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3/3

バッドエンドのその先で

「え、えーっと、これはどういうことなのでしょうか、リルート」


 わたしはベッドで眠っていました。

 リルートがやって来て覆い被さってきました。

 とても真剣な眼差しでわたしのことをじーっと見てきます。


 さて、問題です。

 わたしは何故このような状況に陥っているのでしょうか。

 答えは……わたしにも分かりません。

 だから問いているのです、リルートに。


「敬語はやめろと言ったはずだが?」


 この状況で真面目に注意してくる。

 わたしは溜息を漏らそうとしたが、ここでするのはやめておいたほうがいいと思い我慢した。


「分かった。で、なんでわたしの上にいるの?」

「試してみたいことがあったからだ」

「それは何?」


 敬語をやめ普通にタメ口で話すと聞いてくれる。

 そして一向にわたしの上から移動しない。


 試してみたいことって、なんなんだ。

 それに試したいからって女性の上に乗るのは流石に非常識では?

 まあ仕方ないか、だって皇子なんだから。

 自分のことを信じているし正しいと思って行動しているから、わたしが何を言っても意味がないからね。


「ファナライアがどんな女なのかを知りたくてな」

「はぁ? わたしを知りたいから上に乗るってどういうことなの? さっぱり意味が分かんないんだけど」


 わたしは決めた。

 敬語はやめて話せと言われたのだから、タメ口でガンガン話して文句も言ってやる。

 だってわたし、明日死ぬんだから。

 今くらいは自由にしてやる!


「説明した方がいいか。ファナライアはしなかったからな」


 リルートの説明はわたしからしたら何言ってんだって思うようなことだけど、リルートからしたら当たり前みたいだった。


 要約すると自分が襲おうとすると普通に受け入れる女性か襲い返してくる女性、または何もせずとも襲ってくる女性ばかりだったそう。

 だから拒否るどころか冷静に説明を求めて来たわたしが、面白かったそうでますます気に入ったらしい。


「へぇ、じゃあ離れてくれる?」

「いいや、ダメだな」

「なんで?」


 理由も聞いたしわたしが襲わないことも分かったのに、何故まだ離れようとしない。

 何か裏があるのだろうけど、その裏がなんなのか皆目見当がつかない。


「気に入ったからだ」

「……? 理由になっていないような気がするんだけど」


 気に入ったからこんなことをやめないって、どういうことなんだ。

 わたしは気に入られること自体は別にいいと思っているけど、こんなことをされたくはないな。

 あとこれって、完全にわたしが襲われてるよね?


「よおし、分かった。じゃあ一緒に寝よう。それでいいでしょ?」


 流石にここで襲われるのはごめんだ。

 ならばどうにかしてこの場を流さなければ。


「……仕方ないな。今日はこれで許してやろう」


 そう言ってわたしの隣に来て、すぐに眠ってしまった。

 すぅーすぅーと可愛い寝息をたてながら、可愛らしい寝顔見せて寝たようだ。


 可愛い寝顔。

 リルートは一度寝たら余程のことが無い限り八時間睡眠を徹底する。

 だから今なら逃げることができる。


 時計を見ると今は朝の八時らしい。

 ここから八時間は昼の十六時。

 わたしが一人で歩いていけば学園にはすぐに着くだろう。


 大人しく処刑される方がマシな気がする。

 あの王子ならばもしかすればリルートを殺しかねない。


 それにしてもわたしが目を覚ますまでずっと起きててくれたのかな?

 そうしないとこんなすぐに眠れるわけがない。


 早めに行こうかな。

 これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


「さよなら、リルート」


 わたしはリルートの額にキスをして、この部屋から出て行った。


###


「やっと、やっと学園に着いた」


 乙女ゲームの世界だから、リルートの屋敷も出てこなかったしそもそも学園の外の様子も一切描かれなかった。

 そのせいで予想よりも長い時間でここに着くことになったな。

 もう既に十五時半。


 リルートの屋敷の使用人からご飯を食べさせてもらったときが、十三時だったからな。

 恐らく出来る限り出発する時間を延ばしたかったのだろうけど、最終的には無理矢理出て行ったからな。

 そう考えると五時間も足止めされていたのか。

 使用人達もリルートのためにわたしを足止めして、リルートを起こそうとしたんだろうけど、結局起きはせずにわたしが屋敷を後にしたからね。


「遅いぞ」


 そう冷たく言ってきたのはジーク王子。

 やはりと言うべきか、周りにいる三人の攻略対象は、わたしのことをゴミのように見てくる。

 ジーク王子はもう見てもくれない有様、辛うじて見ているかなくらい。


「済みません」


 わたしは素直に謝った。

 その場には続々と人が集まってくる。


「それにしてもリルート皇子は連れてこなかったみたいだな。まあ連れてきたところで、どうなるかは目に見えているが」


 やっぱりリルートが来たら、何かするつもりだったんだな。

 殺害か暴力か、わたしの目の前で行うに決まっている。

 けれど決してラフィには見えないように聞こえないように配慮する。


 全くどうしてこうなったのか。

 周りからはわたしは悪役令嬢だけど、わたしからしたらラフィの方が悪役令嬢……いや悪女という言葉が似合っているまである。


 わたしは大人しくラフィと攻略対象四人の前に行こうと踏み出す。

 いや踏み出そうとした、のに何故……。


「逃げるなと言っただろ、ファナライア」

「へ? なんでここに?」


 何故、来たんだろう。

 わたしが来て欲しくて来て欲しくない人が、ここに来てしまった、来てくれた。

 二つの相反する感情が思いが、わたしの中でぶつかり合う。


 リルートは腕を掴み、踏み出す足を止めてくれた。


「追いかけに来たに決まってるだろ。生憎オレは一度決めた相手は逃がさないと決めているんでな」


 逃げるな。

 わたしはリルートを傷付けないために去ったのに、リルートからしたらわたしが逃げたことになっていた。

 そもそも一度寝たらキッチリ八時間後にしか起きないリルートが、何故今この場にいるのか。

 そんな疑問も浮かんだけど、今はただただ嬉しかった。


 来て欲しいと望み叶った想いがわたしの中で勝った。

 だから嬉しかった。


「なあ、王子。オレはファナライアを貰う。文句を言うなら、ここで殺してもいいし帝国と王国の全面戦争を起こしてもいい。その覚悟があってオレの女を殺そうとしているのか?」


 リルートは剣を抜こうとする。

 その姿に怯えてしまう王子達。

 わたしには分からないけど、多分とても凄いくらいの殺気を与えているのだろう。


 帝国と王国じゃ戦力差があり過ぎて、確実に王国が負ける。

 自分の死か国の死か、どちらかを捧げてまでわたしを殺そうとはしない。


「わっ、分かった。好きにするがいい」


 怯えながら声を絞り出しながらリルートに向かって言った。


「そうか、ではな」


 そう言ってわたしを連れてその場を一緒に去った。


###


「何故オレから逃げた?」

「それは……」


 わたしは口籠もり、理由を言えなくなってしまう。

 リルートはわたしの両手をギュッと握り締めて、わたしを出来る限り安心させようとしてくれた。


「嘘は嫌いだ」

「そうですよね。……分かりました。えっと、あの、ですね……非常に申し上げにくいのですが、リルートに危険があるかもと思ったからで。いや、勿論、リルートが間抜けな真似するとは思ってないよ。でも万が一があるかもだし念には念をって言うじゃんか? だから一人で行こうと思って」


 わたしは理由と言い訳を同時に怒涛の勢いで言った。

 この勢いで乗り切ろうとする。


「へぇ、そうか。じゃあオレのことを信じていなかったわけか」

「い、いや、まあ、そうでもあるようなないような、感じですね……」


 痛いとこを突いてくるリルート。

 わたしはどっちつかずの返答をした。


 わたしはリルートを信じていなかったわけじゃないけど、心配だったわけだから。

 リルートのためを思って……いや、自分が安心するため、か。


「敬語はやめろ」

「えっ、うん。分かった。あっ、それとオレの女ってどういうこと? わたし、なったつもりないんだけど」


 オレの女って、まあ悪い気分ではない……というか良い気分ですらある。

 でもどれがどうなってそうなったのかがさっぱり理解できないのだが。


「それって、面白い奴だから?」

「……まあ、そうだな」


 わたしはのちに知ることとなる。

 これが嘘だということに。

 リルートが最初で最後の嘘をわたしに言ったことを。


 それを知ったのはわたしとリルートが結ばれたあとで。

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