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バッドエンドを超えるバッドエンド

 現在わたしはリルート皇子に手を引かれどこかへと連れて行かれています。

 はてさてわたしはどうなってしまうのでしょうか。


「あ、あの、リルート皇子、どこへ行かれるんでしょうか?」

「リルートでいい」

「はい?」


 今の返事の意味が全く分からない。

 何故どこへ行くのか聞いたのに、自分の名前を言ったのだろう。

 思わず聞き返してしまったではないか。


「オレのことはリルートと呼べ。皇子などという敬称は要らん」

「えっ、でも……」


 わたしがリルート皇子のことを呼び捨てで呼んだら、周りの人からどんな目で見られるか分かったもんじゃない。

 ただでさえ国外追放という刑罰が下っているのだ。

 呼び捨てで呼んで、リルート皇子の家臣に何か言われるかもしれないではないか。


「呼べないのか?」

「は、はい、分かりました」


 圧が、圧が凄い。

 こんな圧、一度も味わったことないよ。

 これを前に無理とか言えるわけがない。

 言える奴は勇者か馬鹿のどちらかで、わたしはどっちにもなれないただの平民ポジション。

 今は悪役令嬢ポジなんだけどね。


「では呼べ、オレの名を」

「り、リルート、様……」

「そうか、オレの名は呼べないと……」

「ちっ、違います! これは、その、ですね。恐れ多くて、わたしみたいな身分の低い人間が敬称なしで呼んでいいお人ではないですから」


 わたしは子爵令嬢でリルート皇子は帝国の皇子なのだから、身分の差がありすぎる。

 そう考えるとこの乙女ゲーム、わたしと王子じゃ釣り合わないよね。

 寧ろラフィが王子と結婚するのが正しいし、身分的。


 わたしが言い訳をすると、思いっきり睨みつけてくる。

 仕方ないと思い、名前を呼ぶことにした。

 てか名前呼ばないと殺されそうだし。


「リルート……。これでいいですか?」

「あ、ああ、いいぞ」

「……何照れてるんですか。自分で呼べって言ったくせに」


 わたしが仕方なくリルート皇子の名前を呼ぶと、リルート皇子は頰を紅く染めて照れている。

 照れていることを指摘すると、リルート皇子がさっきよりも強く睨んできた。


 皇子が照れている姿は乙女ゲームには無いシーンだ。

 そんな顔を見れるなんて得しているな。


「照れてなど無い。ただ顔が熱くなっただけだ」


 それは照れたから熱くなってるでしょ。

 そう言いたかったけどまた睨まれるかもしれないと思い、言うのをやめた。


「それで、どこに行くんでしょう」

「どこ? ああ、言っていなかったな。一晩オレの屋敷に泊まってもらう」

「……? ど、どういうことでしょう? 言っている意味がさっぱり分からないのですが」


 言葉は理解できるのだが、意味が理解できない。

 意味というより、何故そんな思考になったのかを説明してほしい。


「ファナライアは帰る場所はないだろ?」

「た、確かに」


 今のわたしに味方してくれる人など、このリルート皇子以外居ない。

 両親でさえ王子が決めたことに反対することは出来ず、あっさりわたしを引き渡すだろう。

 帰る場所がなく、泊まれる場所もない。

 わたしは今一文なしだから、泊めてくれる人なんて存在しない。

 ただで泊めてくれてわたしを絶対に王子に引き渡さない人物と言えば、この人以外この世には居ないと言えるだろう。


 国外追放を唯一回避するためには、リルート皇子に頼る他ないしな。

 ここは大人しく泊めてもらうべきか。


「分かりました。ありがたく泊めてもらいたいと思います」


 でも何故リルート皇子はここまでしてわたしに協力してくれるのだろうか。

 わたしに協力したところでメリットなど1ミリもないだろうし、寧ろ多大なデメリットが出てくるはずなのに。


 これは優しさから来ているのか、はたまた何か裏があっての行動なのか。

 まあこの際どちらでもいい。

 わたしが助かるなら些細なことだろう。


「じゃあ、敬語もやめろ」

「敬語も、ですか?」

「出来ないのなら、助けないぞ」


 敬語をやめないといけないって、無茶振りにも程があるでしょ。

 皇子という生き物は甘やかされて育ったから、こんなに我儘な人物になるのか?


 それにしても脅しだよね、これ?

 わたし、なんで脅されてるの?

 何か悪いことでもしましたかね。

 いいやしていないはず、それどころかそういうことをされないようになるべく慎重に言葉を選んだつもりだったんだが。

 もしかしてこっちと向こうの言葉遣いが違うから?

 それとも出会った時の第一声を今も根に持っている?


 ここは従うしか無い。

 敬称と同じことを繰り返したら、殺されかねないからな。


「はい……じゃなくて、分かったわ、リルート」


 これで良いでしょ? 良いよね?

 なんたって敬語じゃなくしたし、リルートって敬称無しで呼んだし。

 完璧と言っても良いくらいの出来栄えだ。


「及第点だな」

「これで及第点っておかしい! 幾らなんでもわたしのことを舐めすぎ。今のは完璧で最高傑作と言っても過言じゃない。リルートの馬鹿! 阿保!」


 わたしはリルートの及第点という言葉にムカッと来てしまい、暴言を吐いてしまった。

 そして言い終わった後にスッキリしたが、その数秒後完全にやってしまったと思った。


 最後のは流石にやり過ぎ。

 馬鹿と阿保は言っちゃいけないし、リルートに対しては言ってはいけない言葉に入るだろう。

 リルートはこんなことを言ってきたが、帝国の皇子なのだ。

 皇子を侮辱したとあれば国家反逆罪みたいな罪に当てはまり、帝国からも追われるような人生を送る羽目になりかねない。


 さらばわたしの人生、もう一度転生出来るように神様に祈ります。


 ここは逃げよう。

 もう皇子に救ってもらう道も絶たれた。


 わたしはその考えに至り、リルートの手を振り払おうとする。

 けれどリルートは今までよりも強い力で手を握ってきて、振り解くことが困難。


「何故逃げようとする?」

「い、いやぁ、あのですね。わたし、殺されちゃいます?」


 一応確認してみる。

 ここで殺さないと言ったら大人しくついていくけど、殺すと言われたら何が何でも逃げてやる。

 リルートは嘘は嫌いだから、自分も決して嘘をつかない。

 だからどっちに転ぶかでわたしの運命が決まってしまう。


「殺す? ……あ、ああ、そういうことか。さっきの暴言で殺されると思ったのか」


 ハッハッハと高らかに笑うリルート。

 なんで笑っているのか、わたしには分からなかった。

 それにその笑いがどういう意味で笑っているのか怖くて、ビクビクと怯えてしまっているわたし。


「別に殺しはしない。オレにあんなことを言ってきた奴が初めてでな、嬉しかったんだよ」

「へ? 嬉しい?」


 何言ってるんだ、この人。

 リルートってもしやドM、なのか?

 新発見をしてしまった。

 あのカッコいいリルートがまさかドMだったなんて。


「ああ、オレに対して、あんなに正直にものを言い、自分の気持ちをぶつけてきた人間など誰一人として居なかったからな」

「そ、そういう意味ね」


 なんだ、ドMじゃなくて、初めてで嬉しかっただけか。

 でもリルートの初めてになれたのはちょっと嬉しい、けど、これっきりだ。

 リルートが本気で怒ったら、わたしが死にかねないから。


「もう逃げるなよ。お前みたいな面白い奴、逃したくないからな」


 面白いから逃したく無いって、なんか微妙に傷付くんだけど。

 まあポジティブに考えれば、守ってくれるってことだよね。


「それで、どうやってリルートの屋敷に向かうの? わたしが居たら足手まといになると思うんだけど」

「だろうな」


 うん、足手まといのところ否定してほしかったな。

 嘘をつけないリルートだから正直に言ったんだろうけど、たまには嘘をつくことも覚えるべきだと思う。


「まあ、見てろ」


 その台詞をリルートが言ったのとほぼ同時に出口へと着いた。

 そこには騎士がわたしを待ち構えていた。


「待て! お前、ファナライア・コーリッフだな。お前を……」

「待つのはお前達の方だ」


 騎士の一人がわたしの方に近付くと、リルートが持っていた剣をゆっくりと抜き、その騎士に刃先を向けた。

 騎士はビクっと驚き、後ろに構えていた騎士達は慌てて剣を抜いた。


 わたし、完全に罪人扱いされているな。

 まあ王子に国外追放を言い渡されたのだから、罪人扱いされても仕方ないことなのかもしれない。


「な、何者だ! 俺達は王子の命令でこの場に立っている。それを妨げるということの意味をお前を理解しているのか! 国家反逆罪に問われるんだぞ!」

「理解しているさ。でもな生憎オレはこの国の人間じゃないんでね。これが分かるか?」


 リルートがそう言って見せたのは、一つの指輪だった。

 その指輪にはサファイアが埋め込まれており、サファイアにある文字が刻み込まれていた。


 あの指輪って、帝国の皇族の証。

 リルートも皇子なのだから、持っていて当たり前か。


 確かこの皇族だけが持つ指輪を授けることがプロポーズっていう設定だったよね。

 皇族の一員になれ、そしてオレの妻になれっていう意味を込めて相手に授ける。


「なんだ、指輪か。そんな物がどうかし……」

「やめろ! ソイツ、いやそのお方は帝国の皇子だぞ!」


 わたしに近付こうとしてきた騎士はこの指輪の意味を知らずに近付こうとしてきたが、騎士達の一人がその指輪の意味を知っていたようでその騎士を止めた。


 良かったね、止めてもらえて。

 ここで殺されても文句は言えない。

 何故ならそういう身分の人に楯突いたってことだから。


「帝国の皇子? まさか……すっ、済みませんでした!」


 相手が帝国の皇子と分かった瞬間に、その騎士は頭を思いっきり下げて謝ってきた。

 そして後ろの騎士達も頭を下げ謝ってくる。


 謝る以外の手段がここにはないからね。


「いやいい、ここを通らせてくれればなんの問題もない」

「いいや! 問題はある!」


 聞き覚えのある声がわたしの耳に響いた。

 そもそも皇子にこんな口を聞ける馬鹿はここに一人しかいない。


 ジーク王子はたった一人でここに来た。

 周りにはいつもの取り巻きを連れずに一人で。


「リルート皇子! ソイツは罪人だ! 僕達が処分する権利がある!」


 処分って、人を物みたいに言わないでほしい。

 それに国外追放されるんだから、リルートについて行けば帝国に国外追放されたことになる。

 十分だと思うんだけど、何か問題でもあるっていうの?


「王子、ファナライアは国外追放なんだろ? ならオレの国に連れて行く。そうしたら国外追放じゃないか。問題はないし、お互いに得する出来事なはずだ」

「いや、ソイツの罪は変わった。ラフィに近付いたらしいから、国外追放ではなく処刑へと変わったのだ」


 処刑って、どういうこと?

 ラフィに近付いたってどういう……もしかしてあのぶつかった時のこと?

 でもあれはラフィから来たのであって、わたしから近付いたわけじゃないから、処刑なんて理不尽過ぎる。


「要件はそれだけだ。処刑執行日は明日、生徒の前で殺してやるからな。楽しみにしておけ。じゃあ、な」


 そう言ってすぐに居なくなってしまった。

 少し震えが出てきて、頑張ってそれを隠そうと手をギュッと強く握った。


 王子、本気でわたしを殺す気だ。

 わたしは悪いことをした覚えはない。

 したのはわたしではなくファナライアなのに、なんで痛い思いをするのはわたしなんだ。


 リルートがいることは分かっているのに、それでもわたしを守ってくれると信じることは出来ない。

 わたしはこの世界を知っていても、直接関わってはいない。

 そんな中でついさっき知り合った人が絶対に助けてくれると信じることは到底不可能だ。


「……え?」


 わたしが下を向き震えをリルートに気付かれないようにしていると、リルートがわたしのことをぎゅーっと抱きしめてきた。


「オレが絶対に守ってみせるからな」


 リルートはとても優しい声でわたしを安心させることを言ってくれた。

 それに優しく抱きしめてくれていて、それはとても暖かい。


 守ってくれるのかな?

 本当に、わたしを。


「ありがとう、リルート」


 わたしはリルートに本気で感謝した。

 気休めの言葉だったのかもしれないけど、それでも今安心出来るだけでわたしは十分だと思った。


 そのままわたしはリルートの屋敷へと行った。

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