第9話「あら~! かわいいわ~・クマちゃんだわ~!」(前話と地続きです)
「大丈夫――じゃないかも……」
舞台袖からこそっと見渡す全校生徒に圧倒される。こんな大勢の前で――女装でダンス?
「べ、別に要らないフランクルフルト食わされたせいかなぁ、おなか痛いからトイ――」
「ざけんな・逃げんな」
萌に肩つかまれた・仮病バレた……。
いや、わかってる。みんな巡条さんにしか目がないし目がいかない。目移りしても黒赤青だ。悪目立ちするのはガタイいい前田・ひょろ長い後藤。そんななか僕は屁にも空気にも等しい。それでも人前に出るわけで……踊る、わけで……。今日のために練習してきた――けど……。
レンちゃんに手をそっと取られた・ぎゅっと握られた。まっすぐ見つめられる。
「だいじょうぶ~。怖かったら私の後ろに隠れて~」
フォーメーション崩れるけど構わない、あとでそのこと責められたらそのときもかばうと。
「わ、わかった……」
優しい・頼もしい言葉かけられて……こうなったらやるしかない。
「ほら男子ー、とっとと着替えろー!」
黒川が号令する。借りた制服・かつらを手に、野郎どもは舞台裏の地下行って着替えてきた。
「シュウきもぉ! めすごりらぁ!」
「ケ、ケイ、ヘンシツシャっしょ!」
赤青大爆笑。背の高い前後はぴちぴちの極みでヘソまで出てる。漢丸出しでいかにも変態だ。運動部のほかの奴らもいい体してて、小柄な奴でも漢を隠しきれてない。けど僕だけは――
「あら~! かわいいわ~・クマちゃんだわ~!」
「……アンタ女装したことある?」
「ないわ!」
女々しいからかな、妙に似合ってるらしい……。もちろん巡条さんはだいぶ甘め・ひいきめ。
「クマちゃんクマちゃん、お写真撮ってい~!?」
「え? いいけど……」
スマホ構えて縦横無尽に連写しだした。……一枚二枚じゃないんですね。
写真撮りたいのは僕のほう。今日の巡条さんは普段とふた味違う。髪型とスカート丈が違う。いつもは毛先で留めて左肩に流してるのを、後頭部の根本で一本に束ねてる。ポニーテール。ショートカットだった10代の頃に、アイドル時代に寄せ、切らないまでも短く見えるようにと。足首まで長い常のスカートは膝上まで短くしてる。これも昔の自分に寄せてって美脚サービス。白状すると朝は普通にチラチラ見てた(観劇中にとくに)。今日だけと言わずどうか毎日……。
「どんだけ撮ってん、のっ!」
「あう~……」
頭バシってはたかれた。ヨシヨシしたいのは山々だけど年下の分際でできない。
その勢いでなぜか萌は垂れ幕のなかに引き込んだ。分厚い臙脂にくるまってごにょごにょ。
「カレンさ、………こと……じゃん? オ……として」
「い、いきなりなによ~! え? どうなのってその~……。そ、そうよ~、男の子として~!」
かたや小声で部分的に・かたや大声で全体的に聞こえる。……男の子として?
「………んとこさ、ホントに………したら? イチコ…………。…………即コクっ……るわ」
「え~~~~~~~~!? ほ、本当にしてくれる~……?」
あたかも肯定・応援するように背中叩いた音がした。ふたりとも出てくる。
「はーい、集ー合ー!」
巡条さんを小気味よく叩いたみたく両手を打ち鳴らし、ダンス部隊のみならず全軍集める。こいつがリーダー・巡条さんがサブリーダー。ちなみに黒川と四色前後はいまだ絶交してる。
「カレンからなんかあれ、あいさつっていうかなんかあれー」
「あいさつっていうかなんかあれ~……?」
「……どれだよ」
「あれじゃん、感謝的な・気合入れる的な。本番前に裏でさー、映像特典とかで見るさー」
「あ~、そういうこと~。わかったわ~」
おほんと小さく咳払いし、舞台裏に所狭しと集まった1‐5の面々に向かって話しだす。
「え~、みなさん。無事にこの日を迎えることができてなによりです。ありがとうございます」
かわいくぺこり・にこり。ほんとにスタッフと演者一同に謝意を・敬意を表するかのよう。
「踊らないみなさん、お怪我のないよう気をつけてください。よろしくおねがいいたします」
悲しいくらい無名といっても正真正銘元アイドル、不参加男女は総出でガードマンで出動。舞台下最前に横一列に立ってもらい、不埒な輩(パンツ覗こうとする奴とか)を抑えてもらう。
「踊るみなさん、お稽古と同じようにやりましょう。ミスがあっても気にせず平常心、です」
「よっ、しおりん!」
「全員パチパチ系!」
メスゴリラと変質者がはやし立てる。クラスメイト全員温かく・惜しみなく拍手を送った。
「みんな~……! がんばりましょ~・張り切りましょ~、えいえいお~!」




