第8話「焼きそば焼きそば焼きそば焼きそば焼きそばー!」
それから毎日――って言っても火~木の三日間――放課後練習した。有志は普通に昼休みも。
1パート6人に対し総勢18人だから、Aメロ・Bメロ・サビだけで割り当てきってしまう。ということでイントロないし間奏を兼ねる奴もいる。黒川なんかはどっちもだ、3パートだ。
歌の1番・2番でフリが少し違ったりする。サビときたら大サビも含めて3パターンある。微妙な差だけど覚えるのひと苦労、本番が怖い……。一曲丸ごと踊る天森栞のすごさったら。
手取り足取り巡条さんに教えてもらって幸せでしょうがなかった――反面、正直嫉妬した。この学校とまでは言わない、せめてこのクラスに男子が僕だけならと呪わずにはいられず……。ちやほやされて巡条さんもまんざらでもなさそうで、あいつら文化祭終わりコクりそうで! 押しに弱いからもしかしたら付き合いそうで、こうなりゃ僕も押してみるっきゃないわけで!
そんなこんなで当日を迎えた。
「クマくんクマくん、どこから行く~?」
「隣の1‐4から順番に見てまわる? 2、3年も同じように横断しよう」
「アタシ焼きそば食べたーい。ほらー、下でやってんじゃーん」
「お外のお店屋さんはお昼にしましょ~。あれはおうどんかしらね~、おつゆがいい色ね~」
「『お』ぉ多! アハハハハ!」
「……だからなんだよ、ウケんなよ」
気心も真心も知れたふたりと文化祭巡りのはじまり。僕ら1‐5は昼からだ・体育館だ。
段ボールや折り紙でどこもかしこも飾りつけられ、学園中が活気に・笑顔に満ち満ちてる。文化祭・体育祭・音楽祭――およそ〝祭〟と付くものは嫌ってた。馬鹿者どもの馬鹿騒ぎだと。とくに女とよろしくやってる奴なんか、心のなかで両手でもって中指立ててた・親指下げてた。祭りというなら血祭りにあげてやりたい……! 今までそんなアンチフェスだった僕が――
「まぁ~! 力作だわ~・傑作だわ~」
「1年の割にって言ったらあれだけど、よくできてるね」
「はいはい、とっとと次行こー」
「ヒロインの子、とってもすごかったわね~。私、お芝居できないから憧れちゃうわ~」
「そうなの? あ、女優はやってないんだっけ。…………。ごめん、確かに想像つかない……」
「はいはい、すごかったすごかった。おなかすいたー」
「きゃ~~~~~~~~! いやぁ~~~~~~~~!」
「レ、レンちゃん……! 抱きつきすぎだって・怖がりすぎだって……!」
「はいはい、あー怖あー怖。焼きそば食べたー」
満喫・満悦……! 展示も劇もお化け屋敷もぜんぶ楽しい! なかでも屋敷がむっふっふ!
……ただ萌が忙しなかった・かわいくなかった。自慢の巨乳みたく食い意地も張りやがって!
校舎内散策はこれにて終了、中庭に出た。焼きそば・うどん・フランクフルトの店やってる。
「焼きそば焼きそば焼きそば焼きそば焼きそばー!」
短いスカートをパンツが見えそうなくらいひらひらさせ、連呼で・全速力で向かってった。
……焼きそばーか。
「ふふっ、萌々奈ったら子どもみた~い。クマくんはどれが食べたい~? 私はおうど~ん」
「僕もおうどんかな。…………」
釣られて『お』なんてつけて照れくさくて、巡条さんうふふふふ。……ウケないでください。
もう昼時でごたごたごった返してる。それなりに列できてて並んでて、普通に待たされた。
「おーい!」
こっちこっちって黒川が手を振って呼ぶ。校舎の壁の一角にいて、念願の焼きそば食ってた。
「……食わずに待っとけよ」
「はぁ? アンタら遅いんじゃん」
「遅くなっちゃってごめんなさ~い、食べましょ食べましょ~」
やっぱり巡条さんを真ん中に、壁にもたれて各々すすりだす。うん、おいしい・あったかい。つゆも油揚げもアツアツで、冬の野外で際立ってる。ナルトもネギも入っててなかなか本格的。
「あ~、おいしいわ~・あったまるわ~。お外でおうどん、いいわね~」
「ね。――聞いてるか、焼きそばーか」
「んだと佐ぁコラぁ! こっちだってうまいしぬっくいし!」
てかぜんぶ食べるしって豪語。ぺろりと平らげ次はフランクフルトーって行ってしまった。
「……このあと踊るってわかってんのかな」
「わかっているわよ~、だいじょうぶよ~」
それから向こうを、人・人・人を眺め、しみじみ言う。
「これが青春、だったのね~」
食べたり話したり走りまわったり――なんでもないけど楽しくて、今このときしかなくて。考えてみたら同年代が何百人も集まるって学生時代くらいのもので、当たり前のようで稀で。自分はそんな輝ける10代をふいにした。高校を半ば辞めたのは、仕事に専念、なんかじゃない。友達がいなかったから・できなかったから。大の親友の舞歌とは中学までで別れてしまった。勉強が苦手で学校が嫌い、なんかじゃない。ひとりぼっちがみじめで退屈・窮屈だったから。さすがに24にもなって孤独がつらいなんて言ってられなくて、1学期は寂しくても耐えてた。歳の離れたおばさんに友達なんかできないし、万一できても引かれる・離れる。なのに――
「クマくんと萌々奈は私と仲よくしてくれて……。不登校になったらおうちに来てくれて……」
こうして今日、文化祭を一緒に楽しめて……。ありがとう――は最後まで言いきれなかった。
「レンちゃん……」
話すうちに感極まったみたいで顔を覆って泣きはじめる……。こちらこそ……ありがとう。
湿っぽくなったところへフランクフルト3本も持った焼きそばーかが荒っぽく戻ってきた。
「ちょ、カレン泣いてんの!? ――佐ぁゴルァ……! テメーなに言った・どこ触った!?」
「どこも触るか! なにも言ってないし泣かしてない!」
今にも蹴ってきそうな萌に射すくめられることしばし、巡条さんがぽつりとつぶやいた。
「クマくんが……悪いのよ……泣かせたのよ……」
ええええええええ~~~~~~~~~~~~!?
「シネっ!」
いてぇえええええ~~~~~~~~~~~~! ……あれ?
蹴られ――てない。隣見たら顔上げてて、赤くなった目でいたずらっぽく笑ってた。
「食えっ!」
うめぇえええええ~~~~~~~~~~~~! って、突っ込むな!
「ふふっ、ふふふ、うふふふふ……!」
「アハハ、泣いてたっぽいのにバカウケじゃん。なにあったか知んないけどアンタも食えっ!」
「んんっ……!?」
笑って開いた口にぶっといのぶっこまれた。頬に浮き出るくらいズボズボ突かれる。
「んっ、んっ、んむっ……も、萌々――んんぅ!」
……! 普通にエロいからもっとや――めろ!
そして時刻は午後に・顔面は蒼白に。
「クマく~ん……? だいじょうぶ~?」




