりんと黒川が・大サビではしおりんと僕がハグ&キスする。……ふふふふふ。
「にやけんな。カレンとギュって・チュって想像して」
「し、してるか。大体フリだろ」
「じゃあもしホントにしてくれたらさー、このあと即コクれ。じゃないとぶっ飛ばすからー」
「は? ……は?」
ほんとにしてくれたら? いやいや、してくれるわけない。
「その二回言うのムカつくやめろっつっただろ。今ぶっ飛ばすぞゴラ」
今も今後もぶっ飛ばすなゴラ……。今も今後もぶっ飛ばすなゴラ……。
「それかアタシにしてほしかったー?」
なんの真似か・冗談か、唇をんーってキス顔で抱きついてこようとする。
「……やめろ。してほしくないわ」
「そりゃそっかー。はいはい、カレンにゆずるゆずるー」
「譲る? なにを?」
鼻で笑われる・あしらわれる。……なんだよ、言えよ・教えろよ。
「…、…、…」
うざく・あざとく口動かして無音で答えた。三文字か。こいつで三文字といえば――
「ウ、ン、コ?」
今ぶっ飛ばされた……いてててて……。おふざけがすぎたけど真ん中はンで合ってると思う。
危うく出遅れるとこだった。気づいたときにはBメロ終わりかけで、サビ班二度目の出撃。黒川と話した――ことよりもボコられた――せいか緊張がほぐれ、なんとか定位置でこなせた。
大サビへつながるいうなれば大間奏に。ギターソロならぬバイオリンソロが激しい・美しい。ダンスのパートとしてはここが最長・最難。とてもじゃないけど三、四〇秒も僕は踊れない。大サビ一発目はバイオリンほか諸々消えてピアノだけになり、しおりんの歌声が鮮明になる。
「愛すことが 過ちだなんて 知らなかった…… これでお別れというのなら 一夜を……」
女子はちゃんと詩も噛みしめてるのか途端にキャ~~~~! ……どんなアニメなんだろ。
曲がピアノ以外はけるっていえるから、ここは舞台にしおりんオンリーに(僕の発案・妙案)。
さあ、最後だ・三度目だ――
「愛すことが 過ちだなんて 知らなかった…… 私を罰して 抱きしめて」
待ちに待ったその手を取る・その目を見る。やっぱり萌の比じゃないくらいドっキドキ……。優しげな垂れ目・垂れ眉に悩ましげな口ぼくろ。小顔で色白で美人がすぎる・大人がすぎる。本人も香水も甘く優しくほんのりいい匂い。このまま抱きしめたい・抱きしめられたい……。
ふわふわの胸がむにゅっ。……むにゅっ?
「っ……!?」
ほんとにしてくれた……!?
「たとえ生まれ変わっても――私とあなたは こんなふうにしか 出逢えないでしょう……」
もし――かして……この次も……?
「愛すことが 過ちだなんて 気づかなかった…… どうか私を 私を罰して キスをして」
え、え、しおりん、あ、いや、レンちゃん、ああ、いや、巡条さん……!?
唇と唇が触れ合った・溶け合った。
…………。
「愛すことが 過ちだなんて 知らなかった…… 私のせいで あなたは いばらの道をゆく。愛すことが 過ちだなんて 気づかなかった…… あなたのせいで 私は――自ら、逝く……」
ぽーっと・ぼーっとしてたら終わった。みんな短剣刺してひざまずいてんのに僕だけ棒立ち。
野太い・黄色い歓声が沸き起こる。男女とも大興奮・大喝采、大成功だった・大盛況だった。
正面から見えないし一瞬だから誰も気づいてない――けど確かに触れたんだ・溶けたんだ。前に酔いどレンちゃんにチュっチュされたのと違い、酒くささなくて刺激が・快感が強すぎた。
あ……! 萌が垂れ幕でごにょごにょ言ってたの――わかった気がする……!
『カレンさ、佐ぁのこと好きじゃん? オトコとして』
『チューんとこさ、ホントにチューしたら? イチコロだって。このあと即コクってくるわ』
……即コクってやるわ。
◎




