第8話「ガーターを防ぐ――柵~? 上げてもらう~?」
……冷静じゃなかった・賢明じゃなかった。にらんでた黒川・前田に仕返しされそうで怖い。4人もグルは飛躍が・不信がすぎた。でも赤青は黒が盗ったってことくらい知ってるはずだ。決めつけてるけどあいつが盗った確たる証拠はない。ないとしてもほかに誰も考えられない。『落ちてたの見つけて戻しといた』らしいけど本当かわからない。戻してないかもしれない。仮に戻してても明日もあさっても盗るかもしれない。だから千円も渡したのはいただけない。巡条さんは穏便に済ませたかったそうだけど、これに味しめてつけあがったら手に負えない。衝突を避けようと無駄金払ったのに、僕がぶつかりに行って申し訳ない。でもわかってない。
「あれ~、7かしら~・8かしら~?」
……しっくりくるポンドもわかってない。
ボウリング場に来た。ゲームの・シューズの料金は出してもらってる。普通に面目ない……。
「雪佐くんはボール決まった~?」
「あ、うん。……9」
たぶん男子高校生にしては軽いほうだと思う。
「あら~、オレンジ色で綺麗ね~。試しに私も~」
僕と同じオレンジの9ポンド取った・持った。
「ん~、重いわ~。これに比べると7がとっても軽いから~、あいだを取って8かしら~」
黄色い8ポンドに決定。ボウリングの球って重くなるほど色が汚――濃くなるよね、濃く。
「私、中学1年生まで五本指の子ども用のだったの~」
あっちの薄青の5とか6指して言う。
「ははっ、もう指入んないやつだね」
「そうそう~、2年生・3年生にもなるといよいよ入らなくなって~……卒業させられたわ~」
高校は24歳にもなってまだ卒業できていないけれどね~――なんて明るく(?)自虐した。
「……ははっ」
笑っていいんでしょうか……。
「私が8ポンドまで成長したように~、雪佐くんも大人になったらあれくらいいけるわ~」
あっちの深緑の12とか13指して言う。
「いやいや、そこまで筋力上がらないって」
「そんなことないわ~。可能性は無限だ~い」
ポジティブに応援したと思ったら、声を落として・顔を翳らせてネガティブになにか漏らす。
「……私が言っても説得力ないわね~」
「え?」
「なんでもないわ~、行きましょ~・はじめましょ~」
選んだ黄色を・オレンジをそれぞれ持って、所定のレーンへ移動する。
頭上と机上の画面には――〝かれん〟・〝たくま〟と名前が出てた。
非常に恥ずかしい……。
「……今からでも苗字に変えてもらいません?」
敬語になったのはおいといて。巡条さんは用紙に下の名前で、しかもひらがなで記入した。
「どうして~? いいじゃな~い。苗字のほうが変よ~」
子どもの頃は下の名前でひらがな表記だったから、それが当たり前だという。……確かに。けど今ファミリーボウリングじゃないじゃないですか……これじゃカップルじゃないですか。
「ふふっ、仲のいい姉弟に見られそうね~」
そうかな……あ、そうか。制服同士だけど巡条さん大人っぽい――大人だ――からそっちか。
「投げていい~?」
「どうぞどうぞ」
1ゲーム目がスタート。2ゲームやる予定で勝ったほうがなんでも言えることになってる。勝つっていうのはもちろん自分のほうが高スコアってことで、1ゲーム終わりの中間結果も。つまり都合2回望みを叶えられる。連勝して髪ほどいてもらうんだ・連絡先教えてもらうんだ。
「この感じ久しぶりだわ~。ボールみたいに吸い込まれそうな遠近か~ん」
レーンの前に立って構えてる・つぶやいてる。その後ろ姿の背筋の・スタイルのよさったら。手足もスカートも長い。肩も腰も丸い。露出してるとこは足首くらいのものなのに裸が浮かぶ。
……お尻を中心に透視してる場合じゃない。ぎこちない・しまらないフォームで投げた。
思った以上に球が遅い・弱い。でもコースは良くて真ん中やや右に向かってまっすぐ進む。
カコォン! ぜんぶ倒れた!
「いきなりストライク~!」
いきなりストライク~!? かれこれ4、5年ぶりとか言ってましたけどほんとですか!?
こっち戻ってきて片手を挙げて――下ろした。……ハイタッチしようとしてくれました?
「ブランクはあるけれどやっぱり年の功ね~。これは私、勝っちゃうかも~?」
隣に腰かけて小首をかしげて挑発してくる。口の端のほくろ辺りに人差し指まで当てて可憐。
正直なんとなく下手だと・楽勝だと見なしてた……。
「ま、まだはじまったばかりだよ」
間近に座られて逃げるように立ってボール取って、見られてると思うと緊張して投げて――
ガタン。左溝に落ちた。
「…………」
いきなりガーター……。
かっこ悪いな・幸先悪いなってとぼとぼ戻る。巡条さんは優しくほほ笑んで意地悪く言った。
「ガーターを防ぐ――柵~? 上げてもらう~?」
「上げてもらいません!」
コン、コォン、ガタン、コン、ガタン、コォン、コン、コォン、ガタン、カコォン――
コンは数ピン・コォンは多数ピンといったところ。お互い10回投げ合った。結果は――




