第4話「……新種目みたいだね。ハードルくぐり」
Q.収録……? A.あっ、えっと~……ええ、週6! 数年前まで週6で着たものよ~。なんて答えが返ってきた。でも口すべらせたみたいに焦ってたし、イントネーションが違う。週6じゃなくて収録に聞こえた。けど――収録? ニューチューブとか? やってたのかな?
……探せばあるかな・観れるかな。
ところで授業はじまってる、ハードルやってる。
「9秒15」
「っしゃ!」
「こけろ!」
黄島琉菜が飛び跳ねて喜び、緑原玲菜が憎まれ口を叩く。ともになんか運動部で2軍+のダブルボス、3ギャルとも馬が・交流があって1軍でもある。黒川・赤崎・青山・黄島・緑原――うちのクラスの五大女子だ。国でいうなら米英仏独伊だ。それに比べ僕と巡条さんなんか名も力もなき四等国。戦争になれば無残に敗れる・潰される。
もうなってる……。
「黄島さんすご~い・はや~い。みんな上手に跳ぶわね~……」
裏を返せば自分はこけそうと取れた。周りからやや離れたところでぽつんとふたりぼっち。別にイチャついてないけどラブラブに映ってるらしい。こそこそ見てろ・ひそひそ話してろ。奴らも体育も好きじゃないにせよ、昼休みくらい巡条さんと一緒にいれる時間だったりする。まあ今は幸せったらない天国でも、男女で分かれる競技になったらいたたまれない地獄……。
「あれって蹴り倒すのはアリかしら~・ダメかしら~……?」
「……ダメだよ」
ハードルは跳び越えないと……。第一巡条さんが蹴り倒すとかよくないよ・想像つかないよ。
「下をくぐるのは~……?」
「……新種目みたいだね。ハードルくぐり」
「も~ぅ、雪佐くんのいじわる~」
「なんで!? 僕の一言で・一存でなんでもありにはならないよ!」
「ふふっ、冗談よ~」
肩を軽く叩かれた。口に手を添えてクスクス笑ってる。
……これはちょっとイチャイチャして見えるかな。ボディータッチにドキドキしてしまう。
「はぁ~、もうすぐね~……。ただでさえ恥ずかしいのに跳んでいくのは難しいわ~……」
今もう〝き〟だから巡条さんの〝じ(し)〟まで残りくけこさ。ちなみに出席番号は男女別。僕は・男子はすでにやり終えてる。恥ずかしかった。次は〝く〟――といえば黒川しかない。
巨乳をゆさゆさ速かった・エロかった。……じゃない・見てない! あんな性悪女興味ない!
〝け〟はいなくて小林・佐藤と続く。そして巡条さんの番が巡ってきた。普通に〝巡〟だけに。
「い、行ってくるわね~。できたら見ないでね~……?」
見ます!
その直後。巡条さんが離れるのを狙いすましたように、入れ替わりで前田が来た・言った。
「おいセッタ、ちょい来い」
だから誰が雪駄だ・履き物だ……。セッタサクマじゃないんだよ、セッサタクマだよ……。ヤンキー相手にですます調になるほど気弱じゃないけど、ノーと・えーと言えるほどでもない。
巡条さんの四肢を・勇姿を見たかったのに、ついてかざるをえなかった。
連行されたのはグランドの端にある体育館倉庫の裏。……嫌な予感が・冷汗が。
「おまえ、昨日・おとといって萌々奈に突っかかったって?」
「え……ま、まあ」
おとといはともかく昨日は突っかかられた側。誠意見えたら教科書返すって因縁つけられて。
「生まれてくんなゴミクズっつったのか?」
「いや……それは……」
確かに言った、言ったけど。巡条さんを殴った仕返しにガツンと言葉で殴ってやったまで。
「つったんだな? わかった」
納得したのか背を向けて去ると見せかけて――勢いよく反転して・助走して跳び蹴られた。
「ごふっ……!」
腹に直撃でうめく・膝をつく。間も容赦もなく足が・拳が飛んでくる。
「調子乗ってんじゃねーぞゴミクズがっ! 誰のカノジョだ思ってんだオラっ!」
女の黒川の比じゃない強烈な乱打でひとたまりもない。あいつもこいつも野蛮だ・凶暴だ。
頭を守って体を丸めて無様にダンゴムシ。それでも痛いものは痛い。初撃のおなかも痛む。
「ナメたマネしやがってザコがオラっ! ザコぼっちはおとなしく存在感消してろよ……!」
頭を踏みつけられてぐりぐりされる。あたかも虫けらをあとかたもなくすり潰すがごとく。
トドメに唾を・脅しをかけられる。
「もっぺん萌々奈に・茉那未那にケンカ売ってみろ。こんなもんじゃねーぞ、半殺しにするぞ」
それだけ言ってまた背を向けて今度こそ去った。
「…………」
ったく、痛いな・汚いな……人目は避けやがったけど1対1はぐうの音も出ないな……。
グランドに戻ると巡条さんの番は終わってた。心配したような顔で早足で駆け寄ってくる。
「雪佐く~ん……? どこに行っていたの~?」
「見ないでって言うからちょうどトイレ行ってた。で、どうだった?」
一応ぜんぶ跳べたというか、直前で止まってまたいだとか。……かわいいな・見たかったな。
◎




