第5話「私、決めたわ――高校デビューする」
チャイムが鳴った・ホームルームがはじまった。僕らは教室にいなくて寒空の枯れ木のもと。校舎裏の例の申し訳程度の緑だけどもう茂みのみ。木々は丸裸でこうなっては上から丸見え。
巡条さんはしゃがんで膝を抱きかかえて泣いていた。
「…………」「…………」
僕も萌もなんて声をかけたものかわからない。近づくことすらためらわれて離れて見守る。
後藤だけじゃないと思う。口々に・次々にしおりんって言われてほとほと嫌気が差したんだ。知られたくない・触れられたくない過去だったんだ。文化祭で再デビュー? とんでもない。
「……アタシ戻ってアイツ殴ってくるわ」
自分のことのようにムカムカしてるらしい、小声で言って立ち去ろうとする。
「待て、そんなこと望むと思うか?」
怒らないでって耳打ち忘れたか?
「……チッ」
思いなおして留まった。僕のかかと蹴ってくる。
「……なんだよ」
「なぐさめろよ」
茂みの陰の・落ち葉の上の巡条さんを顎をしゃくって示す。それから耳元でその方法を話す。
「アタシよりかはアンタに『望むと思う』けどー?」
「……ふざけて言ってるんじゃないよな?」
とっととやれって押された・脅された。…………。
できる気しないけどこのままじゃラチが明かない――そーっと近づいてみる・呼んでみる。
「レンちゃーん……?」
「ぅ……ぅぅ……」
まださめざめと泣いてて僕どころじゃない。今はほっといてほしいに決まってる。撤退撤退。
黒川に首根っこつかまれた、つれてかれた……。
「痛いな・引っぱんな……!」
「うっさい、逃げんな……!」
声をひそめて、それでいて荒げてお互い言い合う。巡条さんは間近。
「カレーン……?」
ここまで来たからこいつもひと声かける。まあ返事はない。
「佐」
「…………」
わかったよ。嫌がられたら普通におまえのせいだからな。
巡条さんのすぐ背後に僕もしゃがみ――包み込むようにおそるおそるぎゅっと抱きしめた。
「っ……!? ぇ……ぁ……」
一瞬びくっとして石みたいに固まる。日なたみたいにぽかぽかしててほっそりしてて華奢。
「なんて言ったらいいか……わからないから……」
「クマくん……。あり――がと~……」
体が小刻みに震えだす。やがて前にまわした僕の手に、温かいしずくがしたたった……。
1時間目開始のチャイムが鳴りだす。それがちょうど止んだとき、巡条さんも泣きやんだ。
「ごめんなさ~い……私のせいでホームルームも授業も~……」
「いいよ。このままゆっくり・じっくりサボろう」
「うふふ、も~ぅ、クマくんったら~」
どういうあれかさっぱりだけど体をもぞもぞ。……普通にかわいい、もっとぎゅってしたい。
ウキウキ・ドキドキしてたら後ろでカシャッ。振り返ったら萌がスマホこっち向けてた!
「おまえ撮ったな!?」
「いやー、いつまでくっついてんのかなーって思ってさー。アンタらバッタになったわけー?」
だ、誰がオンブバッタだ! 僕も巡条さんもぽっと照れた・ぱっと離れた。
「いいもん見たわー・撮ったわー。ほらほら、ドラマのワンシーンじゃーん」
したり顔でにたにた見せびらかしてくる。おまけにトドメにひとりふた役で大根再現した!
「『なんて言ったらいいか……わからないから……』」
「『クマくん……。あり――がと~……』」
「やめろよ・消せよ!」「やめて~・消して~!」
まあでもなんだかんだ巡条さんに笑顔が戻った。
「萌々奈もありがと~。いい大人なのに逃げちゃって~・泣いちゃって~……恥ずかしいわ~」
急にはっとして頬に・目元に手を当てる。化粧落ちを気にしたようだけど、変化・問題ない。
「あんなこと言われたら歳とかカンケーないって。ホントもう平気ー・元気ー?」
「ええ、だいじょうぶ。私、決めたわ――高校デビューする」
芸能界では有名になれなかったけど、前職を活かして今度こそ――この高校で売れたい。傷跡のようにひた隠しにしてきたのは違った。老いも負い目も感じて孤独でいたのも違った。こんなに素敵な・親身なお友だちが24歳でもできた。なのに下を・後ろを向いてはいられない。
ふたりがかばってくれるって思ったら~、覇気が・勇気が出てきたもの~――そう締めた。
「カレン……」
これで案外涙もろいタチなのか、感極まった観で抱きしめる。キレやすいなら逆も然りか。
「オッパイでか……やらか……」
涙声でうらやましい感想を漏らす。巡条さんも萌っぱいを大だと・柔だとほほ笑んで称えた。
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