第11話「僕、負けたけまくぼ……」(前話と地続きです)
しゃがんで膝を抱きかかえて壁に向かって泣き言を漏らす。
「え……? な、なに言ってるの?」
「お嫁にも行けないわ……」
声も体も震わせて冗談に聞こえない。どういうことだ……まさか今のはなにかいじめか?
「それってあいつらのせい? わかった、ガツンと言いに――」
「ち、違うの! っ……戻り――ましょ~」
目元をひと拭いしたら努めていつもの感じに。表情は暗く、まったく吹っ切れてない。
なぜか僕までおそるおそるレーンに戻ると、奴らはどうやら観終えて口々に物申してた。
「あー、おなか痛ー……。こーんな再生数5000ちょっとのヤツ、カラオケにいるー?」
「この一曲で天森栞ん終わってるねぇ。6年も前かぁ」
「ショートカットですげーかわいかったけどなー。しっかし歌も衣装も振りつけもダセぇ!」
「お、カレンちゃん。急に走ってトイレ系? ミナまだ出ない系?」
「さ、さあ……会ってなくって~。――みんな今私を見たけれど……気づかれていないわ!」
二言目は誰に言うでもなく生き返ったよう。あいにく小声で・雑音で聞き取れなかった。
「雪佐くん雪佐くん、まだ学校にもお嫁にも行けるわ~!」
「よ、よかったね?」
明るく元気でなにより・元どおり。よくわからないけど残り5回のボウリング再開しよう。
コォン、コォン、コォン、コォン、カコォン、カコォン! 巡条さん覚醒! 結果は――
「僕、負けたけまくぼ……」
「……けまくぼってなんなの~・下から読んでもなの~?」
かれん117・たくま103で大敗! 1ゲーム目と比べて僕は微増・巡条さんは激増! 最初のスペアだけじゃなかった。なんとラスト2連続ストライク! 僕もスペアなら2回……。
合計は巡条さんが211に対し201。2ゲーム目のみならず通算でもばっちり敗れた。
聞きたかったな……連絡先……。
「じゃあなんでもひとつお願いを――どうぞ」
「え、ええ。あの~……」
ストレートの毛先を指先でくるくる言いよどむ。よく見る仕草も髪型が変われば印象も異。
「わ、私と~…………を~……交換してほしいの~」
「股間?」
「こ、う、か、ん~!」
……前もあった・やった、この聞き間違い。わざとじゃないです・ふざけてじゃないです。
「交換ってなにを? 肝心なとこミュートだったんだけど……」
「そ、その~……連…………を~。連絡先……を~」
「え……!?」
「あ~ん、嫌だった~・ダメだった~……?」
眉も目尻もテンションも途端に下がる。嫌なわけない・ダメなわけない!
「ち、違うよ、僕が勝ったら言おうと思ってて……ビックリして」
「ん~? 雪佐くんも私と連絡先を交換したかったの~?」
「は……はい……。巡条さんはなんで交換したいんですか?」
照れくさくて敬語になったのをやめてよ~と笑われつつ、交換したいのは質問したいから。家に帰ってひとりで勉強しててもわからないとこだらけ。雪佐くん先生に頼りたいんだとか。
というわけでルイン交換した。早速ポッとメッセージが。
『毎日たくさん送っちゃうかもしれないけれど~……どうかよろしくね~』
『うん、よろしく』
淡泊に返したけど実際口にすれば、「う、うん……よろ――しく……」くらい感動でビクビク。
巡条さんは文面から受けた感じのまま、「どうかよろしくね~」と声に出してほほ笑んだ。
「シュウもマナもトイレ長くなーい? アイツらの番だけど無視ってアタシらで投げるー?」
やかましい・疎ましい隣人もスコアを見れば10回目。僕らに続いてそろそろお開きと見える。9回時点でしゅーも122・けまみ109。チラっと見た限り赤崎以外は相当上手かった。
「すご~い、赤いマークがいっぱ~い。私たちはお先に帰るわね~、お疲――バ、バイバ~イ」
青山・後藤は手を挙げて快く応じる。黒川、それに僕はこれといって愛想もあいさつもない。
フロントでスコアの紙を受け取ると、巡条さんはトイレへ。
「雪佐くんも行っておいたら~?」
前田がいるみたいだから行きたくないけど――前田がいるから行けないとは思われたくない。瞬時に・自然にうなずいてしまった……。行ったことにして待っててもいい。でも――行くか。
「…………」
スパイが・怪盗が潜入でもするかのごとく、壁に背をつけて陰からなかを窺う。
いない、小じゃない。大の不良が大ってか? はい、おもんないです・なんでもないです。
まあいい、むしろ好都合。普通に小便しだしたところ――すぐ後ろでかすかに女が喘いだ。
「んっ……やぁん……」
下半身は・放尿はそのままにばっと振り向く。こ、この声って……赤崎……?




