第9話「……拓真のた抜きでクマくん・花恋のか抜きでレンちゃんなんだよ」
「クマく~ん、おはよ~」
「おはよう。……レ、レンちゃん」
「アンタらなにあった・頭打った……?」
翌週月曜、登校してあいさつを交わすなり隣の黒川が耳ざとい。う、うるさいな・失礼な。
「……拓真のた抜きでクマくん・花恋のか抜きでレンちゃんなんだよ」
た、拓真くんじゃなくって~、ん~……クマく~ん! クマくん……? ま、まあ……うん。私もあだ名で呼んで~。え、じゃあ……レンさん? あだ名なのに硬いわよ~、ちゃん、ね~。
……そういう次第だ。
「意味とか聞いてないしなんとなくわかったし……頭打った?」
「打ってないわよ~。萌々奈もこんな感じで~、モナちゃ――」
「ぶつぞコラ」
ぶつなコラ……。なんでちゃん付けキレるんだ・NGなんだ……。
当然まだ慣れないし恥ずかしいったらありゃしない。レンはともかくちゃんが抵抗ある……。かたや巡条さんはしっくりきてるらしい。クマくんのほうが普通に恥ずかしいと思います……。
ちなみにあのあとは同じフロアの本屋へ。早速ちょこちょこあだ名で呼びながら店内を散策。巡条さんは料理と旅行の本に目がなくて、ただただ見てまわっただけだけど最高に楽しかった。
萌、おまえがいなかったからなぁ!
そんなことより――
「衣替えしたんだね」
「ええ、肌寒くなってきたもの~」
10月も半分過ぎてさすがに残暑もどっか逃げてった。教室を見渡しても白から黒だ・紺だ。冬セーラー巡条さん、よく似合ってる。座ってて見えないけどロングスカートとまあ相まって。思ったとおりシックで一段とお姉さん感あって、腕が見えてた半袖(夏服)よりむしろいい。
「アタシもしたんだけどー」
「……見たらわかるけど?」
なんの興味も感動もない。おまえは夏の白のほうが褐色の肌が映えるな。バじゃないからな。
よし、僕も明日にも学ラン着よう。
「そういうとこオンナって見てんだけどなー」
「は? ……は?」
「態度よ態度、たーいーど。アタシに冷たいの、『レンちゃん』ガッカリしてると思うけどー?」
…………。だからって――おまえなんかに優しくできるか。
◎
中間テストの一部が、化学・数Ⅰ・現国が早くも返ってきた。先週水曜、初日の三教科。
巡条さんの運命や・点数やいかに――
「クマく~ん、見て~、32て~ん!」
「見て見て~、38て~ん!」
「クマてんクマて~ん……! 45く~ん……!」
毎休み時間嬉しい悲鳴! 4時間目(現国)終わりは興奮しすぎてくんと点が逆て~ん!
そのまま迎えた歓喜の昼休み。黒川のふたつ後ろの席の巡条さんが机ごと移動してくる。
「萌々奈も一緒に食べましょ~」
「んー」
ぶっきらぼうに正面から僕と机合わせる。その横手に巡条さんがドッキング。
「……なんでおまえと対面なんだよ」
「うっざー・うっ佐ー。――花、チェンジ」
ふたりが席だけ入れ替わった。向かいが愛おしいレンちゃんに・はす向かいが厭わしい萌に。
「ぬくっ。ウンコでもしたー?」
「するわけないじゃな~い! 萌々奈だってぬくぬくだわ~」
人が座ってたとこってあったかいよね……。ウンコ言うな、聖女に・飯時に。
直後、悪意が聞こえてきた。
「あんなに嫌ってたおばさん・転校生と食べるんだぁ」
「落ちるとこまで落ちて寂しいんっしょ。そのうち転校生と付き合うまである」
赤崎・青山が貶して笑ってる。黄島・緑原も同調してイジってる。
僕からは見えてて右手の黒川の向こうに例によって四人。赤崎はたまに彼氏と消えるけど。
その彼氏、前田も今日は教室にいる。たぶん週4で学食通い・週1でコンビニおにぎり。
「見ろよ、モモナ急に仲よし系?」
「知るか。つーかセッタエラそーだろ、オレの元カノだろ」
僕からは見えなくて背後で後藤ほか数人としゃべってる。……元カノだからなんなんだよ? まさか未練あるのか・復縁したいのか? めんどくさいしマ×――もくさいとか罵っといて?
最低ク×ニーマン!
「…………」
当の黒川は黙々とぱくぱく食べてる。あいつら声でかいし普通に聞こえてるはずだけど……。
「も、萌々奈はテストどうだったの~?」
巡条さんの耳にも届いてるらしい、まぎらわすように話振ったのがわかる。
「べっつにー。どうでもいいじゃーん」
「言えないくらい悪いってことか」
「あん?」
「あ~ん……」
違うんですよ、僕はこう、イラだちをこっちにこう……。いえ、ナチュラル憎まれ口でした。
「そんな見たいなら見ろよ・ほらよ!」
机のなかからくしゃくしゃの答案叩きつけるように出す。なんだなんだ、実は高いのか?
「萌――おまえ……」
化学8点・数Ⅰ6点・現国7点! どこが巡条さんより頭いいんだ!? バーカバーカ!
「言っとくけどアタシ、テストしてないから」
いわゆる〝次のなかから選べ〟だけ解答してる――っていっても考えもせず適当――とか。自分で文章だ数式だ書かないといけない問題は総スルー、ゆえに『テストしてない』んだと。
「アタシがテストしたらマジで花ぁより高いから」
「……言ってろよ」
そんなんじゃ8年経ってもJKで、おまえがおばさん呼ばわりされる日が普通に来るな。
「私が言うのはなんだけれど~……留年、だいじょうぶ~?」
「あー、するかもー。次の期末もこんなだったらまーカクテー」
1学期はまだテストしたとかで今回よりはマシ、疑わしいけど赤点なんかなかったという。
ならなぜ今回テストしなかったのか? ……むしゃくしゃしててやってられなかったそうな。
「アタシもこのままおばさんなるわー。考えてみたら永遠JKって楽そー・楽しそー」
こいつ本気でのんきにほざいてる……関係ないけど意外と弁当かわいいな。
「ダ、ダメよ~! 今すぐクマくん塾、入りましょ~」
あっ、これクマくん塾でやったわ~ってなるんだから~。……僕は真剣ゼミかなにかですか。
今日返ってきた三教科の結果は化学58点・数Ⅰ64点・現国70点。塾にもゼミにもほど遠い。
「僕は大したことないんだって……」
黒川入塾お断りなんだって……。
「謙遜しないの~。倍になった私の点のさらに倍じゃな~い」
「いやいや巡――レン、ちゃんの倍もないよ」
「倍になった花の倍? わっかんなー。アタシ見せたから佐、見ーせーろ」
「……ほらよ・見ろよ」
こいつと違ってくしゃくしゃにはしてないけど、こいつに倣って叩きつけるように出す。
「はぁ!? キっモ……現国70ってアタシの十倍じゃん……引くわー」
「賢いな、十倍がわかるのか」
バシっ・ヨシヨシ!
◎




