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24JK  作者: 百雲美呪丸◎
一章
6/214

第6話「ブラジャーよ~。フィジーのあいさつじゃないわ~」

 食べ終わったら机の連結解除、例のごとく・霊のごとく僕が椅子を横づけて勉強見てあげた。引き続き古文で僕もそんなに得意じゃないけど、オール1、2は本当みたいで教師足り得てる。とはいえこっちもせいぜいオール3、4。恥ずかしながらぜんぶがぜんぶわかるわけじゃない。でも僕のわかる範囲で十分だと。赤点を・留年を回避できれば十分だと。雪佐くん大好きだと。

 さらっと嘘です・願望です、それはそうとふと思った。


「実質朝から勉強ぶっとおしだけど……疲れも眠気もぜんぜんないの?」

「まさか~。3、4時間目でへとへとで~、5、6時間目はうとうとよ~」

「……ほんとに? うとうとしてるとこなんて見たことないけど」

「あら~? 私を見ているの~?」

「み、見てない見てない!」


 隣だから視界の端にずっといるだけ! ヒトの視野は180度超ってだけ!


「ふふっ、確かにそうね~。私も右目の端にいつも雪佐くんがいるわ~」

「っ……」


 ドキっとした。だって『右目の端』を〝心のなか〟に置き換えたら……。置き換えんなって?


        ◎


 巡条さんの勉強を見てあげるようになって1週間が経った。転校してきて4週、9月末だ。ひととおり全教科見てみて思ったのは――中学の勉強。中学で習ったことほとんど忘れてる。だからその延長の高校の勉強が厳しい・難しい。そこで放課後、中学の復習を持ちかけたい。僕はもちろん巡条さんも普通に帰宅部。お節介じゃなければ・彼女さえよければ居残りをと。

 察しのとおり・知ってのとおり下心はある。もし僕に性欲がなければ恋人も要らなかった。静かになった放課後の教室で男女がふたり――ひょっとしたらうひょっとするかもしれない。そうかといって勘違いはしてない。僕が巡条さんならこんな暗い奴にまずときめかないから。この先も別に好きになんかなってくれないかもしれない。だとしても今が楽しい・誇らしい。

 周りの目は日増しに強くなってきた。「ぼっち同士くっついて」って口さがない冷笑もある。前田修と黒川萌々奈はなにも言われず・誰にも笑われず、雪佐拓真と巡条花恋は指を差される。学校って嫌なとこだなってつくづく思う。一に社交的、二に体育会系じゃないと弱者なんだ。口を・体を動かすのがすべてじゃないのに、コミュニケーション能力・身体能力が物を言う。


 僕はスポーツ――とくにチームスポーツ――が大嫌いだ。


        ◎


「巡条さんは大嫌いなものってなんかある?」

「大嫌いなもの~? ん~、そうね~……」


 箸を止めて片手を頬に考えだす。今日も今日とて昼休み、顔を・机を合わせて食べてます。

 巡条さんは毎日いうなれば2色弁当、おかずは一品・一面だ。本日は真っ黄っ黄、玉子焼き。何個も余らせて賞味期限が切れるとかで作りに作ったらしい(いっつも賞味期限に追われてる)。交換してもらって食べたけど――うまい・甘い。朝がつらいだけで料理上手は本当だと思う。


「ものじゃなくって人だけれど~……お母さ~ん」

「……え? お母さん大嫌いなの?」


 どう見ても母親思いのいい娘って感じなのに。


「なんて言ったかしら~、かん……かん、とう? されちゃって~」


 勘当だよね、かん〝ど〟うだね、なんでこれ濁るんだろうね。……そんなのどうでもいい。


「だから私も『お母さんなんかだ~いきらいっ! べ~っだ・ふ~んだっ!』って感じで~」


 表現ゆるいなぁ・かわいいなぁ……数十分でけろっとしそうな幼稚園児の駄々っ子感。


「そ、そうなんだ」


 お母さんと確執あるなんて思わなかったなぁ……これ以上は突っ込んで聞かないでおこう。ひとり暮らししてるのもその辺の関係かな。でも勘当されてたら自分で生計立ててる……?

 今度は反対に僕の箸が止まった。巡条さんは玉子焼きを・土鍋ごはんをおいしそうに頬張る。

 ゆっくりよく噛んで飲み込むと、たぶん続きを話しだす。


「反対にお父さんは大好きよ~。優しくて~、大らかで~、どんなことも応援してくれるの~」


 ひとり暮らしも半分援助してくれてるという。なるほど、そういうことか。……って、半分?


「もう半分は自力よ~。月・火・金ってアルバイト~」


 ふ、普通に偉い……! 一五、六で生活費折半なんて……!


「す、すごいね。しっかりしてるね」


 やっぱりめちゃくちゃいい娘だった。年頃の女子なのに父親が好きって時点で。


「しっかりだなんて~。今日は朝からばたばたで~、ブラをつけ忘れて慌てて戻ったのよ~?」


 しっかりじゃなくてうっかりよ~、うふふふふって笑顔。


「ブラ……?」


 ジャーのことだよね!?


「ブラジャーよ~。フィジーのあいさつじゃないわ~」


 へー、フィジーのあいさつなんだ。じゃないわ~!


「そ、そういう話は……なんというか……」


 小首かしげて「なぁに~?」って顔してる。なんでわかんないの・恥ずかしがんないの……。

 ならからかったのかと思ったら結局失言。やっとはっと気づくと赤面して伏し目で謝った。


「ご、ごめんなさ~い……セクハラだったわ~。私ったら同性の友達に話すみたいに~……」

「…………」


 ということは男として見られてない。異性として意識も認識もされてないんだ。

 いや、別に勘違いしてない。交流しだして1週間でころっと・ぽうっと惚れられるわけない。『同性の友達』のように思ってくれるだけで感謝感激。他人から知人にはなれたと喜びたい。


「雪佐く~ん……? 気分悪くしちゃったかしら~……?」

「え? あ、ううん!」


 むしろ気分よくしたよ。ノーブラで家までゆさゆさ揺らして駆け戻ったんだなぁって。

 ……これこそセクハラ。

 改めて絵が・乳が浮かんで顔がほてったから、弁当箱持ちあげて隠しがてらごはんかき込む。

 巡条さんも食事を再開、のんびり食べる。箸はほぼ端で長めに持ってて品が・リーチがある。

 先に食べ終えてちょっとして――例の提案(放課後に中学の復習)持ちかけてみた。


「まぁ~!」


 両手を合わせる・顔を輝かせる。角度は斜めだ・光度は不明だ。


「大助かりだわ~。けれど本当にいいの~?」

「いいよいいよ。家帰ってもやることないし」

「そう~? そういうことならお言葉に甘えま~す」


 垂れ目を糸目にニコニコ完食、水筒のお茶を入れる。僕のほうにコップを向けて聞いてきた。


「乾杯~?」

「乾杯?」

「かんぱ~い」

「か、乾杯」


 そのノリ(?)かわいいけどわかんないよ……。

 コップの横と底に手を添えて湯飲みみたいに飲んでて口の端のほくろが覗いてる。

 うごめく白い喉元にも目を奪われたけど、気づいたそぶりもなく一服して「ああ、でもね~」


「さっきも言ったけれど月・火・金はアルバイトだから~、そんなに残れないかも~……」


 バイトは居酒屋で17時から21時までだとか。


「居酒屋――さん?」


 行ったことないからイメージだけど、はきはき・てきぱきしてないと務まらなさそうな……。


「むぅ~。それってつまり~、私ははきはきもてきぱきもしていないってことね~?」

「あ、いや……」


 バイトとなるとしてるのかな? 厨房にビールだなんだ大声で伝えて立ち働いてるのかな。


「ん~、声が小さいっていうか弱いってよく言われるし~、どんくさくって使えないね~って」


 務まってなかった……。


「ねー、あれ付き合ってるー?」

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