第4話「私のアワビってなんですか~? わかりかねま~す」
「お姉さーん、とりあえず生でー!」
「は~い」
「すいませーん、ビールおかわりくださーい」
「は~い」
「巡ちゃあん、おじふぁんと呑んふぇくらはぁい、ひっく」
「は~い。……じゃないです~、そういうお店じゃないです~」
私が働く居酒屋さん、轟さ~ん。アットホームで笑顔もお客さんも絶えないの~。個人経営のこぢんまりとした老舗だけれど~、有名人さんもお忍びでお越しになられるわ~。壁のサインも常連さんもいっぱいで~、サラリーマンさん・大学生さんで連日大にぎわ~い。
ビールビールっと~。
「姉ちゃーん、アワビいっちょー」
「あ、は~い」
「巡ちゃあん、巡ちゃんのアワビいっちょお、えっく」
「私のアワビってなんですか~? わかりかねま~す」
西さんったらべろべろに酔っちゃって~。部下の岸さんが申し訳なさそうにしてますよ~?
アワビを厨房にお伝えしてビールを入れて~。2つのジョッキを両手に持って運びま~す。これが意外と重いの~・つらいの~……。嬉しくないことに腕が少し太くなっちゃって~……。
「お待たせいたしました~、ビールになりま~す」
白いブラウスのOLさんは会釈をしたわ~。紺のつなぎの若い作業員さんは質問も~。
「お姉さん、大学生?」
「いえ、高校生で~す」
「高校生? はー、大人びてるねぇ」
「よ、よく言われま~す……うふふ」
立派じゃないけれどれっきとした大人で~す……。
「初めて来たんだけどここっておつまみ、なにがオススメ?」
「そうですね~、もろきゅう・たこわさがとくに人気で~す」
「ふーん、そっかぁ」
壁に張ってあるお品書きを見て悩んでいて~、少ししてお決めになられました~。
「枝豆で」
「は~い、かしこまりました~」
もろきゅう・たこわさがとくに人気で~す……。
「巡ちゃあん! 来てくれぇい・聞いてくれぇい!」
「は~い、なんでしょ~?」
カウンターからテーブルへ~。
「お忙しいのにすみません、こんな酔っ払いの相手……」
「いえいえ~、なんでもお申しつけくださいね~」
「〆におにぎりが食いたいんじゃあ!」
「まぁ~、おにぎりですね~、かしこまりました~。普段はラーメンなのに珍しいですね~?」
「巡ちゃんの握ったメシが食いたいんじゃあ!」
ん~、困ったわ~・岸さんあきれたわ~……。
「あの~、私は調理はいたしませ~ん……」
「いたさないとはなんじゃあ! やじゃやじゃやじゃあ!」
岸さんパーンってはたいちゃった~! よっぽどだわ~……。
「本当にすみません、もう行ってください……これ以上ご迷惑をかけないうちに帰ります」
お言葉に甘えて厨房へ~。忘れずに枝豆をお伝えしたわ~。
キッチンはご主人さんと男の子ふたりで~、ホールは女の子2、3人体制でやっているの~。アルバイトさんは全員で8人くらいかしら~、私より少し下の二十歳くらいの子が多いわ~。
「大人気ね、巡ちゃん?」
シフトがまったく同じ(月・火・金)21歳・大学3年生の鈴木さんに皮肉られたわ~……。17歳からこちらで働いているようだから先輩になるの~。歳は下でも学年・職歴は上なの~。
「お客様と話すのはいいけどのんびりしすぎ。あなたのその話しかた、どうにかならないの?」
「すみませ~ん……」
「チッ」
あ~ん、舌打ちされちゃった~……。私ってグズだから・ドジだから嫌われているの~……。
「これ、からあげ・メンチカツ・焼き鳥の盛り合わせ、それにアワビ。さっさと持ってって」
「は、は~い」
「はいは伸ばさなくていい」
はいは一回でいいんじゃ――なんでもありませ~ん。鈴木さんは急ぎレジに~、お会計に~。
まずからあげ・メンチカツをお持ちして~、焼き鳥の盛り合わせとアワビをよいしょっと~。
「お待たせいたしました~、焼きと――きゃっ!」
がらがらがっしゃ~ん! つまずいて転んじゃった~・ぶちまけちゃった~……いった~い。
前にこけたのになぜか仰向いていて~、股間にアワビが乗っちゃって~……。
あっ! 巡ちゃんのアワビって――そういうこと~!? いや~ん、も~ぅ、うふふふふ!
笑っている場合じゃなかったわ~……慌ててやってきた鈴木さんにどやされました~……。
「巡条~~~~~~~~~~~~!」
◎




