第5話「雪佐とかいったっけ、だったらアンタ佐ねー」
きたる連日(10月12日~14日)の過酷なテストに向け、僕たちは日々勉強会に明け暮れた。初めて家に行った翌木曜も翌々金曜も家庭訪問。続く土日は朝から訪ねて昼もごちそうに! 毎日晩ごはん作ってくれるの嬉しすぎた・おいしすぎた。これもう僕たち付き合ってません? でもやっぱり至って健全でいい感じにならない。巡条さんは真心・僕は下心ということか……。
それからこのテスト直前の一週間、来る日も来る日も巡条さんはソロ川に話しかけだした。
『黒川さ~ん、よかったら一緒にお勉強しな~い?』
『黒川さ~ん、よかったらお昼一緒に食べな~い?』
『く、黒川さ~ん、飛行機の〝飛〟ってほかの漢字にぜんぜんなってないわよね~』
どんな話題ですか・ひきだしですか……。たとえば〝田〟ならいくらでもなってますよね。〝男〟〝雷〟〝畑〟〝町〟〝福〟〝畿〟とか。いわずもがなソロ川、もとい黒川の〝黒〟も。その点〝飛〟は画数多いにしても、さんずいとかくさかんむりとかなんか似合いそうですね。
……僕の感想はどうでもよくて。ソロ川はことごとく無視だった。
あんな奴なのにどうも巡条さんはほっとけないらしい。正直言ってよせばいいのにと思う。僕は一緒にお昼もお勉強もしたくない。巡条さんくらい心が優しくないから・美しくないから。なによりふたりぼっちがいい。あいつが来たら今のこの疑似カップル感・姉弟感が壊される。
まあ来るわけないか。
そうして迎えたテスト最終日――
「雪佐く~ん、お疲れさま~」
「うん……お疲れ」
三日にわたる試験、いいや、試練も晴れて終わった。教室中がざわざわ・清々してる。
チャイムが鳴るなり巡条さんが左手に来てくれた。かたや右手、右隣の席はソロ川だ。
「出来はどう?」
「おかげさまでばっちりよ~。赤点はきっと回避できたと思うわ~」
僕の机に指だけ置いてさっとしゃがむ。……回避を表現してるの?
ひょこっとかわいく顔だけ出して普通に言った。
「黒川さんもお疲れさま~。どうだった~?」
「…………」
相も変わらず口を・心を開かない。スマホも爪もイジってる。
「現役のふたりはそんなことないのかしら~、テスト中って息が詰まっちゃうわ~」
「はは……」「…………」
僕は苦笑い・ソロ川は笑わない。別に24歳でも正真正銘、現役高校生だよ。
「私たちこれから打ち上げ――じゃなくって~、お疲れさま会するの~。黒川さんもどう~?」
え~、誘うんですか~……。けどどうせ行くわけ――
「行くー」
「……は?」
「行くっつってんの」
返事も見向きもした。黒い・エロい脚を偉そうに組んで体までこっち向ける。……見えそう。
「あら~!」
ばっと立って両手を合わせた・顔を輝かせた。一方僕は曇る・憤る。
「……どういう魂胆だよ・根性だよ」
「べっつにー。ヒマだから行ってあげてもいいってだけー」
ひじも頬もついて腹立つなこいつ。態度も立場もなってない。
「どの面・どの口でどっから物言ってんだよ。行ってあげてもいいってだけなら来なくていい」
「も~ぅ、雪佐く~ん! ふたりよりも三人のほうがいいじゃな~い」
よくないですよ、黒川ですよ……? またグーで殴られる、またはパーではたかれる……。
「で、お疲れさま会ってー?」
「このままお昼を食べに行って~、映画を観てお買い物ってところかしら~」
そう――普通にデート! だけど巡条さんはそんな認識ないと思う(単にお礼だと思う)。
「デートかー。あ、金はおばさん持ちー? フっ、じゃあ転校生のママ活じゃーん! アハハ!」
腹をかかえて・脚をばたつかせて笑いだす! おばさん言うな、誰が・なにがママ活だ!
巡条さんはそういうママにはならないと赤面で否定。僕はせめてこいつの呼びかたを正す。
「ついてくるんだったらおばさん・転校生ってもう呼ぶな。お姉さんだよ・2か月経つんだよ」
「まー転校生って呼ぶの長いしー? 雪佐とかいったっけ、だったらアンタ佐ねー」
たった一字かよ・一音かよ……ダニ・ノミ未満かよ。
「おばさん下の名前カレンだっけ・花と恋だっけー? あのクソアマナが言ってたっけなー」
だったらアンタ花ぁ!? 発音上はまるで蚊ぁ!
「……ならおまえ萌な」
発音上は藻な。わかるか、水中に生えてる草な。来世あれな。
「好きに呼べばー。――花はアタシのことなんて呼ぶー?」
「好きに呼んでいいの~? ん~、うふふ、萌々奈ちゃ~ん」
「あん? ちゃん付けとかナメんな・ざけんな、ぶっ飛ばすぞコラ」
ぶっ飛ばすなコラ……。なんでそこまでキレるんだ・気に障るんだ……。
「あ~ん、ごめんなさ~い……萌々奈――さ~ん?」
「ちゃんもさんもキモいんだけどー・要らないんだけどー」
「そう~? ふふっ、わかったわ~。よろしくね~、萌々奈~」
黒川萌々奈が仲間になった……? 僕も呼び捨てで・下の名前で呼ばれたくなった……!
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