第7話「愛過知はこんなお歌で~す・踊りで~す」
「愛すことが 過ちだなんて 知らなかった…… 私のせいで あなたは いばらの道をゆく。愛すことが 過ちだなんて 気づかなかった…… あなたのせいで 私は――自ら、逝く……」
左胸に短剣を突き立てるようなフリでうつむき・ひざまずき、曲も命もフェードアウトした。
悲しげな余韻を・詩的世界をぶち壊し――割れんばかりの歓声。
「しおり~~~~ん!」「ヒュ~~!」「最高~~!」「きれ~~~~い!」「かっこい~~~~!」
男子も女子も総立ち・総パチパチ。僕と萌なんかでっかい花束渡したいくらい感動……!
「カレンやば~~~~! やばやばやば~~、やば~~~~!」
……ボキャブラリーやばー。
放課後の教室にクラスの半数が残ってる。机はぜんぶ後ろに動かして、全員その前に横並び。広々とした中央で『お手本』見せてもらった。歌も踊りも仕草も表情もあっぱレンちゃん!
「み、みんなありがと~、嬉し恥ずかしいわ~……。愛過知はこんなお歌で~す・踊りで~す」
教卓に置いた音源を、自分のスマホを取る。ニューチューブでPV再生して曲かけてた。
愛過知は未∞知∞数の代表曲『愛すことが過ちだなんて知らなかった』の通称。文化祭はまずこの曲を参加者全員でやり、次に巡条さんのソロ(雨漏りしおりん)も決まった。私ばっかり目立って~って乗り気じゃないけど、間違いなく・まぎれもなく再デビューになる。ひいては遠い・まぶしい存在になる。僕はマネージャー・萌はボディーガードにでもなろう。
「クマく~ん・萌々奈~」
「あ、うん」「はいはーい」
呼ばれて前まで行く。いってみれば黒川は司会進行で、僕は黒板に色々書いてくの任された。
「そんじゃパート決めてこー。AメロとかBメロとか曲の部分で担当してく感じー?」
「ええ、それがいいと思うわ~。今は私ひとりだったけれど~、実際は連携が大事だからね~」
なにも進まなかった前赤とは雲泥の差、活発に・円滑に決まってく。
大まかにいうと参加は1軍・2軍+、不参加は3軍・2軍-。でも後者にも役目はある。裏方というか雑務やらすって萌が息巻いてた。本当はクラス全員踊らせたかったらしいけど。思うに僕も巡条さん――あとまあ……黒川――と親しくなかったら……今頃普通に帰ってる。転校してきた頃は友達なんか要らないって冷めてた・すねてた。ありがとう……ふたりとも。ふたりはどう思ってるかわからないけど、僕は友達だと思ってる。これからも……よろ――
「あーのー佐ぁ! アンタずーっと手ぇも声もあげないでどこやんの!?」
サビもやんないならもうあと間奏なんだけど佐ぁ! ……うるさい、書いてる・わかってる。
「……どこもやりたくないって言ったら?」
「シネ」
……死ぬか。僕はどちらかと言うまでもなく、目立ちたくないから気兼ねな~く辞退したい。
「レンちゃん……」
助けてください・船ください……あっぷあっぷ。
「そんな顔しないの~、やりましょ~。普段のお勉強と違って~、踊りは私が教えてあげる~」
ごぼぼぼぼ……溺れて水中深く死んだ・沈んだ。
男子は演劇部から長髪のかつらを借りてきてかぶり、ぱっと見女の子に見えるようにする。衣装は単に制服で、これも借りる(不参加女子から。かわいそうに同意もなしに萌が決めた)。つまり踊りの恥ずかしさ+女装の恥ずかしさ……。誰が見たい・さらしたい、男の生脚……。
まあでもこういうのが文化祭――か。
「わ、わかった。どうせなら……サビやりたい」
ここのフリは手と手を取り合い見つめ合い、正面には見えないよう顔を背けてキスをする。本当に唇当てるわけなくて見せかけだけど、それでも間近でそんな……ねぇ? ふふふ……。
一番いいとこだけあって、競争率高かった。最初はグー、ジャンケンポン×3。
「わぁい!」「当然っしょ!」「しゃー!」「ウェーイ!」「やばー!」「ふふふ……」
赤崎・青山・前田・後藤・黒川・雪佐に決まった。……僕だけぷっかー浮いてない?
未∞知∞数の定員は7名で、フォーメーションはボウリングのピンみたいにピラミッド状。メンバーは何十人っていて歌で・踊りで競い合い、勝ち残って初めて表舞台に出れるんだとか。巡条さんもとい天森栞は不動の首位、フロントワン(最前面の単独者)を全曲務めたという。だから背後に6人の素人を従え、全編舞っていただくしひとりだけ本当に歌唱していただく。
勝ち残った赤青前後黒雪でさらにジャンケン。ミドルツーとバックフォーを決めた。
「やっばー!」「ふっふっふ……」
萌と僕が中間のふたりで奴らが後ろの4人に。よし、これでレンちゃんとチューできる!
「えー、佐ぁとフリでもチューとかヤなんだけどー」
そうか、おまえとも手を取って……目を見て……こっちだってやだよ。
「しおりんしおりぃん、今さらだけどこれってなんの歌ぁ?」
赤崎が自分のスマホ見せて聞く。画面は歌詞で読んでて気になったって様子。
「お姫さまの悲しい恋の歌よ~。ちょうどそういうアニメがあって~、タイアップ曲なの~」
ヴィキ見てみたけどぜんぜん知らないオリジナルアニメだった。でも普通にいい歌だよね。詩も曲もロマンチック・ドラマチック。抒情的で悲劇的で衝撃的で、心をわしづかみにされる。
「こんないい感じのヤツやったあとに、ぽとぽとぴちゃぴちゃ雨漏り~んってお笑いっしょ」
そんなことないわ!
「そ、そうよねそうよね~! 赤崎さ~ん、私のソロは――」
「ダメぇ・やってぇ。暗ぁい感じのあとにおもしろぉい感じで大盛りあがりだってぇ」
おもしろぉい言うな!
◎




