第3話「食べたあとの体育はつらいけれど~、食べる前も結局つらいのよね~……」
ゴルァの・こて~んの明くる日、下駄箱から上履きが消えた。僕も巡条さんもふたりとも。思い当たる節も奴も黒川しかない。朝っぱらからムカっぱら。即刻返してもらわないと困る。でも巡条さんに止められた。
『きっとまたケンカになっちゃうわ~』
かといって上履きは……。あ、なら体育館シューズで応急しとこう。そう提案したけどやんわり・ふんわり却下された。
『ん~、体育館シューズを校舎シューズにしちゃうと~、体育館で履けなくなっちゃうわ~』
つまりが汚しちゃうから~。正直大げさなって思ったけど、そういうところがらしい・優しい。
1時間目はやむなくふたりして靴下素足だった。男の僕はまだいい、やるせない・許せない。やっぱりなんとか巡条さんのだけは取り返そう。対黒川をあれこれ考えてたら授業終わった。巡条さんは上履きの代わりを考えてたらしい、休み時間になるなり喜色満面『スリッパ~!』教室を出て職員室に行って緑のスリッパを借りてきた・履いてきた。僕の分までありがとう。なんて言ったのか知らないけど盗られたとは口にしてないとか。うん、チクらないほうがいい。チラっと黒川見たら鼻で笑われた。この緑ッパではたきたい。グーパンパンチラキック女め。
続く2時間目終わりの休み時間はなにごともなく――3時間目が今終わった。次は体育だ。着替えは普通に別々で女子が教室を出てく。巡条さんがひとりになる・心配になる……。
「食べたあとの体育はつらいけれど~、食べる前も結局つらいのよね~……」
「はは……というか何時間目でもつらいよね。わざわざ着替えて外出るの自体」
そうよね~と同意・苦笑い。じゃあ気をつけてと念を押す。
「は~い。……そ、それでね~? あの~……その~……」
視線は斜め下に毛先をくるくる言いにくそうにする。いったいなんだろう、かわいいだろう?
少しのあいだもじもじ・ごにょごにょ。そうして言った。
「せ、雪佐くんって~……脚が~……好きなの~……?」
「え? ……え?」
二度見ならぬ二度え。やぶから棒になんですか……?
「だからその~……脚が~……なんていうの~……? た……た、たまらないの~……?」
昨日私のむき出しの脚を穴があくほど見ていたから~!? 私は穴に入りたかったわ~!?
「いや……まあ……はい……。た……たま――らないです……」
自然と敬語に・Mになる。それはともかく脚っていったら男のフェチの最たるものと思う。まず胸をフェチとして言い張るのは馬鹿げてる。おっぱいなんて誰もが好きだ、ずばり白飯だ。尻はたとえるにパン。主食だから胸と競合してしまう。よって第三軍たる脚が勝鬨をあげる。腕よりもワキよりも、ましてやヘソよりも間違いなく強い。ミニスカート・ホットパンツ最強。
「そ、そう……やっぱりたまらないのね~……。わ、わかったわ~」
◎
なにがわかったのか微塵もわからない……。グランドに出てぼっち、所在ない・心もとない。教室ぼっちは苦じゃないけど体育ぼっちは割とキツい。まざまざ・むざむざ孤独をさらされる。チームスポーツがとくに大嫌いなのもそう。空気とはいえ無理やり輪のなか入れられるから。けど今は幸い陸上競技。50m走だの走り幅跳び・高跳びだのソロだからマシ。今日はハードル。
女子もそろそろ・ぞろぞろやってきた。ぱっと見ただけですぐわかる、巡条さんはまだだ。ひとりだけ長袖・長ズボン、濃いめというか暗めの赤ジャージだから(学年ごとに色が異なる)。ふたりぼっちなんだし僕もそうしようかな。いや、絶対おそろいコーデとかって笑われる……。
「雪佐く~ん……」
「わっ!」
消え入りそうで恥じ入ってそうな小声だったけど、後ろから間近で呼ばれてビックリした。
あれ……群れにいたかな・見落としたかな。
「ご、ごめん、巡条さ――ん……?」
「…………」
顔も耳も真っ赤にうつむいていて目元が隠れていて、寒くもないのに自分をかき抱いてる。
なんと半袖・半ズボンだった!
「どっ……ど……どうしたんですか……?」
Tシャツ・短パンから伸びる肌の白いこと! 昨日のスカートと違って別にエロくはない。見慣れた腕も白くて綺麗としか。考えてみれば体操服に色気はない、巡条さん本人にこそある。
どうしたと聞きつつ内心喜んだものの――はっとした。
「もしかして盗られた・隠された!? 黒川あいつ……!」
「ま、待って、違うの~……」
ささやかだけれど日頃のお礼だという。
「お礼? ……お礼?」
「ほら~、その~……お勉強を見てくれる・教えてくれる……お礼~」
だって脚、たまらないんでしょ~? それはまあ……そうですけど……。
「あ~ん、嬉しくなかった~……? そうよね~、おばさんがこんな、短パンだなんて~……」
「おばさんじゃないです、嬉しいです! や、やったー!」
苦しまぎれみたいだけどほんとにやったー! ぜんぜん無理ない・遜色ない、ナンバーワン! 女子らは単に好奇の目かもしれないけど、男子どもは好色なまなざしでチラチラ見てきてる。
そんな視線を巡条さんは否定的に捉えた。
「や、やっぱり変かしら~……。ジャージだったら数年前まで収録で着て慣れっこだけれど~」
◎




