第7話「それじゃあこの玉子・海苔入りチャーシュー麺とんこつでー。あ、トッピングぜんぶねー」
はぁ……黙れよ・帰れよ……。お疲れさま会なのにこいつのせいでおあいにくさま会……。一週間ずっと無視してた割によくしゃべる。……逆か。『割に』じゃなくて『からこそ』なのか。ひとりが楽な・平気な奴なわけない。ぼっちが寂しかった・恥ずかしかったのは間違いない。同じ女子はまだしも2、3軍男子にも友好を求めたくらいだ。コミュ力たるや・行動力たるや。残念ながら連中に元女王を受け入れる姿勢も術もなく、ふてくされていよいよソロ川本格化。見かねた聖女が、サンカレンさまが御手を差し伸べ、頑なに避けてた・嫌ってたそれを取った。
……巡条さんがいい人すぎて悪い。声かけ続けられてこいつの心開いた・動いたんですよ。
「らっしゃーせぇ! 3名様でぇ!?」
「で~す」
暑苦しいラーメン屋さん・愛くるしい巡条さん。混んでるけどテーブルあいてた・通された。黒川は向かいに・巡条さんは隣に座る。しょうゆ・とんこつくさい店内でも香るこのスメル。
「あ~、いいにおいね~」
「う、うん」
……ラーメンよりもカーレン、あなたのほうが。
駅降りてぶらっと歩いてふらっと入った個人店で、昼時だけあってスーツの人でいっぱい。見たところ30代・40代のサラリーマンばっかりだけど、OLの若いお姉さんもちらほらいる。巡条さんも普通にっていうと語弊あるかな……普通に考えたら今頃あんな格好・職業なんだ。
24歳高校1年生――いまだ謎に、あるいは闇に包まれている。
「さあ雪佐くん・萌々奈~、どれにする~?」
「どれ頼んでもいいのー? トッピングもー?」
「いいわよ~。お金のことは気にしないで~」
「……ちょっとは気にしろよ」
巡条さんがゆるすぎるから一応言っとく。ただまあまったく聞く耳持たなかった。
「それじゃあこの玉子・海苔入りチャーシュー麺とんこつでー。あ、トッピングぜんぶねー」
「……萌。増長するな」
ぜんぶなんて聞いたことない・シャレにならない……たかが50円でも腹も額も膨れあがる。
「はぁ? ゾーチョースルナってなに語ー、わかんなーい」
「日本語だよ、わかんないか。ヤバい・キモい・ウケる・勝たんくらいしか知らないか」
すると烈火の・疾風のごとく、前のめりになって頭叩いてきた! いって~~~~~~!
「調子乗んのも大概にしろよ佐ぁゴルァ! ~しか勝たんとかとっくに激サム死語ルァ!」
「萌~~々~~奈~~!」
恐竜に比べたら迫力ないけど精一杯の大声で戒める。ふたりが叫ぶから周囲が振り返った。
黒川サウルスは腕組んでそっぽ向く。巡条さんは僕の頭を優し~くなでながら(!)嘆く。
「おねがいだからケンカしないで~……叩かないで~」
「だったらケンカ売んないでくれるー? なに照れてんのー、ヤっバ・キっモ、マジウケるー」
「て、照れてるか。今ヤバい・キモい・ウケるって見事に言ったの自覚あるか? 例文かよ」
また頭バシっ、すかさずヨシヨシ! だけどまた売り言葉に買い言葉、バシっ・ヨシヨシ!
「……早くラーメン頼もう」
なんか新しいトリオ漫才もうやめよう……ボケ・ツッコミ・ヨシヨシ、男子・獅子・天使。
「僕はこのスタンダードなしょうゆで」
「遠慮しないの~。萌々奈と同じ玉子も海苔も入ったチャーシュー麺にしましょ~」
巡条さんもそれのみそにしたからお言葉に甘えた。トッピングは十分、お互い別に要らない。黒川のぜんぶ乗せも冗談で、+50円×オールせず。騒いだのが馬鹿みたいだな、悪かったな。
お冷やをあおってできあがるのを待つ。この萌が来なければデートだった・対面だった……!
「改めまして雪佐くん、本当にありがと~」
僕のほう向いてわざわざ一礼。向かいの黒川は鼻で笑ってニヤニヤ無礼。
「全教科手ごたえあるの~。ああ、手ごたえっていっても~――」
ギリギリ30点以上の自信のことだと付け加える。いやいや、相当ですよ・1学期の倍ですよ。
「それであの~、出来も要領も悪い生徒だけれど~……これからも教えてくれないかしら~?」
「もちろん。次は期末に向けてがんばろう。12月初めくらいだと思うけどあっという間だよ」
「雪佐く~ん……!」
垂れ目をうるうる泣きそうな満面の笑み。体を左右に揺らしてニコニコして萌のほう向く。
「うふふ、萌々奈も雪佐くん塾入りましょ~」
それは訳が・話が違います……。塾だとしても個別指導です。でも身構えることなかった。
「なーんで嫌いなアンタらと嫌いな勉強しないといけないわけー? 二重でヤなんだけどー」
「……こっちだって嫌だよ・ご免だよ。大体おまえ成績どれくらいだよ。どうせ悪いんだろ」
「うっさい、決めつけんな。花ぁよりぜんぜん頭いいからー」
どうだか。赤点だらけで留年マジヤバーとか泣きついてくんなよ。ひとり泣きわめいとけ。
まもなくラーメンきた。それぞれしょうゆ(僕)・みそ(巡条さん)・とんこつ(黒川)だ。チャーシュー麺だからチャーシュー3つも入ってて、定番のメンマ・ナルトも当然入ってる。スープはこってり・麺はもっちり普通においしい。ん、玉子うまっ。箸もレンゲも止まらない。
「ねえふたりとも~、この海苔ってどのタイミングで食べたらいいかわからないわよね~」
どんな話題――じゃない、まともな話題! 僕はたった今、気づいたら食べてたよ。
ごちそうさまでした。
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