第2話「レ、レンちゃん……元気?」
「ん~……?」
気持ちよく――はないわね~……気落ちして――寝てたのに~、起こされちゃった~……。
あ~ん……ルインだわ~・萌々奈だわ~。
今から行くから
佐も
首じゃなくて
顔洗って待ってろ
「……ふふっ」
ちょっとおもしろ~い。きっと顔も洗わずに~、ず~っと寝てるってお見通しなのね~……。
嬉しいけれど心苦しいんだけれど~――
ごめんなさい
来ないで
ベッドにぼふんっ、おふとんがばっ。お友だちのふたりに合わせる顔が一番ないの~……。
アイドルやモデル、グラドルだったことに悔いはないわ~。好きで本気でやりきったもの~。でもその~、昔は昔・今は今というか~……天森栞は天森栞であって私じゃなくって~……。
彼女のことは心の奥に閉まったの~。それをつかんで取り出されるのはたまらないわ~……。
「…………」
立て続けにまたスマホがピンポンピンポーン。ごめんなさ~い、もう見な~い・返さな~い。
うだつもお給料もあがらない芸能活動をあきらめて~、覚悟の・再出発の高校生だったの~。16歳の1学期末から行かなくなっちゃって~、休学ということにして籍だけは残していて~。当時は忙しくって浮かれていて~、お勉強も苦手だから学校なんて嫌~・いいや~って~……。生意気な・浅はかなあの頃の私に教えたいわ~、結局お母さんが厳しくも正しかったの~!
「…………」
おふとんに潜って30分くらい経ったかしら~、萌々奈のことだからそろそろ来そう~……。クマく~ん、止めて~・なだめて~……。どうか一緒に来ないで~・ふたりで遊んで~……。
そんなことを思っちゃった直後~――おうちのピンポン7連打~・ドアがちゃがちゃ~!
「カレーン! ねー、カレーン! カ~~レ~~ン~~!」
◎
「やめろよ、うるさいな・乱暴だな! 巡条さんにもお隣さんにも迷惑だろ!」
「近所メーワクだけどカレンにはこのくらいさぁ! ――おーい! 開けろ・入れろコラー!」
ドアをばんばんグーの横で叩く叩く……おまえは借金取りかコラ。
「アンタ今日バイトじゃーん!? ちゃんと行ってるー!? ごはんもちゃんと食べてんのー!?」
……今度はオカンか? まあ普通に心配ではある――って、両手で交互に連打しだすな!
やかましい・厚かましいオカン黒川に観念したのか、意外に大きい声が返ってきた。
「食べてるわ~・行ってるわ~! そんなに叩かないで~!」
どたどた足音がしてドアの前まで来たのがわかる。そして開け――ない。
「ねー開けてってー。――てか佐、黙ってないで呼びかけろよ」
「おまえがうるさいからだよ。――レ、レンちゃん……元気?」
「なわけないじゃん!」
バシっ! 確かにそうだないってーな……!
天然ボケかまして強烈ッコミかまされたものの、ヨシヨシしに出てきたりはしてくれない。
「も~ぅ、クマくんも叩かないで~」
ドア越しに注意はしてくれた。このまま会話はしてくれそう。
「えっと……芸能人――だったんだね」
「……一応、ね~。あの~……見た~……?」
なにをかは言われなくてもわかりきってる。仮に〝私のあれこれ〟とでも補完しておこう。
「ごめん……ヴィキペディアはざっと見た。けどそれ以外は一切見てないよ・調べてないよ」
「悪く思わないで、アタシは色々見たー。ポップトゥーンモデルだったとかソンケーするわー」
若いアンタ、かわいすぎてムカついたわー。……今も若いだろ・かわいいだろ、ムカつくな。
「そ、そう~。クマくんも色々見ていいのよ~? そういうお仕事だったんだもの~……」
そうは言うけど尻下がり、見てほしくないんだ。尻といえば『しおりのおしり』観たいんだ。
たぶんだけど同性はまだしも大丈夫で、異性にグラビア見られるのが一番嫌なんだと思う。
『そういうお仕事』だったとしても、引退した今になって身近な男に見られたら覗きに等しい。クラスの男子に体がさらされてる――おそらくそれが最たる恐怖で登校できなくなったんだ。
その辺を踏まえて・わきまえて萌がさっぱり言う。
「男子の目とか気にすることないって。大体オトコって毎日ヌいてんの、色んなオンナでさ。まー佐はゼッタイ、カレンばっかで――」
「あ~~! あ~~!」
マイクないけどマイクテストマイクテスト!
「うるさいなー、巡条さんにもお隣さんにもメーワクだろー?」
ぜんぜん似てない僕の真似でさっきのそのままほざく。こぉ、のぉ、萌ぉ……!
けらけら笑って小馬鹿にしてまじめな顔に戻った。ドアに優しげに向きなおる・語りかける。
「ガッコ来なって。まーとりあえず洗った顔見せてよー」




